従業員満足度が上がることで顧客満足度が向上し、結果として財務業績が伸びていく好循環は企業にとって理想的な形といえるでしょう。一方で、本当に従業員満足度と顧客満足度、財務業績との間に相関関係があるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
本記事ではESとCS、財務業績に相関性があることを明らかにしている調査・研究、論文を解説するとともに、従業員満足度が高い企業の取り組み事例も紹介します。
目次
従業員満足度(ES)・顧客満足度(CS)・財務業績の相関性における調査・論文

従業員満足度と顧客満足度には相関性が認められており、結果として財務業績の向上につながることが明らかになっています。ここでは従業員満足度と顧客満足度、財務業績の相関関係に着目した調査・論文について見ていきます。
従業員満足度・顧客満足度・財務業績のサービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは
サービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは、従業員満足度・顧客満足度・財務業績における相関関係を整理したフレームワークのことをいいます。1990年代にハーバード・ビジネススクールのへスケット教授(J.S.Heskett)らが提唱したモデルです。同氏の著書『カスタマー・ロイヤルティの経営(日本経済新聞出版)』では、従業員満足度と顧客満足度には99%の因果関係があるという調査結果も示されています。
サービス・プロフィット・チェーンを大まかに整理すると、従業員満足度が上がると顧客に良質なサービスを提供できるようになり、顧客満足度が向上することで財務業績が向上するという流れになっています。得られた収益を社内サービスや環境整備に還元することで、さらに従業員満足度が上がっていき、継続的な成長サイクルをつくることができます。
サービス・プロフィット・チェーンを7つのステップに整理したのが以下の図です。

- 社内サービスの質を向上(職場環境や待遇面、福利厚生の整備など)
- 従業員満足度が向上
- 従業員の定着率・生産性が向上
- サービス品質が向上
- 顧客満足度が向上
- 顧客ロイヤルティが向上
- 売上・利益が向上
上図からわかるように、サービス・プロフィット・チェーンの起点となるのが従業員満足度です。昨今は顧客第一主義を掲げて顧客起点のマーケティング活動やサービス向上に取り組む企業が多くなっていますが、サービス・プロフィット・チェーンの考え方を参考にすると、これらを実現するには、まず従業員満足度の向上に取り組むことが必須といえるでしょう。
従業員満足度・顧客満足度・財務業績の関係における論文
サービス・プロフィット・チェーンの妥当性・有用性を示す実証的な研究は日本においても行われています。2014年に鈴木研一氏と松岡孝介氏が発表した論文「従業員満足度、顧客満足度、財務業績の関係ーホスピタリティ産業における検証一」では、ホテル業を営む日本企業において6年間にわたってデータを収集し、従業員満足度と顧客満足度、財務業績の一連の関係性を明らかにしています。
検証に際してはサービス・プロフィット・チェーンに基づき、「従業員満足度」「サービスの質」「顧客満足度」「稼働可能客室当たりの粗利益」の分析モデルを設定し、それぞれの相関係数から関係性を分析しています。

※「従業員満足度、顧客満足度、財務業績の関係ーホスピタリティ産業における検証一」を参照して弊社にて作成
調査・検証によって導き出された結果は以下の通りです。
- 従業員満足度とサービスの質には相関が認められる
- サービスの質と顧客満足度には相関が認められる
- 顧客満足度による稼働可能客室当たりの粗利益への効果が認められる
これらの結果から、従業員満足度が上がることで顧客満足度が高まり、財務業績が向上するというサービス・プロフィット・チェーンのフレームワークには妥当性・有用性があることが示されました。
※参照:「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係 ーホスピタリティ産業における検証一」
従業員満足度・顧客満足度とは

そもそも従業員満足度・顧客満足度とは何か、あらためて理解を深めておきましょう。
従業員満足度(ES)とは
従業員満足度とは、従業員の仕事や会社に対する感情(満足感)を測る指標のことです。Employee Satisfactionの頭文字をとってESと呼ばれます。
アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ氏によると、従業員満足度に影響する要因には満足を招く「動機付け要因」と、不満を引き起こす「衛生要因」の2つがあるとしています(二要因理論)。
具体的には、次のような要素が挙げられます。
動機付け要因(満足を招く要因) | 衛生要因(不満を引き起こす要因) |
達成感周囲からの承認仕事そのものへのやりがい責任の拡大昇進昇格成長実感 など | 会社の方針職場環境職場の人間関係(上司・同僚・部下)労働条件給与保障 など |
ここで注意したいのは、衛生要因は不満を引き起こす要因であって、これらを改善したからといって必ずしも従業員満足度が高まるわけではない点です。また、衛生要因に問題がある状態のまま動機付け要因に働きかける施策を打っても、思うような効果を得られないことも想定されます。
したがって、従業員満足度を高めるには自社の現状を正しく把握した上で、衛生要因の改善と動機付け要因の強化の双方に取り組んでいくことが重要になります。
顧客満足度(CS)とは
顧客満足度とは、顧客が商品・サービスに対してどの程度満足しているのか、度合いを測る指標のことです。Customer Satisfactionの頭文字をとってCSと呼ばれます。
顧客満足度調査に用いられる指標はいくつかありますが、世界的に使われている顧客満足度指標であるCSI(Customer Satisfaction Index)では以下の5項目において調査・スコアリングします。
<CSI>
- 顧客期待値(商品・サービスに対する期待値)
- 顧客不満度(商品・サービスに対する不満)
- 顧客忠実度(再購入の意向 ※顧客ロイヤルティ)
- 知覚品質(商品・サービスに対する全体的な評価)
- 知覚価値(価格に対する評価 ※コストパフォーマンス)
上記を参考にすると、顧客満足度を高めるには「顧客の不満を取り除く」「顧客の期待値を上回る商品・サービスを提供する」の2つの側面からアプローチすることが重要になるといえます。
従業員満足度が高い企業の取り組み事例

