少子高齢化による生産年齢人口の減少に、歯止めがかからない状況が続いています。そこに雇用の流動化が加わり、ますます人材の確保が難しい時代に突入しました。近年では人材の確保・定着に向け、従業員満足度を向上させる施策が注目されています。では、従業員満足度を向上させる施策とは、どのような取り組みなのでしょうか。また、企業はどのような施策に取り組んでいるのでしょうか。本記事では、従業員満足度を向上させる施策と共に、企業の取り組み事例を具体的に解説します。
本記事は、次のような人事関係者の役に立ちます。
・従業員満足度の重要性を理解したい
・従業員満足度を向上させる施策を調べている
・従業員満足度の向上に取り組んでいる企業の事例を知りたい
・従業員満足度を計測する方法を知りたい
目次
従業員満足度とは
「従業員満足度」とは、ES(Employee Satisfaction)とも呼ばれ、従業員が自分の働く職場に対して感じている「満足度を表す指標」のことです。仕事に対する「やりがい・モチベーション」、会社における「働きやすさ・人間関係」、そして「福利厚生・給与」などの各項目を調査し、数値で可視化されます。
生産年齢人口の減少や人材の流動性の高まりなど、労働市場は大きく変化しています。このような環境変化にあっても、企業は競争力を維持し成長していかなければなりません。この重要な課題をクリアし、人材の確保・定着をはかろうとする中で、従業員満足度を向上させる施策が注目されているのです。
従業員の満足度を高める重要性
厚生労働省は、次のような調査報告をまとめています。
「従業員と顧客満足度の両方を重視する企業」は、「顧客満足度のみを重視する企業」と比べ、業績が向上し、人材確保ができている。
厚生労働省『取り組みませんか?「魅力ある職場づくり」で生産性向上と人材確保』より
これまで企業では、顧客が製品やサービスに対して感じている満足度の指標である「顧客満足度」を重視してきました。
しかし厚生労働省の調査報告からわかる通り、最近では顧客満足度と共に従業員満足度も重視し高めることが、企業業績の向上や人材確保につながるということが明らかになっています。従業員満足度を高める施策を優先的に取り組む重要性が増しているのです。
従業員の満足度を高めるメリット
では、従業員の満足度を高めるメリットを整理してみましょう。
従業員の満足度を高めるメリット
・従業員の定着率アップ
・生産性の向上
・製品やサービスの「質」の向上
・顧客満足度の向上
・企業業績の向上
従業員満足度が高いということは、自らが働く職場環境に満足しているということです。当然、従業員の離職率は下がり、定着率がアップするでしょう。高い満足感はさらに、仕事に対するモチベーションを高め、仕事のパフォーマンスを高めます。従業員の高いパフォーマンスは、生産性と共に、製品やサービスの「質」を向上させ、最終的には顧客満足度や企業業績の向上につながっていくのです。
>> 従業員満足度を高めるメリットについては「コチラ」の記事もご覧ください。
従業員満足度を向上させる施策7選
ここでは、従業員満足度を向上させる7つの施策を解説します。
従業員満足度を向上させる施策7選
①:業務効率化により労働時間を減らす
②:経営理念・ビジョン・パーパスを共有する
③:衛生要因と動機づけ要因の両方を満たす
④:エンパワーメントを実践する
⑤:DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進する
⑥:ワークライフバランスを整える
⑦:社内イベントを開催する
それぞれ詳しく解説します。
①:業務の効率化により労働時間を減らす
残業や休日出勤といった時間外労働の多さは、従業員満足度を下げる要因になります。業務の効率化をはかる取り組みは、従業員満足度を向上させる重要な施策のひとつでしょう。まずは、業務プロセスを見直し「ムリ・ムダ・ムラ」省くことから始めましょう。例えば、会議の時間を短縮すること、ビジネスチャットやタスク管理ツールを活用することは、すぐにでも着手できます。さらには、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)で事務処理を自動化したり、IT・AIツールを導入しDXに取り組んだりなど、効率化に向けてできることは多様化しています。今の業務フローにムリ・ムダ・ムラがないか見直すと同時に、必要なサービスやツールなども導入しつつ、うまく業務効率化を進めていきましょう。
