相手の状況に配慮することなく、正論を主張し追い詰める行為が「ロジカルハラスメント(ロジハラ)」です。今回は、ハラスメントのひとつであるロジカルハラスメントについて深掘りします。
ロジカルハラスメントとは、どのようなハラスメントなのか、定義や事例、原因を示すと共に、どうすれば防止できるのか、その対策を解説します。
【本記事で得られる情報】
・ロジカルハラスメントの定義(意味)
・ロジカルハラスメントに関連する判例
・ロジカルハラスメントが起こる原因
・ロジカルハラスメントが起こる場面と具体例
・ロジカルハラスメントを起こす人の特徴
・ロジカルハラスメントの防止対策
・ロジカルハラスメントのチェックリスト
目次
ロジカルハラスメント(ロジハラ)とは?

まずは、ロジカルハラスメント(ロジハラ)について概観します。
ロジカルハラスメントの定義(意味)
ロジカルハラスメント(ロジハラ)とは、正論や理屈を振りかざし、相手を追い詰める嫌がらせのことです。「ロジカル(logical):論理的な」と「ハラスメント(harassment):嫌がらせ」を組み合わせた言葉で、仕事のパフォーマンスはもとより、精神面にも悪影響を与える行為とされています。
ロジカルハラスメントは、優位な立場を盾にして起こることが多く、パワーハラスメント(パワハラ)の一種といえます。ロジカルハラスメントを受けた相手は、委縮して自分の意見が言えなくなるばかりか精神的に不安定になり、最悪の場合、メンタル不調に陥るケースもあるのです。
ロジカルハラスメントと正論の違い
ロジカルハラスメントが厄介なのは、正論を主張しているため、本人にはハラスメントを起こしている自覚がないことです。では、ロジカルハラスメントと正論を主張することはどう違うのでしょうか。
正論を主張すること自体は、決して悪いことではありません。物事を論理的に説明することは、むしろ仕事をする上で必要不可欠といえます。だからと言って、相手の立場や感情を全く慮ることなく一方的に正論を押しつけては、それは正論の主張ではなくロジカルハラスメントになってしまうでしょう。
相手の状況や気持ちに寄り添うことができるのか、それともできないのか。これが、ロジカルハラスメントと正論との違いといえます。
ロジカルハラスメントに関する判例
ロジカルハラスメントは、先述の通りパワーハラスメントの一種であり、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)によって、パワハラと認定されるケースがあります。ここでは、その事例を紹介しましょう。
事例1
立場の弱い派遣社員の業務上のミスに対して、能力レベルを考慮せず本人を否定する指導を行ったとして、派遣先の社員らが不法行為と判断されたケース
事例2
部下の立場に配慮することなく高圧的・攻撃的に叱責し、その後のフォローもないことがメンタル不調につながったとして上司が不法行為と判断されたケース
関連記事:ハラスメントとは?「種類・意味」職場で起こる原因とその対策を解説
ロジカルハラスメントが起こる原因・背景

ロジカルハラスメントは、なぜ起こるのでしょうか。ここでは、その原因や背景を解説します。
【ロジカルハラスメントが起こる原因や背景】
・多様性の広がり
・コミュニケーションの変化
詳しく見ていきましょう。
多様性の広がり
ひとつは、多様性の広がりです。多様性の広がりによって、様々な立場や考え方の人材を雇用する機会が増えてきました。多様性の広がりは、メリットがある一方で、多様な人材をマネジメントするために、物事を明確に伝える必要性が高まっています。
ただ、こういった状況にうまく追いつけていないことが、伝え方を誤らせ、ロジカルハラスメントの原因になっているのです。
関連記事:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)で組織力を高める方法とは?
コミュニケーションの変化
もうひとつは、コミュニケーションの変化です。デジタル技術の発達に伴い、働き方が多様化しています。リモートワークや在宅勤務は、今や当たり前の時代。当然、コミュニケーションも変化しています。
チャットやWeb会議ツールによるコミュニケーションが増え、相手の理解を深めるには、対面でのコミュニケーション以上に論理的に伝える必要があります。ただ、パソコンやモニター越しに血の通った言葉を伝えるのは簡単ではないでしょう。これが、ロジカルハラスメントを招く原因になっているのです。
職場でロジカルハラスメントが起こる場面と具体例

