リーダーシップは、ビジネスや組織の世界で非常に重要な役割を果たしています。成功している組織やチームは、優れたリーダーシップによって支えられています。しかし、リーダーシップの種類は多岐にわたり、それぞれ異なる特徴を持っています。そのため、どのような場面で、どのようなリーダーシップが効果的か気になっている人も多いのではないでしょうか?本記事では、リーダーシップ理論を通じて、代表的なリーダーシップの種類について詳しく解説します。
目次
リーダーシップとは?
リーダーシップとは、組織の目標を達成するために、部下やチームに対して行動を促し、成果を出す能力を指します。
優れたリーダーやリーダーシップに関する研究は、1900年代から様々な学者によって進められてきました。ここでは、これまでのリーダーやリーダーシップに関する研究と理論の変遷の歴史ついて解説します。
特性理論
1900年代初頭、優れたリーダーが持つ特性や資質が盛んに研究されていました。1905年、フランスの心理学者のアルフレッド・ビネー氏とテオール・シモン氏が人間の能力差の測定に成功しました。それ以降、優れたリーダーに共通する特性を特定する研究が進みました。
1948年には、アメリカの心理学者、ラルフ・ストッグディル氏により、リーダーと認知されている人の方が、そうでない人よりも、知能、学力、責任遂行の信頼性、活動と社会参加、社会経済的地位などにおいて優れていることが明らかになりました。
このような、リーダーの特性に焦点を当てる理論を「特性理論」と呼びます。
行動理論
特性理論では、優れたリーダーは生まれながら持つ特性や資質で決まると言われてきましたが、リーダーに関する研究が進んでいくにつれて、特性や資質だけではリーダーシップの有効性について十分に説明ができないことに研究者たちは気がつきました。
そして、第二次世界大戦以降は、特性や資質ではなく、優れたリーダーがとる行動に焦点を当てた研究が盛んになりました。
アメリカのオハイオ州立大学は、リーダー行動のほとんどが2つの因子に寄与していることを発見しました。発見された因子の1つ目は、リーダーについていく者(フォロワー)への思いやりやコミュニケーションを表す「配慮」の因子。2つ目は、フォロワーを成果達成に導くために、組織を系統立て、構造化する行動を表す「構造づくり」の因子でした。
また、ハーバード大学によるリーダー行動に関する研究でも、リーダーの行動は2つに分けられると考えられました。1つ目は、対人関係の緊張を緩和してモラルを上げる「社会・感情スペシャリスト」。2つ目は、組織化、要約、指導行動に従事する「課題スペシャリスト」でした。
このように、優れたリーダーに関する説明を特性や資質に帰着させず、行動によってリーダーとなり得るという方向性を示した研究を「行動理論」と呼びます。
「人はリーダーに生まれるのではない。リーダーになるのだ」とリーダーシップの研究で有名な南カルフォルニア大学のウォレン・ベニス教授が説くように、リーダーは育成可能という理論が、現在のメインストリームとなっています。
リーダーシップとマネジメントの違い
具体的なリーダーシップ理論の説明に入る前に、リーダーシップとマネジメントの違いについて解説します。
リーダーシップとマネジメントは異なるものだと考えられています。リーダーシップとマネジメントを区別して考える理由は、リーダーシップの方がマネジメントより重要である、あるいはマネジメントの方がリーダーシップより重要であるという、どちらの方が重要であるか議論するためではありません。
リーダーシップとマネジメントは補完関係にあり、どちらの行動も独自の機能と役割を持っています。そのため、どちらも重要であり、必要です。リーダーシップとマネジメントを適切な場面で使い分けるために、2つの違いについて理解しておくことが求められています。
【マネジメントが必要とされる場面と役割】
- 企業が大規模になったときに、秩序を保ちながら企業を存続させるため。
- マネジメントは、製品やサービスの品質、収益性に一貫性をもたらす。
【リーダーシップが必要とされる場面と役割】
- 環境変化に対処し、企業の競争力を保つために変革を起こすため。
- 強力なリーダーシップは、より大きな変革を実現させる。
【ベニス氏のリーダーシップとマネジメントの比較】
- マネジャーは管理し、リーダーは改革する。
