ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)で組織力を高める方法とは?企業事例や調査結果をもとに解説

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)は、企業経営において重要な価値観として広く認識されるようになりました。経団連の調査からも9割以上の企業がDE&I推進が重要であると認識している一方で、2022年のHRプロ総研の調査によると、従業員数1000名以下の企業では、多様な人材を活用する具体的な方針を持っている企業は約半数に留まっています。本記事では、企業事例や調査結果をもとにDE&Iの重要性と取り組み方について解説していきます。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)とは

会議

多様性を尊重し、受け入れることをダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)と言います。多様な人材を組織の中で活用することは、より創造的な問題解決とイノベーションを促進します。そのため、D&IはCSRの一環ではなく、経営戦略として推進する企業が増えています。

昨今はD&Iに公平性を意味するエクイティが加わり、ダイバーシティを尊重し受け入れるだけではなく、公平に活躍する機会を与えることにも焦点があてられています。D&Iの取り組みが進んでいる企業では、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)を掲げ、人的資本の活用を推進しています。

日本でダイバーシティが注目されるようになったのは1980年代です。1985年に「男女雇用機会均等法」で雇用における性差別が禁止されたこと、1999年に「男女共同参画社会基本法」で男女の人権の尊重が義務化されたことがきっかけとして挙げられます。

2000年以降は、性別・年齢・国籍などの表層的なダイバーシティに加えて、多様なパーソナリティや価値観などの深層的なダイバーシティも受け入れ、公平に扱う時代となってきています。

表層的なダイバーシティ深層的なダイバーシティ
・性別
・年齢
・国籍
・民族
・身長
・体格
・パーソナリティ
・コミュニケーションスタイル
・考え方
・信念
・働き方
・教育
・宗教
・習慣
ダイバーシティの分類と具体例

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の定義

ここでは、ハーバード・ビジネス・レビュー・アナリティック・サービスの資料に掲載されているDE&Iの定義(※1)を参考に、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンが実現されている状態について解説します。

ダイバーシティー(多様性)

異質なアイデンティティ(人種、民族、国籍、性別、性自認、身体・認知能力、年齢、性的指向、社会経済階級、経験など)が混在している状態。

エクイティ(公平性)

アイデンティティに関係なく、すべての従業員が公平な報酬を受け、仕事で成長/成功するための機会とサポート、リソースへアクセスできることが保証されている状態。

インクルージョン(包括性/受容性)

すべての従業員のアイデンティティが尊重され、アイデンティティに関係なく、組織/仕事に参加し、貢献する機会がある状態。

エクイティ(公平性)が加わった背景

デモ

エクイティ(公平性)はD&Iを促進させる重要な要素です。エクイティが加わり、広まった背景として、米国のマイノリティに対する不平等な社会構造の問題があります。

性的暴力やセクシャルハラスメントに対する抗議運動「#MeToo」や、アフリカ系アメリカ人の権利や人権を守るための運動「Black Lives Matter」は日本のメディアでも報道されたため、知っている人も多いでしょう。

このような社会問題から、D&Iを推進しても公平性の概念が土台になければ不平等な社会構造が解決されないとされ、エクイティが重要な要素としてD&Iに加わりました。

日本では、終身雇用や年功序列の価値観が残っており、企業の中で世代格差が存在しています。そのため、人種差別は存在していないから公平性を実現できていると安易に考えず、記事の冒頭で紹介した様々な表層的・深層的ダイバーシティに対して偏見や差別はないか、しっかり公平性が保たれているか、熟慮する必要があるでしょう。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進するメリット

経団連が実施した「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ&インクルージョン推進」に関するアンケートでは、回答した企業273社の3分の2以上がD&Iが経営に良い影響があると考えていることがわかりました。

また、ハーバード・ビジネス・レビュー・アナリティック・サービスが北米の1115人のリーダーを対象に実施した調査では、回答者の3分の2がDE&Iが組織にとって戦略的に重要な優先事項であると答えています。

それでは、DE&Iの推進には具体的にどのようなメリットが挙げられるのでしょうか?

【メリット1】優秀な人材の確保

日本では、少子高齢化による人手不足が進んでいます。そのため、優秀な人材の確保はこれまで以上に重要な取り組みとなっています。若手の人口が減り、新卒一括採用が難しくなっている今、女性・外国人・シニア・障がい者など、多様な人々を雇用する必要があります。

また、Z世代は企業のDE&Iに対する取り組みに対して強い関心を寄せています。学情社が大学生・大学院生を対象に実施したアンケートでは、60%以上の学生が「『ダイバシティ&インクルージョン(D&I)』の取り組みを知ると、『志望度が上がる』」と回答しました。

このように、少子高齢化により多様な人材の活躍が必要になってきている、Z世代を始めとした労働者のDE&Iに対する関心が高まっていることから、優秀な人材確保にはDE&Iの推進が有効であると考えられます。

【メリット2】イノベーションの創出

ダイバーシティはイノベーションの源泉であると言われています。多様性はイノベーションの成果(新製品の収益)と正の相関があることがボストン・コンサルティング・グループとミュンヘン工科大学の共同研究(※2)で明らかになっています。

この研究によると、イノベーションによる収益はマネジメント・チームの多様性の強化によって1%上昇すると述べられています。イノベーションによる収益を1%上昇させるためには、以下のいずれかの対応をチーム編成に取り入れると良いとされています。

【イノベーション収益を向上させる要素】

  • チームの1.5%を異なる地域の出身者にすること
  • チームの2%を異なる業界出身者にすること
  • チームの2.5%を異なる性別にすること
  • チームの3%を異なるキャリアパスを持つマネージャーにすること

