360度評価とは、職位や年次に関わらず、さまざまな立場の社員が対象者を評価する手法です。上司だけが部下を一方的に評価する古い手法とは異なり、多様な意見を取り入れることで、客観的かつ公平な人事評価が可能になります。
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一方で、360度評価は運用に失敗しやすい評価制度であることも把握しておかなければなりません。せっかくコストをかけて取り入れた制度が原因で、社員がつらい思いをしたり現場のモチベーションが低下したりしては、本末転倒だからです。
この記事では、主に以下の点にフォーカスして360度評価の導入・運用のポイントを紹介していきます。
【この記事の内容】
・ 社員が360度評価をつらいと感じる原因を知る
・ 360度評価を正しく捉え理解する
・ 問題の原因を理解したうえで有効な対策を立てる

現場の社員が360度評価をつらいと感じる原因

主な原因は以下の3つです。
- 社内の人間関係の悪化
- 部下に評価されるプレッシャー
- 現場の業務量と負担の増加
1:社内の人間関係の悪化
360度評価の導入を検討しているものの、決断に踏み切れない人のほとんどが、社内の人間関係の悪化、それによる社員のモチベーションの低下に不安を抱いています。最悪の場合、いじめに発展するケースもあるので、導入を躊躇してしまうのも無理はありません。
なぜ人間関係が悪化するのか?
ネガティブな評価をされた際に「悪口を言われた」と感じてしまうことが最たる原因です。
360度評価には評価者の名前を公表するパターンと匿名にするパターンがあります。公表する場合、当然ながら評価対象者は誰に低い評価をされたかがわかってしまうため、人間関係が悪化する原因となってしまうのです。
思いもよらない結果に落ち込むケースも
360度評価は、毎日一緒に働いている仲間からの客観的な評価で納得感が得られやすい反面、自分では思いもよらなかった「つらい結果」を知ることになり、ショックを受け落ち込む場合があります。その結果、「自信が持てなくなる」、「部下に対して厳しい発言や指摘をしなくなる」といった事態を引き起こしかねないことになるのです。
関係悪化を避けるために忖度する事例も
低評価によって職場内の人間関係がギクシャクするのを恐れるあまり、従業員同士で「お互いに良い評価を付け合おう」といった忖度が発生した事例もあります。これでは、せっかく導入した360度評価がまったく意味のないものになってしまいます。
2:部下に評価されるプレッシャー
日本では上司が部下を評価することが一般的でしたが、360度評価は部下も上司を評価する制度設計になっています。これは本来、上司にとっては大きなメリットであり、360度評価を導入する大きな意義のひとつです。
しかし、これまで部下に評価されることがなかった上司のなかには、部下からの評価を極端に恐れてしまう人もいます。部下からの評価をプレッシャーに感じるあまり、自分の評価を上げるために部下に媚びを売るような行動を起こしてしまう上司も少なくありません。
上司が果たすべき本来の役割とは、部下の成長を促すために、指導やサポートを行うことです。部下から評価されるプレッシャーが原因で、本来の役割を疎かにするような事態は避けなければなりません。
3:現場の業務量と負担の増加
360度評価を導入すると、現場の業務量が増加します。本来の業務とは関係のない業務が増えることで、現場から「評価は人事担当の仕事だろう。そちらの都合で面倒な仕事を増やすな。」と反発されることもあり得ます。
360度評価を導入するメリットのひとつは、人事評価の公平性や透明性を向上し、社員が本来の業務に打ち込みやすい環境を醸成すること。制度導入のスタートラインで反発を受けてしまっては、制度導入がメリットになるどころかデメリットにすらなりかねません。
外部委託のハードルが高い場合は、まずは360度調査のテンプレートシートをご覧になり、委託が必要かどうかを検討してみてください。リアルワンでは注意事項や質問項目をまとめたテンプレートを配布しております。

360度評価の正しい理解の仕方・捉え方

以下の3点が、360度評価を正しく捉え、理解するためのポイントです。
- 他者との比較が目的ではない
- 点数の値に過敏にならない
- コメントは表面的な事実に過ぎない
1:他者との比較が目的ではない
360度評価は、一人ひとりの社員が自分自身の長所や弱みを客観的に理解し、成長につなげるためのものです。そのプロセスで他者との比較は少なからず発生しますが、比較すること自体が目的ではありません。
2:点数の値に過敏にならない
360評価による評価は点数化されますが、点数自体はあくまで参考です。点数だけを見ても社員一人ひとりの長所や弱みにつながる具体的な行動はわからないことを認識しておきましょう。
3:コメントは表面的な事実に過ぎない
360度評価では選択式の設問とは別にフリーコメントの欄が設けられています。文章で書かれた評価を見ると、つい評価の核心を突いているように感じてしまいがちですが、フリーコメントはあくまでも「表面的な事実を基にした評価」だと捉えましょう。なぜなら評価者は、評価対象者の行動を“観察できる範囲内”でしか判断できないからです。
導入に失敗しないための対策