- マネジャーはコピーであり、リーダーはオリジナルである。
- マネジャーは維持し、リーダーは発展させる。
- マネジャーはシステムと構造に焦点をあわせ、リーダーは人間に焦点をあわせる。
- マネジャーは管理に頼り、リーダーは信頼を呼び起こす。
- マネジャーは目先のことしか考えず、リーダーは長期的な視野を持つ。
- マネジャーは「いつ、どのように」に注目し、リーダーは「何を、なぜ」に注目する。
- マネジャーは数字を追いかけ、リーダーは未来を見すえる。
- マネジャーは模倣し、リーダーは創造する。
- マネジャーは現状を受け入れ、リーダーは現状に挑戦する。
- マネジャーは優秀な軍人であり、リーダーはその人自身である。
- マネジャーはものごとを正しく処理し、リーダーは正しいことをする。
※出典:ウォレン・ベニス著「リーダーになる」より抜粋
リーダーシップの種類1:PM理論
PM理論とは、1966年に日本の社会心理学者の三隅二不二(みすみ・じゅうじ)氏によって提唱された行動理論のひとつです。PM理論では、リーダーシップにおいて「Performance行動」を重視するか、「Maintenance行動」を重視するかを、PとMの2軸で考えます。
Peformance行動とは、集団の目的達成や課題解決を目的とするリーダーシップを意味し、Maintenance行動とは、集団の維持を目的とするリーダーシップを意味します。
P行動とM行動を類型化すると、次のような図になります。
実証研究から、最も有効なリーダーシップは成果とチームの関係性の両方に強く働きかけるPM型であるとされています。部下への影響力で考えた場合には、PM型に次いで有効なリーダーシップは、pM型、Pm型と続きます。そして最も効果の低いリーダーシップはpm型となります。
P行動 | |||
低い | 高い | ||
M行動 | 高い | pM型 集団を維持・強化する力はあるが、目標を達成する力は弱い。 | PM型 目標を達成する力があると同時に、集団を維持・強化する力もある。 |
低い | pm型 目標を達成する力も、集団を維持・強化する力も弱い。 | Pm型 目標を達成することはできるが、集団を維持・強化する力は弱い。 |
リーダーシップの種類2:パス・ゴール理論
パス・ゴール理論とは、ロバート・R・ハウス氏によって提唱された理論です。この理論では、部下がうまく目的(ゴール)に到達するために、どのような道(パス)をたどればよいかをリーダーが把握し、どのような働きかけが有効であるか考えることに着目しています。
この理論では、リーダーは行動を選択する際に、集団がおかれている環境条件、部下の能力・性格・経験を鑑みる必要があるとされています。また、パス・ゴール理論でリーダーがとる行動は「指示型」「支援型」「参加型」「達成志向型」の4つに分類されています。
リーダー行動 | 内容 | 効果的な場面 |
指示型 | 目標を達成する方法やタスクについて具体的に指示する。 | ・タスクが曖昧な時やコンフリクトがある時。 ・部下の自立性や経験値が未熟な時。 |
支援型 | 部下の自主性を尊重し、必要に応じて支援する。 | ・タスクが明確な時。 ・リーダーと部下が持つ権限の差が明確な組織の場合。 |
参加型 | リーダー主導だが、決定を下す前に部下に意見を求め、活用する。 | ・部下の自立性が高く、自己解決意欲がある場合。 |
達成志向型 | 高い目標を設定し、部下に尽力を要請する。 | ・困難で曖昧なタスクの時に、努力をすれば高業績につながるという期待で部下を動機づけたい場合。 |
関連記事:「サーバントリーダーシップとは」
リーダーシップの種類3:シチュエーショナル・リーダーシップ理論
シチュエーショナル・リーダーシップ理論とは、ポール・ハーシー氏とケン・ブランチャード氏が提唱した、部下の発達度に合わせてリーダー行動を使い分ける理論です。
この理論では、まずは部下の発達度をD1〜D4の4段階に分けて考えます。そして各発達段階に適したリーダーシップを割り当てると次の図のようになります。
同じ部下に対してでも、業務に対する発達度に応じてリーダー行動を変える点がシチュエーショナル・リーダーシップ理論の大きな特徴です。
部下の発達度 | 適したリーダーシップ | 部下に対する行動 | |
S1 | D1 経験に乏しい新入社員や異動してきたばかりで業務内容に対する知識が少ない段階。 | 「指示型」 タスク面の関心に重きを置く。 | 具体的に何をしたらいいかしっかりと示す。 |
