「成果につながる行動特性」を意味するコンピテンシー。その最もスタンダードな使い方が、「コンピテンシー評価」です。コンピテンシーモデルを評価に落とし込み、評価基準とするコンピテンシー評価には様々なメリットがあります。本記事ではコンピテンシー評価を深掘りしながら、評価基準の設定方法や評価項目の書き方を解説します。
目次
コンピテンシー評価とは
コンピテンシー評価とは、「高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性」であるコンピテンシーを評価基準にした評価システムのこと。コンピテンシーモデル(お手本となる人材像)を定め、そのモデルに近づけるよう社員一人ひとりが個別の目標を設定、自律的かつ主体的に行動を改善していくというものです。人事評価はもちろん、採用面接や人材開発、組織マネジメントといった様々な場面で活用されています。
これまで日本の評価システムは、社員の能力に応じて等級を設定する「職能資格制度」が多くの企業で採られてきました。職能資格制度は、日本独特の評価システムです。ゼネラリストの養成には一定の効果があるものの、評価の際に「評価者の主観が入りやすく公平性が低い」「人材の専門性が十分評価されない」といった大きな課題を抱えていました。
さらに、終身雇用や年功序列という「日本型雇用」が崩れだし、社員と企業の関係性が変化していくなか、「成果につながる行動特性」にフォーカスし、評価基準が明確で公平性の高いコンピテンシー評価に注目が集まっているのです。
コンピテンシー評価導入のメリット・デメリット
それでは、コンピテンシー評価を導入するメリット・デメリットを見ていきましょう。
コンピテンシー評価のメリット
1.効率的に人材育成できる
コンピテンシー評価は、「高いパフォーマンスを発揮する人材の行動特性」を基準に評価項目(後述します)を設定しています。評価項目を具体的に「見える化」しているため、社員にとっては「どうしたら評価されるのか」がイメージしやすくなります。とるべき行動が明確であるため、必要な人材を効率的に育てることができるのです。
2.社員の納得度が高まる
コンピテンシー評価は評価基準が具体的であるため、評価者の主観が入りにくく公平性が高まります。高い公平性は、評価される社員の納得度を高めます。高い納得度は社員のエンゲージメントを高め、成長へのモチベーションも高めるでしょう。評価者が社員を評価しやすくなるのも大きなメリットです。
3.人材マネジメントがやりやすい
コンピテンシー評価は、どのようなコンピテンシーを持つ人材が必要なのかを明確にするため、適材適所の人材マネジメントが可能になります。適切な人材配置により社員は能力を発揮しやすくなり、不満やストレスを軽減させるでしょう。さらに、コンピテンシーには企業のビジョンやパーパスを反映しているため、社員と企業の方向性を合わせる効果も期待できます。また、コンピテンシー評価を採用に活かせば、活躍できる人材の獲得精度を高めるのです。
コンピテンシー評価のデメリット
1.導入に時間がかかる
コンピテンシー評価を導入するには、多くの工程があり相応の時間と手間を要します。部署や職務、役割ごとに評価基準が違うため、企業規模や部署数次第では1~2年かかる場合もあります。しかも、コンピテンシー評価の運用には社員の共通理解が欠かせず、ここにも多くの時間と手間が必要です。
2.定期的なメンテナンスが必要
コンピテンシー評価は、一度設定して終わりではありません。企業の成長ステージや経営環境の変化に合わせて、コンピテンシーモデルの再設定、また評価基準の見直しといったメンテナンスが必要です。コンピテンシー評価は、企業や人材の成長のためにあります。定期的な内容の更新は欠かせないとの認識をもって、導入後も継続的な試行錯誤が必要なのです。
コンピテンシー評価基準の設定方法
コンピテンシー評価の中核になるのが「評価基準」です。ここでは、コンピテンシー評価基準の設定方法を解説します。
コンピテンシーモデルの設定
コンピテンシー評価基準の設定は、そのベースとなる「コンピテンシーモデル」を作ることから始まります。コンピテンシーモデルとは、コンピテンシーを洗い出し、実務に即して具体化した「お手本となる人材像」のこと。評価基準の設定には欠かせない重要なものです。このコンピテンシーモデルの作り方については、「コンピテンシーとは?意味や使い方、能力やスキルとの違いについて」で詳しく解説しています。コンピテンシー評価基準の設定にあたっては、ぜひこの記事を読まれた上で以降を読み進めていってください。
