2019.08.14
組織づくりコラム
COLUMN
従業員満足度調査(ES調査)
従業員満足度(ES)を下げやすい要因
-職場環境-
本シリーズでは、従業員満足度を高めたり悪化させたりする数々の要因をご紹介しています。
要因を理解することで、企業や組織において、従業員満足度の改善や低下を予防する施策立案につながるヒントを得ていただこうという意図でお届けしています。
今回の記事では、おもに従業員満足度を下げる要因について解説していきます。
-関連記事:従業員満足度(Employee Satisfaction)とは何か?定義、研究事例、効用について紹介
https://www.realone-inc.com/information/es122091/
-関連記事:従業員満足度(Employee Satisfaction)を高めるには-仕事の内容や性質-
https://www.realone-inc.com/information/es807091/
【目次】
1.前回記事(従業員満足度を高める)の振り返り
2.従業員満足度を下げる組織的制約要因8つ
3.上司・職場仲間との関係が従業員満足度に与える影響
3-1. 上司が果たすべき4つの役割
4.給与と従業員満足度の関係
5.仕事のスケジュールと従業員満足度
5-1.フレックスタイム制度
5-2.長時間勤務で休日は多い
5-3.夜間勤務
5-4.パートタイム勤務
6.まとめ
1.前回記事の振り返り
前回記事では、従業員満足度を高める仕事の内容や性質についてご紹介しました。
職務特性理論から、従業員満足度を高める代表的な5つの仕事の特徴を確認していただき、「仕事の内容や性質」は自分の内側から沸き起こってくる満足感やモチベーションを生み出すための「内的な要因」と言われ、重要性が高いことをご理解いただけたと思います。
動機づけ・衛生要因理論において「従業員満足は仕事の内容から、不満足は仕事の環境から」という言葉で端的に表されるように、従業員満足度を高める要因と悪化させる要因は別物だということを確認していただきました。
それらを踏まえたうえで、仕事内容を充実化していくポイントや仕事上の役割についての注意点をご紹介しましたが、今回は、前回と同じ「仕事環境・仕事に関連した要因」の中でも、仕事の内容や性質以外の部分について触れていきたいと思います。
仕事の内容や性質が「内的な要因」であるのに対し、今回紹介する要因は「外的な要因」とされ、「動機づけ・衛生要因理論」では衛生要因にあたります。従業員満足度を高めるというよりは、主に不満足を生み出してしまう原因と考えられています。
当然ながら従業員の多くが不満を抱えている状況では、満足度を高めようと対策を施しても効果は上がりません。ちょうど車のアクセルとブレーキを同時に踏むようなものであり、従業員満足度を高めようとするのであれば、まず不満足の原因を解消する必要があります。
2.従業員満足度を下げる組織的制約要因8つ
従業員満足度に影響を及ぼす外的な要因としてまずご紹介したいのが職場環境です。
職場環境を扱った過去の研究では、従業員に自身の職務パフォーマンスを妨げる職場環境をたずねた結果、8つの制約要因を明らかにしています(Peters O’Conn, 1980)。
8つの組織的制約要因
1.職務に関連する情報:職務に必要とされる情報
2.道具や備品:職務に必要とされる道具や備品
3.材料や必需品:職務に必要とされる材料や必需品
4.予算的な支援:職務に必要なリソースを獲得するために必要な予算
5.他者の支援:上司や同僚など他者から得られる支援
6.仕事への備え:従業員が仕事に必要な能力を備えているか否か
7.利用可能な時間:仕事を行うのに必要十分な時間の量
8.職場環境:職務環境の物理的な状況
これらの制約要因が職場にあると、従業員は仕事のパフォーマンスが下がると考えているようです。この研究ではパフォーマンスへの影響を取り上げていますが、その後の調査で従業員満足度への影響も同じように確認されています(O’Connor, Peters, Rudolf, Pooyan, 1980)。