では、職場においてロジカルハラスメントが起こる場面と、その具体例を見ていきましょう。
【ロジカルハラスメントが起こる場面】
・ミスやトラブルが起こった時
・会議中やミーティング中
・部下や後輩の指導中
・取引先との打合せ中や商談中
場面ごとに具体例を示します。
ミスやトラブルが起こった時
ミスやトラブルが起こった時は、原因を探したり対策を考えたりするプロセスの中でロジカルハラスメントが起こりやすくなります。
【ロジハラの具体例】
・相手の話を聴きもせずに一方的にミスの原因をあげへつらう
・原因は相手にあると正論を述べて追い詰める
・トラブル対策を議論もせず持論に従うことを強要する
会議中やミーティング中
会議中やミーティング中は、ロジカルハラスメントが起こりやすくなります。議論の応酬の中で、論理的に話しているつもりでも、ロジカルハラスメントになっているケースが見られます。
【ロジハラの具体例】
・一方的に持論や正論を語り相手の意見を全く受け入れない
・自分の意見が「当然であり受け入れるべきだ」と主張し圧をかける
・相手の立場を考えずに「具体性や現実味がない」と批判を繰り返す
部下や後輩の指導中
部下や後輩の指導中も、ロジカルハラスメントが起こりやすい場面です。指導に熱中するあまり、相手の感情に配慮できないことがロジカルハラスメントにつながります。
【ロジハラの具体例】
・相手の小さな間違いや勘違いをいちいち取り上げ正論を振りかざす
・同期と比較しながら細部を批判し相手の自尊心を傷つる
・仕事ができていないことを相手の能力も考えずに叱責する
取引先との打合せ中や商談中
取引先との打合せ中や商談中にもロジカルハラスメントが起こります。特に、「コスト・納期・品質・トラブル」といった打合せの中で起こる可能性が高くなります。
【ロジハラの具体例】
・契約内容をあげて納期が守れないなら取引きできないと圧力をかける
・有利な立場を盾に調査もせずトラブルの原因を押し付ける
・コストが合わない場合は他の取引先との例をあげて無理に調整を迫る
ロジカルハラスメントを起こす人の特徴

ロジカルハラスメントを起こす人には、どのような特徴があるのでしょうか。ここで、整理しておきましょう。
【ロジカルハラスメントを起こす人の特徴】
・「自分が正しい」と証明したい意識が強い
・「相手より有利に立ちたい」気持ちが強い
・「他者の視点で考える」意識が薄い
・「論理的思考」に対する思い込みが強すぎる
詳しく解説します。
「自分が正しい」と証明したい意識が強い
「自分が正しい」と証明したい意識が強い人は、ロジカルハラスメントを起こしがちです。議論すること以上に、相手を論破することが目的になっている人が多く、一方的に正論を振りかざす傾向が強くなります。
「相手より有利に立ちたい」気持ちが強い
「相手より有利に立ちたい」気持ちが強い人も、ロジカルハラスメントを起こす可能性が高くなります。自分の正当性ばかりを主張し、相手を打ち負かすことに優越感を感じるため、無意識の内にロジカルハラスメントを起こしてしまう恐れがあります。
「他者の視点で考える」意識が薄い
ロジカルハラスメントを起こす人は、「他者の視点で考える」意識が薄いという特徴があります。想像力や共感力が足りないと言い換えてもよいでしょう。相手の立場や感情に配慮できないため、正論を主張するばかりのコミュニケーションになりがちです。
「論理的思考」に対する思い込みが強すぎる
「論理的思考」に対する思い込みが強すぎる人も、ロジカルハラスメントを起こす可能性が高いといえるでしょう。本人は、「論理的に話すことが相手のため」と強く信じ込んでいます。相手のことを思って正論を主張しているため、ロジカルハラスメントに気づきにくい厄介さがあります。
ロジカルハラスメントの防止対策