②:経営理念・ビジョン・パーパスを共有する
会社の「経営理念・ビジョン・パーパス」を共有し共感度を高めることは、従業員満足度の向上につながります。なぜなら、「経営理念・ビジョン・パーパス」が従業員に浸透している組織においては、組織への信頼感や従業員同士の一体感、仕事に対する誇りを持てるようになるからです。「経営理念・ビジョン・パーパス」にそった活動ができているのかを振り返るミーティングや、社内報(紙に限りません)による意識づけなどの施策を通して、「経営理念・ビジョン・パーパス」と仕事との関連性、そして社会的な役割を従業員全員と共有し共感度を高めていきます。
③:衛生要因と動機づけ要因の両方を満たす
「衛生要因」とは、仕事の「不満」にかかわる要因です。一方「動機づけ要因」とは、仕事の「満足度」にかかわる要因です。「衛生要因」と「動機づけ要因」は、アメリカの臨床心理学者「フレデリック・ハーズバーグ」によって提唱されました。それぞれの具体例をあげてみましょう。
- 衛生要因
・給与、労働条件、福利厚生、経営方針、人事労務体制、人間関係、仕事の安全性など - 動機づけ要因
・達成感、仕事内容、周囲の承認、責任、昇進昇格、裁量権、成長機会など
衛生要因が満たされていないと、従業員に「不満」が生じます。不満を解消するには、衛生要因を満たす必要があります。しかし、衛生要因が満たされたとしても、それは不満が解消されただけであり、仕事に対する満足感が得られたわけではありません。仕事に対する満足感を得るには、動機づけ要因を満たす必要があります。ただしここも同様に、動機づけ要因が満たされたとしても、それは満足感を得ただけであり、仕事に対する不満が解消されたわけではないのです。衛生要因と動機づけ要因を同時に満たす。これが、従業員の不満を解消し満足感を得ることにつながるのです。
④:エンパワーメントを実践する
エンパワーメントとは、「決定権を上司や管理職から現場の人材に委譲する」ことです。具体的には「従業員一人ひとりが持てる能力を十分に発揮し、自律的な意思決定によって主体的に行動できるようにする」ことをいいます。エンパワーメントの実践により、従業員は自らの判断で業務を行うことになります。権限を持った業務の遂行は、従業員の「モチベーション」や「やりがい」を高めるでしょう。それは同時に、従業員満足度を向上させることにつながるのです。
>> エンパワーメントについては「コチラ」の記事もご覧ください。
⑤:DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進する
DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は、次の3つを合わせた言葉です。
- D(Diversity):ダイバーシティ→多様性
- E(Equity):エクイティ→公平性
- I(Inclusion):インクルージョン→包括性
多様な人材を受け入れ、すべての人材が公平な機会のもとで、価値を認めあい活かしあえる環境を実現するという考え方です。DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進とは、多様な人材が能力を活かしあえる組織を整備するということ。それは、「人材の確保」「イノベーションの創出」「より良い意思決定」「モチベーションアップ」につながると共に、従業員満足度を高めることにつながるのです。
>> DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)については「コチラ」の記事もご覧ください。
⑥:ワークライフバランスを整える
「仕事と生活の調和」を意味するワークライフバランスを整えることは、従業員満足度を向上させます。「長時間労働を見直す」「ハラスメント対策を徹底する」「育児休暇や介護休暇を取得しやすくする」「短時間勤務やリモートワークといった柔軟な働き方に対応する」など、ワークライフバランスを整える施策は数多くあります。意識すべきは、「仕事と生活の両立支援」。多様な働き方が進む中で、ワークライフバランスを整えることは、従業員満足度を向上させる上で喫緊の課題といえるでしょう。