ここまでの章で「社員が360度評価をつらいと感じる原因」に主眼を置いた失敗例や、360度評価の正しい認識の仕方を紹介しました。この章では社員のモチベーションを下げないための導入のポイントを4つ挙げています。
- 360度評価の導入意義を周知する
- 事前に評価方法に関する研修を実施する
- 評価結果を人事考課に紐づけない
- 専門家のサポートを活用する
1:360度評価の導入意義を周知する
現場から360度評価に対する反発が出る原因のひとつに、社員に対して事前に導入意義を周知できていないことが挙げられます。
「なぜ評価を導入するのか」「どんなメリットがあるのか」など、導入意義を前もって念入りに説明することで、失敗のリスクを回避することができます。
念入りに周知するべきポイント
- 実施目的や背景
- 評価基準
- 実施スケジュール
具体的に何をするのか、何を評価のポイントとするのか、どのような予定で実施するのかなど、社員に丁寧に説明して理解してもらうようにしましょう。社員が疑問点を即座に解消できるよう、質疑応答の場を設けることも欠かせません。
2:事前に評価方法に関する研修を実施する
ほとんどの360度評価で取り入れられているのが、5段階評定+フリーコメントによる評価方法です。こう見ると非常にシンプルなのですが、そもそも部下は他者を評価することに慣れていません。
人によって点数に偏りが出たり、コメントが無意識のうちに攻撃的になったりするのはそのためです。こうしたリスクを避けるためにも事前研修を必ず実施しましょう。
部下編:念入りに研修を行うべきポイント
- 評価の仕方
- コメントの書き方
他者を個人的な感情で評価するべきではないことは、特に入念に周知しましょう。評価時に好き嫌いの感情が働くと、点数の偏りや悪口のようなコメントが発生してしまうからです。
評価対象者の成長につながる評価やコメントを心がけてもらう、誹謗中傷と捉えられる表現を禁止するといった対策が有効です。
上司編:念入りに研修を行うべきポイント
- 360度評価の結果の捉え方
部下からの評価が低いことでショックを受けたり、高い評価を得るために部下に媚びたりする上司は少なくありません。
こうした事態を避けるためにも、上司には特に360度評価による結果の正しい捉え方、理解の仕方を入念にレクチャーするようにしましょう。特に大切なポイントは、点数やコメントは上司の優劣を結論付けるものではないと理解してもらうことです。
結果の受け止め方次第で、360度評価の恩恵は大きく変わります。理想は、上司が結果を受けて自分の強みと弱みを客観視し、今後の行動の改善に活用できるようになることです。
関連記事:部下が上司を評価する制度のメリットとは
3:評価結果を人事考課に紐づけない
周知や研修で360度評価についての理解が進んでも、評価結果を人事考課に結び付けることはあまりおすすめできません。評価が人事考課を左右するとわかった途端、さまざまな思惑が生じてしまう可能性があるからです。
「嫌いな上司を異動させるために低評価をつける」「高評価を得るために社員間で根回しをする」などが最たる例です。
人事考課に紐づけるのは絶対に避けるべき?
360度評価が社内に浸透し、制度に対する社員のリテラシーが高くなれば決してこの限りではありません。
ですが導入初期の段階では、社員の育成・管理のための制度として運用したほうが失敗のリスクを軽減できます。
4:専門家のサポートを活用する
360度評価の専門家のサポートを受けることも、導入の失敗を回避し、成功につなげる有効な方法のひとつです。リアルワン株式会社のような従業員調査・評価に関するサービスに特化した会社もあります。
リアルワンの360度評価のポイント
- 大学教授の監修を基にサービスを開発
- 専門家が課題のヒアリングや提案に参加
- 2006年の創業より培った豊富な実績
利用プランや料金プランが多彩で柔軟性があるのも特徴のひとつ。無料で資料が請求できるため、活用を検討してみることをおすすめします。
360度評価の導入・運用対策に関するよくある質問

Q1.フリーコメントを記載する際の注意点を教えてください。
ネガティブな指摘をする必要がある場合、「他者を批判する」のではなく「行動の改善を促す」という意識でコメントをするようにしましょう。
悪い例:「いつも気難しい雰囲気を出していて、職場の空気を悪くしている」
良い例:「もっと周囲とコミュニケーションを図れば、生産性の向上が見込める」
Q2.部下が上司にコメントをするときに心がけることは?
部下の立場からは管理能力そのものを評価するのは難しいため、日頃の実感をベースにしつつも客観的な表現をするようにしましょう。
例:「積極的にコミュニケーションを取ってくれるのでありがたい。ただ、会議の議題と関係のない発言が多いので、今後気をつけてもらえると業務効率化につながると思う」
Q3.匿名式にすれば評価者の名前がバレることはありませんか?
基本的にバレることはありませんが、コメントの内容次第では評価者を特定できる可能性があります。個人を特定できるエピソードを盛り込まないといった工夫をしてリスクを少なくすることが重要です。
まとめ

360度評価は運用を間違うと社員のモチベーションの低下につながります。社員のモチベーションの低下とは、社員の離職願望の増加とほぼ同義です。
つまり、360度評価の運用失敗は潜在的に“離職率の増加”というリスクを孕んでいることになります。
大変な採用活動を経て入社してもらった人財に長く活躍してもらうためにも、この記事を360度評価の効果的な導入・運用に役立ててください。