これら8つの制約要因をサラッと眺めると、「うちの会社は大丈夫」「必要なものは最低限整っている」などと漫然と安心し、あまり問題意識を感じないかもしれません。
しかし一つひとつを丁寧にチェックしていくと、思っている以上に制約条件に引っかかる企業も見受けられます。
例えば、技術者やエンジニアなどは、良い仕事をするためにも最新の道具やツールを求めますが、いつまでも古い道具やツールを使い続けている企業は多いようです。
あるいは、経営者や上司などがいまだに権力の源と言わんばかりに情報を抱え込んでいたり、タイムリーに必要な情報が行き渡らせず、不透明な組織風土になっている企業もあります。「現場で先輩の仕事を見て学べ」「自分で考えろ」と十分な教育の機会を提供せず、不安やストレスを抱える新卒社員や中途入社社員もいます。
その他挙げればきりがありませんが、やはり「必ず自社にも制約要因は存在する」という認識やスタンスで、定期的に現場の状況を確認し、従業員の声に耳を傾け改善し続けることが必要だと言えるのではないでしょうか。
3.上司や職場仲間との人間関係が従業員満足度に与える影響
組織的制約の「他者の支援」にもあるように、職場の人間関係は従業員満足度に大きな影響を及ぼします。なかでも管理職やマネージャーなど上司の果たす役割は大きく、良好な人間関係を築くことは、上司の仕事の中で最も重要な仕事の一つと言っても過言ではありません。
職場での出来事に対する反応や状況の認識を通して体験する認識、感情、モチベーションのことを、包括して「インナーワークライフ(個人的職務体験)」と呼びます(Amabile & Kramer, 2011)。
職場での日々の出来事を本人がどう解釈したか、どう感じたか、モチベーションにどう影響したかが、積極的、前向きなものであるほどインナーワークライフは充実し、その結果、従業員の創造性、コミットメント、生産性や同僚性(職場仲間が互いに支え合い、高め合っていく協働的な関係)といった企業のパフォーマンスに良い影響を及ぼすとされています。
研究では、職場の人間関係がインナーワークライフの充実に深く関わっていることが明らかになっています。研究者が「栄養ファクター(要因)」と命名しているように、職場の人間関係は、従業員が仕事に向かうためのエネルギーを補充する働きをしているようです。
3-1. 上司が果たすべき4つの役割
特に次の4つに分類される人間関係の出来事が重要であり、上司の果たすべき役割が指摘されています。
1.尊重
上司の行動から従業員が尊重されていると感じられるか。特に評価、部下のアイデアに真剣に耳を傾けること、誠実に向き合うこと、基本的な礼儀正しさが重要。
2.励まし
従業員を励ますこと。まず何よりも上司自身の熱意が重要であり、その熱意が部下に伝わっていく。仕事の重要性や、部下の力を信頼していることを伝えることが重要。
3.感情的サポート
上司が部下の感情に関心を示すこと。上司は部下の感情を素直に受け止めるだけでも効果的だが、共感することができればさらに効果を発揮する。
4.友好関係
職場仲間との相互信頼、理解、ときには(仲間としての)愛情を深める行為のこと。上司は職場での友好関係を促進させることに大きな役割を果たすことができる。
さらに加えるのであれば、職場の人間関係が「単に仲が良い」といったレベルではなく、企業や組織の目標や目的に向かって団結できているといった一段高いレベルの人間関係でなければあまり意味がないようです。
会社や仕事などへのグチといったネガティブな方向性や、趣味や世間話など表面的な話題で楽しく会話するというレベルでは、人間関係に困ることは少ないかもしれませんが、企業のパフォーマンスから考えれば効果は限定的であり、上司は職場でどのような関係性が築かれているのか、関係性の質にも着目をしてマネジメントする必要があります。
4.給与と従業員満足度の関係
道行く人に「社員の満足度を下げる要因として思い浮かぶのは何ですか?」とたずねれば、給与ほど回答に上がるキーワードはないと思います。多くの方が、給与は従業員満足度を決定する最大の要因だと認識しているようです。
しかしこれまでの研究では、給与水準と従業員満足度との間には驚くほど弱い関係しかないことが明らかになっています。関係性がほぼ存在しない(相関係数:0.17程度)と報告する論文もあるぐらいです(Spector, 1985)。
