職場におけるハラスメントが問題視されるなか、未然に防ぐための対策として注目されているのが多面評価とも呼ばれる360度評価です。上司・部下・同僚など、関係性や立場が異なる複数名の視点から日々の行動を評価する仕組みであることから、表面化されにくいハラスメントの問題を早期につかみやすいという利点があります。
本記事では、ハラスメントについての理解を深めるとともに、360度評価がハラスメント対策に有効な理由および防止に向けた施策について説明します。
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目次
ハラスメントとは
ハラスメントとは、相手を不快にさせたり不利益を与えたりする行為のことです。近年では様々な種類のハラスメントが問題視されており、企業には適切な対応が求められています。まずは、ハラスメントの種類と従業員・企業への影響、ハラスメントに関する法律について見ていきましょう。
ハラスメントの種類
ハラスメントの種類は30種以上におよぶとされています。なかでも、職場で起こりやすいハラスメントの種類を以下に整理しました。
種類 | 略称 | 特徴 |
---|---|---|
パワーハラスメント | パワハラ | 職場内での優越的な立場を利用し、業務上必要な範囲を超えた行為によって就業環境を害すること |
セクシャルハラスメント | セクハラ | 相手の意に反した性的な言動や嫌がらせによって就業環境を害すること |
マタニティハラスメント | マタハラ | 妊娠・出産をした女性に対する嫌がらせ |
パタニティハラスメント | パタハラ | 育児休暇制度を利用する男性に対する嫌がらせ |
モラルハラスメント | モラハラ | 言葉や態度によって精神的な苦痛を与える行為 |
ジェンダーハラスメント | ジェンハラ | 性別によって差別する行為 |
セカンドハラスメント | セカハラ | ハラスメントを受けた人が他者に相談したことで二次的被害を受けること |
ケアハラスメント | ケアハラ | 介護をしている従業員に対する嫌がらせ |
エイジハラスメント | エイハラ | 年齢によって差別する行為 |
テクノロジーハラスメント | テクハラ | ITリテラシーが低い従業員への嫌がらせ |
リモートハラスメント | リモハラ | リモートワーク環境下で起きる強要や嫌がらせ |
アルコールハラスメント | アルハラ | 職場内の立場を利用して飲酒を強要する行為 |
カスタマーハラスメント | カスハラ | 顧客・取引先である立場を利用した迷惑行為 |
ロジカルハラスメント | ロジハラ | 正論を盾に相手を追い詰める行為 |
リストラハラスメント | リスハラ | リストラ対象者に対する嫌がらせにより自主退職に追い込むような行為 |
コロナハラスメント | コロハラ | 新型コロナウイルスを建前にした差別や排除、強要する行為 |
ハラスメントが引き起こす影響
ハラスメントが起きた場合、以下のように企業と従業員の双方に多大な悪影響が出てしまいます。
<被害者への影響>
- 精神的・肉体的苦痛によるメンタルヘルス不調
- 業務上のパフォーマンス低下
- 問題解決後もトラウマや後遺症が残る可能性
<加害者への影響>
- 職場内での信用の失墜
- 懲戒処分や解雇、異動
- 場合によっては損害賠償の可能性
<企業への影響>
- 職場環境の悪化による生産性の低下
- 離職者の増加
- 訴訟などによる企業イメージの低下や損害賠償
ハラスメントに関する法律
ハラスメントの増加が深刻な状況にあることを受けて、ハラスメントに関する法改正が進んでいます。企業はハラスメント防止に向けて、しっかり対応する必要があります。
<パワーハラスメントについて>
労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が改正され、2020年6月からは大企業に、2022年4月からは中小企業にパワハラ防止措置を講じることが義務付けられています。
<セクシャルハラスメントについて>
男女雇用機会均等法により、性的な言動によって不利益を受けたり就労環境が害されたりしないよう防止措置を講じることが義務付けられています。
<妊娠・出産等のハラスメントについて>
男女雇用機会均等法により、企業は妊娠・出産をした女性労働者の就労環境が害されないよう防止措置を講じる義務があります。また、育児・介護休業法では、育児・介護にあたる労働者に対するハラスメント防止措置が義務付けられています。
360度評価がハラスメント対策に有効な理由とは
360度評価とは、上司・部下・同僚など関係性が異なる複数の評価協力者が、評価対象者の日々の行動や業務について多面的に評価する手法のことです。上司が部下を評価する従来の手法との大きな違いは、複数名の視点による評価であるため公平性・客観性を保ちやすいという点です。
人材開発や人材管理の観点から業種を問わず取り入れる企業が増えていますが、政府がハラスメントを抑止するための対策として導入したことでも話題を呼びました。財務省などが先行して360度評価を実施していましたが、2019年の秋からは中央省庁の課長クラス全員を対象に導入されています。
ここからは、360度評価がなぜハラスメント対策に有効なのか、理由を見ていきましょう。
ハラスメントの予兆を早期にキャッチできる
従来型の上司が部下を評価する制度では、上司の視点のみが反映されるため、部下の声を拾い上げることはできません。また面談においても、業務上の権限を持つ上司に対して部下が率直な意見を言いにくいといった問題が起こりがちです。
360度評価では部下が上司を評価したり、同僚や他部署の従業員が評価したりというように複数名の視点が入るため、従来の評価手法では見えにくい問題点を早期に発見することができます。たとえば、「業務上の必要性を超えて上司が部下に厳しく指導している」「業務に対して周囲の協力がない」などの問題についても、当事者だけでなく第三者の視点からキャッチできることもあります。