⑦:社内イベントを開催する
社内イベントを開催し、コミュニケーションの活性化をはかることも、従業員満足度を向上させることにつながります。どのような社内イベントがあるのか、整理してみましょう。
- 飲食系
ランチ会、懇親会、誕生日会、お花見、忘年会・新年会、歓送迎会など - スポーツ系
ボウリング、運動会、フットサル、野球、釣り、e-sportsなど - 季節系
お花見、バーベキュー、クリスマスパーティー、ハロウィンパーティーなど - 旅行系
社員旅行、キャンプ、バスツアー、登山、スポーツ観戦など
他にも、社内表彰イベントや各種ゲーム大会、オンライン会など、コミュニケーションを活性化させる社内イベントはアイデア次第です。風通しの良い職場は、働きやすさの重要な要素。社内イベントの開催は、従業員満足度を向上させる施策として、取り組む意味は大きいといえるでしょう。
従業員満足度向上に取り組む企業の事例
ここでは、従業員満足度の向上に取り組む企業の事例を紹介します。
従業員の「働きがい」を高める取り組み
デジタルメディアを展開する「株式会社キュービック」は、次の3つをテーマに、従業員の「働きがい」を高める取り組みを行っています。
- オープネス(情報の積極開示)
- 心理的安全性を保つコミュニケーション
- 挑戦の奨励
「オープネス(情報の積極開示)」によって、従業員であればだれでも自由に経営会議に参加できるようになりました。また「心理的安全性を保つコミュニケーション」を目指し、「FAM(ファム)」と呼ばれるコミュニティを設置。年齢や性別、部署の垣根を越えた従業員間の助け合いの場を提供しています。さらに、「挑戦の奨励」というテーマでは、社内表彰制度を導入し盛大な表彰イベントを実施することで、挑戦に向けて背中を押す環境を整えています。
こういった取り組みにより、従業員の「働きがい」が高まり、「2023年版 日本における『働きがいのある会社』ランキング/中規模部門」において、ベストカンパニーに6年連続で選出されています。
企業理念を浸透させる取り組み
ニュースメディア「NewsPicks」を運営する「株式会社ユーザベース」では、企業理念の浸透に力を入れています。その取り組みとして、いつでも持ち歩くことができる「従業員が守るべき7つのルール」という冊子を作成。次のような成果につなげています。
- 守るべきルールの明確化
- 企業理念の浸透
- 行動指針への理解
- 新しいメンバーへの理解促進
- 企業理念にそった行動の実現
「従業員が守るべき7つのルール」により、守るべきルールや企業理念が浸透し、従業員が行動を起こしやすくなりました。同じ方向性を持って行動できる環境で、従業員満足度も向上しています。
福利厚生を充実させる取り組み
フリーマーケットを運営する「株式会社メルカリ」は、福利厚生を充実させることで従業員満足度を高めることに成功しています。重視したのは、「ライフイベント」を意識した休暇制度の充実化です。
充実化した休暇制度
- 産前産後休暇
- 育児休暇
- 介護休暇
「産前産後休暇」「育児休暇」に関しては、「休暇中の給与を100%保証」。制度の充実化を通して、ライフイベントによる環境変化に左右されない“安心して働ける職場環境”を実現しています。これは、「メンバーがこれまで通り、思いっきり働けること」を目的とした社内制度「merci box(メルシーボックス)」の導入によって実現しました。その他にも、「妊活支援」「認可外保育園補助」「子どもの看護休暇」「病児保育費支援」など、従業員をサポートする様々な支援制度を導入することで、「パパ・ママ」にとって働きやすい職場、そして従業員満足度の高い組織を実現しています。
従業員満足度を計測する方法
従業員満足度を向上させる7つの施策を解説しました。ただ施策に取り組む前には、従業員の現在の状態(満足度)を正確に把握する(測定する)必要があります。そして施策を実行した後は、従業員の変化を把握する「効果測定」が必要です。ここでは、従業員満足度を「計測」する方法を解説します。
【従業員満足度を計測する2つの方法】
・従業員満足度調査(ES調査)
・eNPS調査
従業員満足度調査(ES調査)