では、企業の人事担当者が従業員満足度の改善策を考えるときに、給与を検討の対象から外してもいいのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。実は給与に関して重要なのは、給与が多い少ないといった金額ではなく、公平性やその基となる比較が重要だとされています。
一般的に多くの人は、同じような仕事をしている他の人が、自分より多く稼いでいるかどうかに強く関心を持つ傾向があるようです。同じような仕事をする人と比べて自分の給料が低ければ、不満足度は極めて高まってしまうということが明らかになっています(Rice, Phillips, McFarlin, 1990)。
さらに、会社や組織の給与に関する方針や決定のプロセスも重要であり、公平性があると認識されなければ従業員の不満足度は高まってしまいます。もし自社の従業員の間に給与についての不満の声が聞かれるなと感じるのであれば、「給与を上げればいいんだろう」「人件費が上がるから検討できない」などと短絡的に考えるのではなく、背景にまで考えを及ぼして対処する必要があります。
一方で、一部の企業で導入が進む成果に連動した給与制度は、上記とは少し事情が異なり、給与の水準と従業員満足度との間に関係性が存在し、給与が増えるほど満足度も高くなるようです。
ただし成果連動型の給与制度は問題点が指摘されることも多く、成果を評価する方法やその公平性の確保に難しさがあるとされる制度です。内発的動機づけ(内側から自然に沸き起こってくるような満足感やモチベーション)との関係からも考慮すべき課題が多く、必ずしも成功している制度ではないため、導入検討には慎重さが求められます。
5.仕事のスケジュールと従業員満足度
最近は仕事に対する価値観の変化から働き方が多様になってきています。
「働き方改革」や「ワークライフバランス」なども注目されており、一人ひとりの人生や生活の質(Quality of Life)を高めようとする世の中の風潮は、企業や組織にも柔軟な対応を求めています。
そのような中で、働く時間や日数などのサイクルが変わることは従業員満足度にどのような影響を及ぼすのでしょうか。参考までに、これまでの研究調査で明らかにされている結果をご紹介します。
5-1.フレックスタイム制度
定時を決めず、従業員が働く時間を決められるフレックスタイムは、柔軟な働き方を実現する代表的な制度であり、導入する企業も多いようです。時間にとらわれず完全に個人に委ねるところもあれば、コアタイムを決め部分的に個人に委ねる場合もあります。
フレックスタイムの効果を調査した研究によると、従業員満足度に対する影響はプラスともマイナスとも言えず一貫した結論が出ていないようです。むしろ従業員が慣れてしまうため、効果があったとしても一時的だとする報告もあります(Krausz & Freibach, 1983)。
しかし、フレックスタイム導入が欠勤の減少につながったという調査結果もあり、従業員満足度とは違った面で効果的なのかもしれません。
5-2.長時間勤務で休日は多い
多くの企業では一日8時間、週5日の勤務が標準的ですが、一日の勤務時間が長く、その代わり勤務日数が少ない仕事もあります(例:医療従事者、ドライバーなど)。
そのような勤務サイクルの違いを調べた研究によると、標準的な勤務、一日10時間で週4日の勤務、2交代制で一日12時間の勤務の3通りの働き方を比較した結果、
長時間勤務によって疲労感は増えるものの、多くの人が長時間かつ勤務日数の少ない形態を選ぶ傾向にあり、従業員満足度も向上すると報告されています(Pierce & Duham, 1992)。
やはりまとまった自由な時間が増えることの喜びは非常に大きいようです。一日12時間で勤務日数が少ない働き方の方が、ストレスや疲労感が減少するという報告もあります。
これらの結果だけをみれば、一日の勤務時間を増やし、勤務日数を減らす働き方を導入した方が良いような気がします。実際に上記のような職種以外でも、そのような勤務形態を導入する企業が現れてきています。しかし別の研究では、長時間勤務のマイナス面もしっかりと指摘されています。