ハラスメントの兆しを早期に発見することで、大きなトラブルに発展する前に注意喚起できるようになります。
従業員が自身の行動を振り返る機会が増える
普段の業務の中で、意図せずにハラスメントに抵触する行為をしているケースもあります。これまで当たり前だと思っていた行為が、多様な価値観やバックグラウンドを持つ従業員が増えたことによって、気づかないうちに相手を不快にさせている場合もあるでしょう。
360度評価では業務上関わる従業員の多角的な視点からフィードバックを受けられるため、「自分の言動は適切か」「自分の言動は周囲からどのように見えているのか」など、自分自身を振り返る機会となります。自己評価と他者評価とのギャップを知ることはハラスメント防止に役立つほか、評価対象者の行動改革のきっかけにもなります。
従業員のプライバシーを守りながら対応できる
従業員にとって、ハラスメントはとてもデリケートな問題です。当事者のプライバシーに十分に配慮し、慎重に対処することが求められます。360度評価の評価協力者は基本的に匿名性のため、従業員のプライバシーを守りながら対応することが可能です。
なお、パワハラ防止法においても事業主がハラスメント防止のために講ずべき措置として、当事者のプライバシー保護について義務付けられています。
360度評価を活かしたハラスメント防止の施策
360度評価を活用しながら、どのようにハラスメントを防止していくのが効果的なのか、施策について見ていきます。
相談窓口を設置
ハラスメントは当事者の自助努力だけでは解決できないケースが多いため、問題が深刻化・常習化する前に食い止められる体制を作っておくことが大変重要です。相談窓口の設置は、ハラスメント防止措置として法律でも定められている義務です。人事部門をはじめ、産業医やカウンセラーなどと協力しながら運営するのが望ましいでしょう。
「社内の人には相談しづらい」という声が多い場合は、社外の専門家を窓口にする方法もあります。360度評価で従業員の声を集めながら運用方法を検討するのも良い方法です。従業員が気軽に相談できるよう、以下の点に留意しながら適切に対応できるようにしましょう。
- 相談窓口の運用ルールを決めておく
- プライバシーが守られる部屋を準備する
- 相談内容の守秘義務を徹底する
- 相談窓口を利用したことで不利益を被らないよう徹底する
- 窓口担当者が適切に対応できるよう、心構え・知識・ノウハウの習得をサポートする
研修による知識の習得
ハラスメントに対する従業員の知識力を高める上で、研修は有効な手法です。360度評価を活用することで、自社の課題に即した研修テーマ・内容の策定ができます。
たとえば、パワハラに関する知識に偏りが見られる場合は、パワハラに特化したプログラムを検討するとよいでしょう。人材や働き方の多様化に起因するハラスメントが懸念される場合は、これに対応するプログラムを実施するというように、自社に適した選択ができるようになります。また、定期的に360度評価を実施することで、研修によって組織の状態がどのように変化したのか、効果を測りやすいというメリットもあります。
一般的にハラスメント防止のための研修というと管理職向けという印象を持たれがちですが、部下や同僚を含め、誰もが加害者にも被害者にもなり得るという点に注意しなければなりません。従業員一人ひとりがハラスメントに関する正しい知識を得られる機会を用意することが重要になります。
定期的な情報発信による意識付け
ハラスメントが起きない組織にするためには、「無知」「無自覚」による問題行動がないようにするための知識のインプットに加え、従業員同士が気兼ねなく意思疎通できる風通しの良い組織風土の醸成が重要になります。また、当事者だけでなく、ハラスメントに気づいた第三者が取るべき行動についても共通の認識を持っていることが理想的です。
これらを実現するための施策としておすすめなのが、定期的な情報発信による知識と意識の向上です。360度評価によって組織の状態を正しく把握することで、注意喚起すべきことが明らかになります。また、360度評価の実施は会社としてハラスメント防止に積極的に取り組んでいる姿勢の表れであり、当事者の孤立や被害の助長を抑止する効果も期待できます。
よくある質問
ここでは、ハラスメントに関する360度評価において多く寄せられる質問について解説します。
Q.360度評価の内容は周囲にバレますか?
360度評価は、評価者を特定できないように行うことがほとんどです。匿名で行う場合、評価協力者の氏名は伏せられるため「誰が評価しているのか」がバレるリスクは少ないでしょう。
Q.360度評価を実施するときの注意点は?
360度評価は従業員の率直な評価・意見を引き出すことで効果を発揮します。そのため、以下について事前周知し、従業員の理解・納得を得ることが重要になります。
- 導入の目的
- 従業員・組織にとっての意義・メリット
- 評価のルール
- 運用のルール
- フィードバックの方法
- 匿名性
ハラスメントが発覚した場合の対応の流れは?
一般的な対応の流れとして、次のフローを参考にしてください。
- 相談窓口による面談
- 事実関係の確認
- 相談者と行為者にどのような対応をすべきか検討
- 相談者・行為者へのフォロー
- 再発防止のための対策を検討
専門家が360度評価をハラスメント対策に活かすための導入・運用をサポート
ハラスメントの種類が時代とともに増えていることからもわかるように、働き方や価値観が多様化する中で、知らず知らずのうちに加害者になっているということが起こり得ます。また、被害者が「自分が至らないせい」と一人で抱え込んでしまい、問題が表面化しないまま事態が悪化するケースもあります。
360度評価は、こうした問題を早期に発見して適切に対応するための有効な手法です。リアルワンでは、調査・評価専業ならではの豊富な実績と専門的な知見をもとに、ハラスメント対策に有効な360度評価を提供しています。
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