相手に「嫌がらせ」を行い、苦痛を与えるハラスメント。現在では、40種類以上もあるとされるハラスメントですが、妊娠や出産、育児に対するハラスメントが「マタニティハラスメント(マタハラ)」です。
マタニティハラスメントは、防止措置が制度で定められているにも関わらず、依然としてなくならない現実があります。なぜ、マタニティハラスメントの防止は難しいのでしょうか。
今回は、マタニティハラスメントの定義や関連する法律、具体的な事例を示しながら、どうすれば防止できるのか、その対策を解説します。
【本記事で得られる情報】
・マタニティハラスメントの定義(意味)
・マタニティハラスメントに関する法律
・パタニティハラスメントの定義(意味)
・マタニティハラスメントの事例
・マタニティハラスメントが起こる原因
・マタニティハラスメントの防止対策
目次
マタニティハラスメント(マタハラ)の定義(意味)

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、働く女性が妊娠や出産、育児を理由に、嫌がらせやいじめ、さらには不当な評価を受けることです。
「マタニティ(maternity):妊娠中の」と「ハラスメント(harassment):嫌がらせ」を組み合わせた言葉で、出産はもとより、女性のキャリアに悪影響を与える行為とされています。
関連記事:ハラスメントとは?「種類・意味」職場で起こる原因とその対策を解説
マタニティハラスメントに関連する法律

マタニティハラスメントは、心理的ストレスを増大させる可能性があることから、防止や就業環境の整備を法律によって規定しています。ここでは、マタニティハラスメントに関連する2つの法律を紹介します。
【マタニティハラスメントに関連する法律】
・男女雇用機会均等法
・育児介護休業法
ひとつずつ見ていきましょう。
男女雇用機会均等法
ひとつは、「男女雇用機会均等法」です。男女雇用機会均等法は、「妊娠・出産・出産後」などに関する「女性労働者」が受けるハラスメントに対して、その防止や就業環境の整備を規定する法律になります。
育児介護休業法
もうひとつは、「育児介護休業法」です。育児介護休業法は、「育児休業の申出や取得」などに関する「労働者」が受けるハラスメントに対して、その防止や就業環境の整備を規定する法律になります。
男性へのマタハラ「パタニティハラスメント(パタハラ)」とは?

マタニティハラスメントに似ているのが「パタニティハラスメント(パタハラ)」です。ここでは、男性へのマタハラともいえる、パタニティハラスメントについて解説します。
パタニティハラスメントの定義(意味)
パタニティハラスメント(パタハラ)とは、働く男性が育児に関わることを理由に、嫌がらせやいじめ、さらには不当な評価を受けることです。
「パタニティ(paternity):父性」と「ハラスメント(harassment):嫌がらせ」を組み合わせた言葉で、子育てする環境はもとより、男性のキャリアに悪影響を与える行為とされています。
パタニティハラスメントに関連する法律
パタニティハラスメントは、先述した「育児介護休業法」によって、防止や就業環境の整備を規定しています。
働く女性の、「妊娠・出産・出産後・育児」に関するハラスメントを規定する法律が「男女雇用機会均等法」と「育児介護休業法」。そして、働く男性(労働者)の「育児」に関するハラスメントを規定する法律が「育児介護休業法」になります。
マタニティハラスメントの事例

マタニティハラスメントは、故意であったかどうかは関係ありません。そのため、無意識に行ってしまう恐れがあります。ここでは、マタニティハラスメントになり得る行為を、3つの状況に分け具体的な事例で紹介します。
【マタニティハラスメントが起こりやすい状況】
・妊娠報告した時
・産休・育休の期間中
・産休・育休から復帰した時
それぞれの状況における具体例を見ていきましょう。
マタハラの具体例1:妊娠を報告した時
まずは、妊娠を報告した時に起こり得るマタニティハラスメントの事例を紹介します。
【具体的事例】
・妊娠の報告後、「勤務態度が良くない」と退職を促される
・検診のため休みを申請すると、「休日に行けないのか?」と言われる
・産休の相談をしたら、「昇進が難しくなる」と言われる
・妊娠は「個人的な都合」と言われ、実績が評価されなくなる
・仕事の一部免除を受けたら、周りから「うらやましー」と言われる
マタハラの具体例2:産休・育休の期間中
次に、産休や育休の期間中に起こり得るマタニティハラスメントの事例を紹介します。
【具体的事例】
・産休中に退職を勧められる
・職場復帰を相談したら退職を迫られる
・出産前のポジションを説明もなく変えられる
・正社員からパートへ労働条件の変更を持ちかけられる
・復帰後は保育園への送迎ができない部署へ異動と言われる
マタハラの具体例3:産休・育休から復帰した時
最後は、産休や育休から復帰した時に起こり得るマタニティハラスメントの事例を紹介します。
【具体的事例】
・元のポジションに戻してくれない
・時短勤務に対して「楽でいいね」と言われる
・時短勤務を認めてくれない
・理由もなくプロジェクトから外される
・出産前と同じ仕事をさせてもらえない
マタニティハラスメントが起こる原因