コンピテンシーモデルのレベル分け
コンピテンシーモデルができたら、評価基準を設定します。コンピテンシーモデルの項目ごとに、レベル分けを行いましょう。コンピテンシー評価が使いやすいように、5段階にレベル分けします。
レベル1(受動行動)
指示がなければ何をして良いかわからず、指示を受けて行動する状態。
レベル2(通常行動)
任された仕事をミスなく取り組む状態、いわゆる通常社員の行動。
レベル3(能動・主体行動)
しっかりとした目的意識を持ち、目的の達成に向け考えて行動できる状態。
レベル4(創造・課題解決行動)
現状をより良く変革するために、工夫して行動できる状態。
レベル5(パラダイム転換行動)
新しい独創的なアイデアで、周囲を巻き込み状況を大きく変える行動ができる状態。
この評価基準を、人事評価や人材育成、採用面接といった様々な場面に活かしていくことになります。
コンピテンシー人事評価シートの作成
コンピテンシー評価を活用(運用)していくには、「コンピテンシー評価シート」が必要です。コンピテンシー評価シートとは、評価項目や評価軸、尺度などを一覧化した自社のオリジナルシートのこと。コンピテンシーモデルの具体像や目指すべき行動指針を記載します。ここでは、コンピテンシー評価シートに記載する内容について解説します。
評価項目の分類
コンピテンシーを言語化したものが「評価項目」です。評価項目の分類には、定形があるわけではありません。自社に合った形で評価項目を分類し記載します。ここでは、コンピテンシーを6つの領域20項目に分類した「Spencer & Spencerのコンピテンシーモデル」をベースに、評価項目を分類します。
※コンピテンシーの領域:評価項目→評価項目の具体的内容
達成/行動:達成思考、秩序・品質・正確性への関心、イニシアチブ、情報収集
→成果を出しているか、自分で考えて動いているか、様々な情報源から情報収集できているか
援助/対人支援:対人理解、顧客支援志向
→相手の立場になって行動できているか、物事を客観的に見ているか、自分の感情だけで動いていないか
インパクト/対人影響力:インパクト・影響力、組織感覚、関係構築
→傾聴できているか、提案できているか、関係構築力はあるか
管理領域:他者育成、指導、チームワークと協力、チームリーダーシップ
→周囲への配慮はあるか、積極的なかかわりができているか、リーダーシップはあるか
知的領域:分析的志向、概念的志向、技術的・専門職的・管理的専門性
→物事を詳しく分析し効果的な戦略を立てられるか、専門性を持ち活用できているか
個人の効果性:自己管理、自信、柔軟性、組織コミットメント
→自己管理はできているか、柔軟性はあるか、組織への積極的なかかわりができているか
評価軸を決める
分類した評価項目ごとに、「どのような行動をとることで評価されるのか」を言語化したものが「評価軸」です。ポイントは、曖昧で抽象的な表現にしないこと。評価軸が曖昧では、評価者の主観が入る可能性があり、公正な評価ができません。明確かつ公平な評価のために、評価シートには具体的な評価軸を記載するようにしてください。
評価尺度の設定
評価尺度を設定、記載します。評価尺度とは、「5・4・3・2・1」「S・A・B・C・D」など、数字や記号を使って評価段階を表すことです。評価基準や評価項目が設定されていても、評価尺度が曖昧では正確な評価ができません。
評価尺度には、企業全体で活用する「共通基準」と、社員個人の目標をベースに設定した「個人基準」の2種類があります。共通基準は、期待した要求を「S特別大きく上回っている→A大いに満たしている→B要求通りにできている→C下回っている→D大きく下回っている」で評価。個人基準では、目標に対してできるだけ具体的な尺度を設定し評価します。
【例文】コンピテンシー評価項目の書き方
最後に、コンピテンシー評価シートに記載する評価項目の書き方を、例文をあげて紹介します。
- 自己成熟性:相手の立場を理解した発言や行動をし真摯な態度を持つ。
- 意思決定力:困難な状況でも最後まで諦めず状況に応じて最適解をだす。
- チームワーク:自分自身の行動や発言によりチームをまとめ目標達成意欲を高める。