では、どうすればロジカルハラスメントを防ぐことができるのでしょうか。ここでは、その防止対策を解説します。
【ロジカルハラスメントの防止対策】
・ロジハラへの理解を深める
・ロジハラに対する社内方針を決める
・アサーティブコミュニケーションの知識を深める
・社内コミュニケーションを活性化させる
・ハラスメント相談窓口を設置する
ひとつずつ見ていきましょう。
ロジハラへの理解を深める
まずは、ロジカルハラスメントへの理解を深めることが重要です。ハラスメント研修やミーティングを実施し、ロジカルハラスメントの意味や事例、周囲に及ぼす悪影響を全社的に共有しましょう。
ロジハラに対する社内方針を決める
ロジカルハラスメントに対する社内方針を決めて、全従業員に周知します。ロジカルハラスメントの定義や被害者への措置、起こした従業員にどう対処するのか、会社の方針やルールを決めて就業規則に明記し、発生の抑止力とします。
アサーティブコミュニケーションの知識を深める
アサーティブコミュニケーションの知識を深めることも、ロジカルハラスメントの防止に効果的です。アサーティブコミュニケーションとは、自分の意見や考え方と共に、相手の立場や感情にも配慮するコミュニケーションのこと。自分も相手も尊重するため、風通しの良い職場環境作りに役立ちます。
関連記事:アサーティブコミュニケーションとは?意味や職場での事例を紹介
社内コミュニケーションを活性化させる
ロジカルハラスメントの防止には、社内コミュニケーションを活性化させることが重要です。コミュニケーションの活性化は、従業員同士の理解を深め、お互いを慮る意識を醸成します。1on1ミーティングやフリーアドレス制、グループウェアや社内SNSなどを活用し、社内コミュニケーションの活性化に取り組みましょう。
関連記事:社内コミュニケーションを活性化させる方法/取り組みやツールの事例もご紹介
ハラスメント相談窓口を設置する
社内に、ハラスメント相談窓口を設置しましょう。ロジカルハラスメントを受けた従業員はもちろん、事前に相談できる場所があれば未然に防ぐことも可能です。設置の際は、プライバシーへの配慮と守秘義務が必須。ネット環境を活用するのも効果的です。
ロジカルハラスメントのチェックリスト

ロジカルハラスメントの防止は、自分を振り返ることから始まります。次のチェックリストをもとに、まずは自分自身の言動や行動を振り返ってみましょう。
【ロジカルハラスメントのチェックリスト】
□ 部下のマイナス部分ばかりに焦点を当てる
□ 相手を称賛したり受け入れたりすることが少ない
□ アドバイス以上に摘や注意することの方が多い
□ 誰かに相談を持ち掛けられることが少ない
□ 批判したり否定したりすることが多い
□ 注意する前に相手の話を聴かない
□ 会議中は相手を論破することに集中している
ロジカルハラスメントの防止は定期的な実態調査から

ロジカルハラスメントの定義や事例、原因を示しながら防止対策を解説しました。大切なことは、ロジカルハラスメントの理解を深めこと、そして定期的に実態調査を行うことです。組織や従業員の状態を定期的に把握することが、ロジカルハラスメントの早期発見・早期防止につながります。
調査は、様々な立場の従業員が、対象となる従業員を多面的に評価する360度評価が効果的。立場の違う従業員から意見を吸い上げることで、ロジカルハラスメントの予兆を早期に発見できます。また、本人に結果をフィードバックすることで、言動や行動の改善を促すこともできるでしょう(詳しくは「360度評価がハラスメント対策に有効な理由とは?」をご覧ください)。
リアルワン株式会社は、調査・評価の専門会社です。「360度評価」「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」といった「組織サーベイ」で、組織や従業員の状態を定量的かつ定性的に可視化します。
自社の状態を把握し、ロジカルハラスメントを防止したいとお考えの企業様は、ぜひリアルワンにご相談ください。