マタニティハラスメントは、なぜ起こってしまうのでしょうか。ここでは、その原因を見ていきましょう。
【マタニティハラスメントが起こる原因】
・職場の労働環境
・世代間のギャップ
・制度に対する理解不足
・アンコンシャスバイアス
詳しく解説します。
職場の労働環境
職場の労働環境は、従業員の心の状態を左右します。長時間勤務が多かったり、休暇を取得し難かったりする職場は、従業員から心理的な余裕を奪います。この余裕のなさが、本来は祝福すべき妊娠や出産に対してネガティブな感情を生み、マタニティハラスメントにつながってしまうのです。
世代間のギャップ
ひと昔前は、「女性は家庭を守るのが仕事」という考え方が当たり前の時代でした。この時代に、会社の中心となって働いてきた世代にとっては、妊娠や出産を経ても働く女性、また育児休暇を取得する男性に対する理解が進まない現実があります。こういった世代間のギャップも、マタニティハラスメントの大きな原因といえます。
制度に対する理解不足
妊娠や出産、育児の際は、条件によって利用できる支援制度が法的に定められています。こういった制度に対する理解不足は、マタニティハラスメントにつながる大きな原因です。従業員に対して、制度を周知しない、また制度の利用を組織として推奨しないことがマタニティハラスメントを招いてしまいます。
アンコンシャスバイアス
アンコンシャスバイアスとは、自分では気づいていない思い込みや偏った考え方のこと。例えば、「母親は子供と一緒に過ごすべき」「育児は女性の仕事」「男性は育児より仕事の方が重要」といった考え方です。こういったアンコンシャスバイアスは、無意識の内にマタニティハラスメントを起こしてしまう原因になります。
関連記事:職場のメンタルヘルス対策とは?「3つの予防」と「4つのケア」を解説
マタニティハラスメントを防止する4つの対策

では、マタニティハラスメントを防止するにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは、マタニティハラスメントを防止する4つの対策を解説します。尚、ここに示す対策は、パタニティハラスメントにも有効です。
【マタニティハラスメントを防止する4つの対策】
・マタハラへの理解を深める
・マタハラに対する社内方針を決める
・ハラスメントに対する相談窓口を設ける
・360度評価を実施する
詳しく見ていきましょう。
マタハラへの理解を深める
まずは、研修やミーティングを通じて、マタニティハラスメントへの理解を深めることです。「マタハラとは何か」「なぜマタハラが起こるのか」について、全従業員で共有する必要があります。
マタニティハラスメントに限らず、ハラスメント防止の難しさは、無意識で行ってしまうこと、そして誰もが被害者にも加害者にもなる可能性があることです。これを防止するには、マタニティハラスメントの具体例や起こしてはいけない理由を共有し、世代間を超える新しい価値観の醸成が重要です。
マタハラに対する社内方針を決める
マタニティハラスメントに対する社内方針を決めて、全社的に共有しましょう。組織として取り組んでいく、マタニティハラスメントの防止に向けた方針やルールを決めて就業規則に記載。発生の抑止力とします。
具体的には、マタニティハラスメントを繰り返すなど、社内方針に違反する従業員にどう対処するのか、処分の内容を明確にします。また、マタニティハラスメントを受けた被害者に対する措置を明確にすることも重要なポイントです。
ハラスメントに関する相談窓口を設ける
マタニティハラスメントを含め、ハラスメントに関する相談窓口を設けることも重要です。マタニティハラスメントを受けた従業員をはじめ、マタニティハラスメントが疑われるケースについて逐一相談できる窓口の設置が、早期発見と早期防止につながります。
設置の際は、プライバシーへの配慮が必須です。ネット環境を利用し、相談を受け付けるのも有効な方法でしょう。また、相談対応を外部機関へ委託することも、従業員のプライバシーや守秘義務の観点から検討すべき施策といえます。
360度評価を実施する
360度評価を実施することも、マタニティハラスメントの防止対策になります。360度評価とは、対象となる従業員を様々な立場の従業員が評価し、その結果を本人にフィードバックする評価システムのことです。様々な立場の従業員が多面的な評価を行うため、対象となる従業員に多くの気づきを与えることができます。
360度評価によって、「自分は周囲からどう見られているのか」「自分の言動に問題はないか」「接し方は適切か」などが明らかになります。これが、マタニティハラスメントの早期発見・早期防止につながるのです。
実際、ハラスメントの抑止対策として政府も360度評価を導入。財務省などが先行し、2019年からは中央省庁の課長クラス全員を対象として360度評価が実施されています。
関連記事:360度評価がハラスメント対策に有効な理由とは?ハラスメント防止に向けて取り組むべきこと
最後に

マタニティハラスメントは、働く女性にとって大きな問題です。また、マタニティハラスメントが起こる環境ではパタニティハラスメントも起こりやすくなり、男性にとっても見過ごせない問題といえます。
マタニティハラスメントやパタニティハラスメントが起こるような組織で、働きたいと考える人材はいないでしょう。従業員が持てる能力を発揮し、長く働いていくためには、「妊娠・出産・出産後」を通じて安心して働ける、ハラスメントのない職場環境を整えることが重要です。
それには、本文でも述べた通り、360度評価といった「組織サーベイ」を実施し、組織の現状を明確化する必要があります。組織が内包する課題や従業員の状態を可視化し改善していくことが、ハラスメントのない職場環境の構築につながるのです。
リアルワン株式会社は、調査・評価の専門会社です。「360度評価」をはじめ、「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」といった信頼性が担保された組織サーベイで、組織や従業員の現状を定量的かつ定性的に可視化します。
マタニティハラスメントの防止に向けて、自社の課題を見つけ改善したいとお考えの企業様は、リアルワンにぜひご相談ください。