ここでは、リアルワンの従業員満足度調査を活用しながらES向上に取り組んでいる企業の事例を紹介します。ぜひ参考にしてください。
オリコン株式会社
オリコン・グループ様は、「ORICON NEWS」「オリコン顧客満足度」「オリコンランキング」などを提供する情報メディア・調査会社です。同社ではビジネス環境が変化する中で人的資源をどのように活かしていくべきかを検討するにあたって、組織の現状を正しく把握するためにリアルワンの従業員満足度調査を導入しました。
全国平均よりも高い水準の従業員満足度を実現している同社では、調査結果を踏まえて次のような人事施策を実施しています。
<実施した人事施策の例>
- リスキリング(※): デジタル技術の進化に対応するため、社員の専門性強化と領域拡張を目的とした能力開発のリスキリングを実施
- 待遇改善: 物価高騰において従業員の生活の安定を図るため、アルバイトを含めた直接雇用の従業員にインフレ特別手当を支給。昇給・賞与水準の引き上げも実施
- 環境改善: 働きやすい職場環境づくりを目的に空調設備などを整備
これらの施策は、従業員満足度調査の結果をもとに優先度高くやるべきことを明らかにした上で実施されています。調査結果というエビデンスがあることで、コーポレート単位・事業部単位の施策を検討・決定するスピードが上がっている点がポイントです。
また、単に不満が多い項目に取り組むのではなく、不満を生む真因をしっかり考え抜いて施策を検討することが良い効果を生み出すポイントだといいます。
※リスキリング:時代の変化に応じて新しい知識・スキルを習得する取り組み
参考:多様な人材が活躍する「オリコン」が従業員満足度を上げ続けられる理由とは
KCJ GROUP株式会社
KCJ GROUP様は、「職業・社会体験を通して、こども達の生きる力を育む」をコンセプトに、こどもの職業・社会体験施設『キッザニア』の企画・運営・開発を行っている会社です。同社では、自社の組織課題を定量・定性の両面で客観的に把握し、改善すべきことの優先度を判断できるようにするため、リアルワンの従業員満足度調査を継続的に活用されています。
年1回の定点観測により、調査結果を次のような場面に活かしています。
<従業員満足度調査の活用方法>
- プラスアルファで強化すべきこと、マイナス面ですぐに改善すべきことの両方を抽出して施策の検討と優先順位付けに活用
- すでに施策を講じている項目については満足度の変化をモニタリングしてPDCAを回す
実際に行った施策例では、新人事制度を作ったことが挙げられます。時代に合わない古い制度が残っていることに課題感を持っていましたが、従業員満足度調査の結果においても問題点が明確になったことを受けて、従来の制度を大幅に改善するに至ったといいます。
従業員からは、従業員満足度調査に対して「会社に対する思いや要望を伝えられる機会になっている」「自分のチームでも貢献できることはないか、自分事にしやすい」という声が上がっており、会社と従業員との信頼関係の構築およびCS向上へとつながる好循環を生み出すフックとなっています。
参考:こども達からも働く人からも愛される“キッザニア流“魅力あふれる組織、人の育み方とは?
質の高い従業員満足度調査なら調査・評価専業のリアルワンへ

従業員満足度と顧客満足度、財務業績には相関関係があり、好循環を生み出すための起点となるのが従業員満足度の向上です。組織の健康診断とも呼ばれる従業員満足度調査は、組織課題の抽出や施策の検討において有益な情報を得られる手法です。
一方で、調査品質を担保するには「信頼性の高い結果を引き出す調査項目の質」と「次のアクションにつなげられる適切な分析」が欠かせません。自社のリソース・ノウハウだけでは心許ないというケースもあるでしょう。
調査・評価専業のリアルワンでは、豊富な実績と経験をもとに従業員満足度調査の設計・運用をサポートしています。
<リアルワンの従業員満足度調査の特長>
- 確かな理論に基づいた信頼性・妥当性のある調査設計
- 標準項目にくわえ、課題に応じたオリジナル項目の設計も可能
- 組織・人事の専門家としての視点から考察ポイントを提供
- 調査結果の詳細を簡単に集計・分析、ダウンロードできるWeb集計システムを活用

※調査レポート例
「従業員満足度調査をCS向上につなげたい」「何から始めればよいのかわからない」という企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。