【メリット3】より優れた意思決定を可能とする

多様な人材によって構成されるチームは、同質な人材によって構成されるチームよりも集団知性が高く、聡明で優れた意思決定をする可能性が高いと言われています。集団知性とは、事実を認識する能力、情報処理能力、革新的な思考を指し、異質なメンバーとの協同によって刺激を受け、向上されると考えられています。その事例として2つの調査結果をご紹介します。

マッキンゼー・アンド・カンパニー社の調査結果

マッキンゼー・アンド・カンパニー社が366社を対象に実施した調査は、多様な人材が活躍する組織では以下のような成果があると報告しています。

  • 経営陣の民族的・人種的多様性が上位4分の1に入る企業は、業界平均を上回る財務リターンを上げる確率が35%高い
  • 性別の多様性が上位4分の1に入る企業は、同様の数字が15%高い

クレディ・スイス社の調査結果

また、クレディ・スイス社による2400社を対象に実地した調査は、取締役会に女性が1名以上いる企業は、女性がいない企業よりも株主資本利益率と純利益成長率の両面で高い成果を上げていたと報告しています。

【メリット4】従業員のモチベーション向上

DE&Iを推進し、職場環境や評価制度の改革を実施することで、従業員のモチベーションの向上を図ることができます。従業員は自分の能力が発揮できる環境で働きがいを感じるため、多様な考え方やスキルが活かせる機会を増やすと良いでしょう。

経済産業省が公表している「多様な個を活かす経営へ〜ダイバーシティ経営への第一歩〜」より、DE&Iの実施によるモチベーション向上の事例を2社ご紹介します。

エイベックス株式会社(エンタメ業)の事例

エイベックス社は「役職立候補制」を導入しています。「役職立候補制」とは、挑戦したい人に1年間役職手当を付与し、責任と権限を与え、役職として評価する制度です。失敗をしてもとがめず、何度も申請可能とすることで従業員のモチベーション向上に繋げています。

管理職の役割のひとつとして、メンバーの能力開発があります。「役職立候補制」は、部下の希望を理解した上でその実現に資する仕事を提供している制度として、経済産業省からも評価されています。

株式会社中沢ヴィレッジ(宿泊業)の事例

中沢ヴィレッジ社は企業理念として「働きたい人は受け入れ、その人ができることをやってもらう」を掲げ、年齢、国籍などを問わず人材を採用しました。そして、多様な人材の意見を吸い上げて、自社の課題を整理・解決する仕組みを整備。さらにMBOを導入し、社内で評価基準を共有して公正な評価を徹底しました。

その結果、外国人社員を中心に接客スキルの向上に対する高いモチベーションが生まれ、ホテルのサービスの質が向上し、客単価が約1600円増加しました。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進する際の3つのポイント

ここからはDE&Iを推進する上で重要なポイントを3つご紹介します。

【ポイント1】経営層と人事部門が共通認識を持つ

DE&Iの実現には経営層が率先して動くことが重要です。DE&Iは経営戦略上どのような位置づけになるのか、DE&Iを推進することで何を実現したいのかを明確にする必要があります。

人的資本の開示が求められている今、企業はステークホルダーに対して、DE&Iの取り組みが業績や競争力向上とどのような関連性があり、どのような効果があったのかを説明できるようにしなければなりません。

そのため、DE&I推進で成果を出すためには、経営層と人事部門が共通認識を持って取り組むことが不可欠であると考えれます。

>関連記事:「人的資本経営とは」

【ポイント2】アンコンシャス・バイアスをなくす

DE&I推進の初期段階で進めたい施策として、アンコンシャス・バイアスをなくすトレーニングがあります。アンコンシャス・バイアスとは、性別・年齢・国籍・人種などで、無意識に偏見を持って相手を評価する行為を指します。

アンコンシャス・バイアス研修では、どのような評価や判断がアンコンシャス・バイアスにあたるのか、どのように意識して行動を改善すれば良いのかを学びます。最近では、経営層向け、管理職向け、全社員向けなど、立場に合わせた研修も増えてきています。

メリカリ社が自社のアンコンシャス・バイアス研修の資料を公開しているので、アンコンシャス・バイアス研修を実施したことのない方はぜひご確認ください。

>外部サイト:メルカリ、「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」の社内研修資料を無償公開(プレスリリース)

また、アンコンシャス・バイアスが社内で発生しているかどうかは各種サーベイで確認できます。例えば、360度評価従業員満足度調査エンゲージメントサーベイなどを活用すると良いでしょう。

【ポイント3】心理的安全性の高い組織をつくる

自分の考えや気持ちを言いやすい心理的安全性の高い組織づくりも、DE&Iの推進に欠かせません。心理的安全性とは、組織行動学を研究しているエドモンドソン氏が提唱した言葉で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義されています。

心理的安全性が高い組織では、従業員が自身のパーソナリティ、考え方、信念など、深層的な多様性を発揮できます。そのため、旧来のやり方に対する提言や革新的なアイディアが社内で出てくるようになり、企業の成長や生産性向上に繋がります。

一方で、心理的安全性の低い組織では多様な人材が活躍しにくくなります。そのため、多様な人材を採用しても、心理的安全性を醸成できていないと、離職や生産性低下を招いてしまいます。

専門家が徹底サポート!リアルワンの従業員満足度調査の詳細はこちら

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の実現に向けて

企業にとって人材の多様性は大きな競争力の源泉となります。しかし、多様な人材を確保して能力を発揮させるためには、多様性を尊重するインクルージョンの視点と多様な人材を公平に扱うエクイティの視点が不可欠です。

これらの視点は経営層や人事部門だけが持っていればいいものではなく、組織の中で働くすべての従業員と共有・共感され、体現されていなければなりません。DE&I推進において、今回ご紹介した基本概念や企業事例が参考となれば幸いです。

参考文献