「従業員満足度調査:ES(Employee Satisfaction)調査」とは、従業員が仕事や職場に対して感じている「満足度」を定量的に可視化する調査のことです。選択式のアンケートに回答することで、従業員の状態(満足度)を数値で把握することができます。会社が抱える課題を早期に発見し、その課題を改善することで従業員満足度の向上をはかれることが大きなメリットです。ただし、「本音が引き出せない」「負担が大きい」といったデメリットを指摘する声もあります。大切なことは、「従業員目線」で運用していくこと。この意識の有無が、従業員満足度調査(ES調査)の成否を分ける鍵といえるでしょう。
>> 従業員満足度調査(ES調査)の目的ついては「コチラ」の記事もご覧ください。
eNPS調査
「eNPS調査」とは、「employee Net Promoter Score調査」の略称で、「職場の推薦度」を数値で可視化する調査のことです。アップル社が顧客向けに行っていた「NPS調査」をベースに開発されており、従業員の「意識」を測る調査として注目されています。「自分が働く職場を、どれくらい友人や知人に勧めたいと思いますか」という質問を行い、「やりがい・愛着・満足度」といった従業員の意識を定量的に可視化していきます。セグメントごとの正確な職場環境が把握できるというメリットがある反面、中間点に回答が集中しやすいというデメリットも指摘されており、導入には調査に対する十分な理解が必要です。
従業員満足度~よくある質問~
従業員満足度に関する「よくある質問」をまとめてみました。
従業員満足度向上への取り組みで注意すべき点とは?
従業員満足度を向上させる取り組みを行う際、注意すべき点は次の2つです。
- 従業員と組織の状態を把握する
- 目的を明確にする
従業員と組織の「今」の状態を把握しなければ、何をどう改善するのか、検討することができません。まずは、先に紹介した「従業員満足度調査(ES調査)」や「eNPS調査」によって、従業員と組織の状態を把握しましょう。そして、調査で浮き彫りになった課題に対して「目的」を明確にした上で、課題改善の取り組みを実施していくことが重要です。
従業員満足度調査(ES調査)は意味がないという声も聞くけど本当?
従業員満足度調査(ES調査)に対して、「意味がない」という声があるのは事実です。では、なぜそのような声があがってしまうのでしょうか。主な理由は、次の3つです。
- 従業員の本音が引き出せない
- 調査結果のフィードバックが行われない
- 実施後の課題改善が進まない
「本音が引き出せない」については、先の従業員満足度調査(ES調査)を解説する中で、デメリットとして述べた部分でもあります(本音が引き出せない・負担が大きいなど)。
では、どうすれば良いのでしょうか。答えは、次の3つです。
【ES調査を意味のある調査にするための対策】
- 調査への理解を深める
- 調査を外部の専門会社に依頼する
- 「やりっぱなし」ではなく課題改善につなげる
実施するにあたって、従業員に「調査の目的や方法」を理解してもらう必要があります。また、本音を引き出すためには、外部の専門会社に依頼し心理的安全性を担保することが重要です。そして実施後は「やりっぱなし」ではなく、結果のフィードバックや課題改善に取り組む。この姿勢が「意味がない」という声の払拭につながります。
関連記事: 従業員満足度調査(ES調査)は「意味がない」?
最後に
従業員満足度を向上させる施策を、事例を紹介しながら解説しました。見てきたように働く人材の「満足度」は、仕事に対するモチベーションや働きがいに直結する重要な要素です。従業員満足度を向上させる施策は、働きやすい職場を作るため、そして組織を活性化するための取り組みとして、その優先順位は高いといえるでしょう。特に、人材の定着や獲得が難しい昨今においては、なおさらです。ただそれにはまず、従業員の現在の状態(満足度)を正確に把握する必要があります。
リアルワン株式会社は、調査・評価の専門会社。科学的根拠に基づく信頼性の高い「従業員満足度調査(ES調査)」で、従業員や企業の「今」を可視化します。調査の実施・運用にあたっては、専門スタッフがトータルでサポート。調査の事前準備から理解促進、実施後の施策・効果測定に至るまで、様々なノウハウを提供し担当者の負担を軽減します。もちろん、心理的安全性への配慮も万全です。「導入を検討したい」「不明点を質問したい」、そうお考えの担当者は、ぜひリアルワンにご相談ください。