- 戦略的思考:状況を客観的に捉え正しく分析し自分の考えを論理的に展開する。
- 業務遂行力:業務の流れを正確に把握し安定的に運用する。
- 情報処理力:様々な情報の中から素早く正確な情報を収集し目的に応じて整理し活用する。
- 対人志向性:相手に対して的確に内容を伝え相互理解を促進する。
- 統率力:仕事の流れや役割分担を把握した上で組織や人材を引っ張る。
コンピテンシー評価導入の注意点
コンピテンシー評価を導入する際の注意点を解説します。
- 「成果」を意識する
- 完全主義者にはならない
コンピテンシーとは、「成果につながる行動特性」のこと。意識すべきは、「成果」をあげることです。評価軸にそって行動すること自体が目的になっては意味がありません。あくまでも、成果をあげることが目的であることを忘れないようにしましょう。また、完全主義はNGです。「コンピテンシーを完璧に満たす人材はいない」との認識が必要。コンピテンシーモデルを目指し「どう行動し何を身につけていけば良いのか」を理解することが重要なのです。
コンピテンシー評価の導入事例
コンピテンシー評価は、企業でどのように活用されているのか。ここでは企業の導入事例を紹介します。
富士ゼロックス株式会社
富士ゼロックスでは、管理職以上を対象に職能資格制度を廃止。役割を基準とする人事制度改革を行い「役割の使命・責任・権限」を設定、役割に就く条件をコンピテンシーで明確化しています。
全社員に明示されているコンピテンシーは「コンピテンシー辞書」と呼ばれ、「専門コンピテンシー」として評価項目を構成しています。
専門コンピテンシー:技術系、SE系、サービス系、事務系、営業系、スタッフ系
コンピテンシー評価の導入により、適材適所の人材マネジメントが可能になっています。
凸版印刷株式会社
凸版印刷株式会社では、全社員を対象に自社オリジナルのコンピテンシーを「5つの価値ある行動」として設定しています。
5つの価値ある行動
お客様からの信頼、事業基盤の強化、社会的責任の遂行、組織力の強化、企業価値の向上
凸版印刷株式会社では、コンピテンシーを実践につなげるための階層別研修を人事制度に組込み、社員への浸透を図っています。
楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社では「楽天主義」として、「ブランドコンセプト」「成功のコンセプト」をメインとするコンピテンシーを評価基準にしています。
ブランドコンセプト:大義名分、品性高潔、用意周到、信念不抜、一致団結
成功のコンセプト:
常に改善・常に前進、Professionalismの徹底、仮説→実行→検証→仕組化
顧客満足の最大化、スピード!!スピード!!スピード!!
コンピテンシー評価基準を企業全体で共有し、意識や価値観の統一を目指しています。「楽天主義」によって、グローバルに事業展開する中でも、全社的な意思統一が徹底されています。
コンピテンシー評価で社員の行動を促す
「成果につながる行動特性」であるコンピテンシーを評価システムに取り入れることで、社員の行動を促すことができます。社員の自律的かつ主体的な行動は、社員自身の成長と共に組織の成長にもつながるのです。多くのメリットを持つコンピテンシー評価ですが、導入に向けた「時間と手間」をどうしていくのかが最も大きな課題でしょう。
リアルワン株式会社は、100万人超にご利用いただく調査・評価の専門会社。科学的根拠に基づく信頼性の高い調査を行い、個人や組織の成長をサポートしています。コンピテンシー評価については、「コンピテンシー・サーベイ(360度評価)」をご用意。卓越した成果や行動に結びつく「個人の行動特性」を洗い出します。
評価項目は、「Spencer & Spencerのコンピテンシーモデル」をもとに日本の環境に合わせて独自開発。パフォーマンスとの関係が強いとされる11種類のコンピテンシー、「成果重視・率先行動・セルフコントロール・影響力・チームワーク・知識/能力・サービス重視・他の人の理解・コミットメント・クオリティー重視・柔軟性」をもとに、コンピテンシー評価の導入をサポートします。
コンピテンシー・サーベイの結果は、人事評価や人事考課はもちろん、個人の行動変容やパフォーマンスの向上に活かすことが可能です。コンピテンシー評価の導入をご検討の企業様は、ぜひリアルワンにご相談ください。