バス運転手を対象とした調査で、多様な勤務時間やシフト勤務による影響を調べた結果、シフト変化が激しすぎる場合、アルコール消費量、薬の消費量、睡眠障害、従業員満足度の低下、バス利用者の不満などへの影響が報告されています(Raggatt, 1991)。
また、あまりに勤務時間が長いと従業員満足度は低下し、事故、スピード違反、通院、健康問題、ストレスなどを引き起こすとしています。確かに勤務日数が減り自由な時間が増えることはメリットもありますが、やはり極端な勤務はそのメリットを帳消しにするリスクを抱えているようです。
5-3.夜間勤務
長時間勤務と重なりますが、24時間を2交代、3交代のシフト勤務で回す仕事もあります(例:病院、警察、コンビニ、飲食店など)。夜間勤務やローテーション勤務は、少なくともある程度、社員にマイナス影響を及ぼすことが明らかになっています。
夜間勤務でまず問題になるのが、一般的な生活サイクル(寝る、起きる)が崩れることです。普通の人が眠る時間に働くことは、生理学上の概日リズム(生物体に本来備わっている、おおむね1日を周期とするリズム)を崩し、睡眠障害などの健康問題を引き起こす可能性があるとされています。
ただし別の研究では、夜間勤務が問題なのではなく、ローテーション勤務の絡む夜間勤務が問題だと指摘する報告もあります(Barton & Folkard,1991; Jamal & Baba 1992)。
常に夜間勤務をする人と、ローテーションで夜間勤務をする人を比べた場合、常に夜間勤務をする人には睡眠への悪影響はほとんど確認されませんでした。一方で、ローテーションによって昼間勤務と夜間勤務が入れ替わる人の方が、健康問題を抱えやすく、従業員満足度も低くなるようです。
生活のリズムが崩れるという面で言えば、ローテーション勤務に限らず、繁忙期の忙しさ、環境変化やその他の理由からリズムが崩れがちな時期にも注意が必要だと言えます。
5-4.パートタイム勤務
フルタイム勤務と、アルバイトやパートなどのパートタイム勤務との違いは、従業員満足度にどのような影響があるでしょうか。
一般的にパートタイム勤務は、その不安定な立場や、同じような仕事内容でも待遇や条件の面で劣ることから、従業員満足度が低いのではないかと想像されます。ところが、両者の働き方を比較した研究によると意外にも満足度の高さは逆であり、パートタイムで働く人の方がフルタイムで働く人よりも従業員満足度が高いことがわかりました(Eberhardt & Shani, 1984)。
報告ではその理由として、パートタイム勤務者は学生や主婦が多く一時的な仕事と捉えていることや、スケジュールの柔軟性などを挙げています(Feldman, 1990)。
昨今フリーランスとして活躍される方が増えていることも、組織に属する安心感が必ずしも満足度や幸福感につながるものではないことを表しているのかもしれません。
6.まとめ
従業員満足度を決定する要因として、前回に引き続き「仕事環境・仕事に関連した要因」、中でも組織や職場仲間、働き方、待遇をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
もちろん本記事ではご紹介しきれないため、その他にも注意が必要な要因は存在します。また、企業や組織それぞれの事情による固有の要因も考えられるでしょう。
繰り返しとなりますが、今回ご紹介した要因は、従業員満足度を高める動きではなく、下げる動きをするものであり、これらの要因が企業や組織に存在していれば、満足度やモチベーションを高めることが難しい点です。
一般的に、企業の担当者の方は従業員満足度を考える際、高めようとするポジティブな面に着目しがちですが、不満足度を抑えることがまずは第一歩になるのです。
従業員が仕事に集中しパフォーマンスを上げるために、どのような支援ができるのか、時代の変化と相談しながら常に見直し続けることが求められていると言えます。
次の記事では、従業員に着目し従業員満足度を高める「個人的要因」をご紹介します。
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