S2 | D2 業務に少し慣れ1人でできる範囲がふえてきた段階。 | 「コーチ型」 タスク面の関心にも部下への配慮にも重きを置く。 | 指示を少し減らし、指導しながら部下にも考えさせる。 |
S3 | D3 スキルも身につき非定型業務にも対応できるようになってきた段階。 | 「支援型」 タスクへの関心は最小限にし、部下への配慮に重きを置く。 | 考え方の方向性を合わせた上で、部下が意思決定できるように仕向ける。 |
S4 | D4 リーダーの公認として考えられるほど発達した段階。 | 「委任型」 タスク面での干渉も配慮も最小限。 | 権限移譲を大いに行い、できるだけ部下1人で遂行させる。 |
リーダーに必要なスキル
リーダーシップは、継続的な学習や努力によって向上させることができると言われています。ここでは、リーダーシップ能力を向上させるための方法とリーダーに必要なスキルについてご紹介します。
明確なビジョンと信念
リーダーには、明確なビジョンを持ち、そのビジョンをチームに伝えるスキルが必要です。ビジョンは、将来の目標や方向性を示すものであり、それに沿ってチームが進んでいくことができます。逆にビジョンを持たないチームは、目標が曖昧で方向性が定まらず、仕事に対するモチベーションが低下する可能性があります。
また、リーダーは強い信念を持つことが大切です。リーダーとしての信念を持つことで、部下が共感し、自分の指示に従いやすくなります。
決断力
リーダーには、迅速かつ正確な決断力が必要です。意思決定が遅れたり、間違った判断をした場合、チームに悪影響を与えることがあります。リーダーは、リスクを冒さない限り、決断を先送りにすることなく、必要な情報を収集し、状況を分析して、適切な決断を行うことが求められます。
行動力
リーダー自身が行動を起こすことで、チームのモチベーションを高めることができます。言葉だけでなく、行動が大切です。自分自身がやるべきことを率先して行い、その姿勢がチームに伝わることで、部下も同様の行動を起こしやすくなります。
コミュニケーション力
リーダーにとって、コミュニケーション能力は非常に重要です。部下との円滑なコミュニケーションを図ることで、情報共有や問題解決がスムーズになり、チームのパフォーマンスを向上させることができます。
リーダーシップを高める方法
リーダーシップ能力を高める方法として、以下のようなものが挙げられます。
継続的に学習する
リーダーシップは、継続的な学習によって向上するものです。本や記事を読んだり、セミナーやワークショップに参加し、新しいアイデアやスキルの習得を心がけましょう。
周囲からフィードバックを受け入れる
リーダーシップ能力を向上させるためには、周囲からのフィードバックを受け取ることが大切です。部下や上司から意見を聞くことで、改善点を発見できます。また、対面で受けるフィードバックだけではなく、360度評価や従業員満足度調査の結果も参考になります。
さらに、自分が所属する部署のメンバーだけではなく、他部署や社外の経験豊富なメンターからアドバイスを受けることも効果的です。信頼できるメンターを積極的に探してみるのもいいでしょう。
チームビルディングを実践する
チームビルディングの実践によって、チームメンバーの協力関係やコミュニケーション能力を向上させることができます。また、お互いの考えや価値観、経験を把握することができ、本記事でご紹介した理論を実践する上でも大いに役立ちます。
組織はリーダーの器以上にならない
組織の成長はリーダーの器で決まってしまうと言っても過言ではありません。そのため、リーダーが組織の成長の制約条件になってしまうことは避けなければなりません。
特性理論から行動理論へ変遷したことからも、リーダーシップは後天的に身につけることが可能であることが証明されています。皆さまのリーダーとしての成長に、本記事でご紹介した理論がお役に立てば幸いです。
参考文献
- ウォレン・ベニス. 「リーダーになる」.有限会社海と月社, 2008
- グロービス経営大学院. 「【新版】グロービスMBAリーダーシップ」. ダイヤモンド社, 2014
- John P. Kotter. “What Leaders Really Do”. Harvard Business Review, 2001