コミュニケーションの中で、相手の発する矛盾した二重のメッセージによって起こる「ダブルバインド」。ダブルバインドが起こる状況によっては、メッセージの受け手を混乱させ、精神面に大きなストレスを与えてしまいます。
今回は、このダブルバインドを深掘りします。ダブルバインドとは、どのような状態なのか。本記事では、具体例を紹介すると共に、問題点やビジネスシーンにおける対処法を解説します。
【本記事で得られる情報】
・ダブルバインドの意味と種類
・ダブルバインドの具体例
・ダブルバインドの問題点
・ダブルバインドへの対処法
・ダブルバインドを克服する組織作りに必要な施策
目次
ダブルバインドとは?意味や種類を解説

まずは、ダブルバインドの意味や種類を解説します。
ダブルバインドの意味
ダブルバインドとは、矛盾した二重のメッセージを伝えるコミュニケーションのことです。「ダブル(Double):二重・2つ」と「バインド(Bind):拘束・縛る」を合わせた造語で、日本では「二重拘束」と訳されます。
ダブルバインドの受け手は、「どうしたら良いのか」、あるいは「どうすべきか」など、精神的に拘束された状態になります。伝え方次第では、相手を混乱させたりストレスを与えたりするのがダブルバインドの特徴です。
ダブルバインドの種類
ダブルバインドには、次の2種類があります。
【ダブルバインドの種類】
・否定的ダブルバインド
・肯定的ダブルバインド
ひとつずつ見ていきましょう。
否定的ダブルバインド
否定的ダブルバインドとは、2つのメッセージのうち、どちらに従っても、受け手にとって「マイナス・良くない」状況になることです。
肯定的ダブルバインド
肯定的ダブルバインドとは、2つのメッセージのうち、どちらに従っても、受け手にとって「プラス・悪くない」状況になることです。
ビジネスにおけるダブルバインドの具体例

では、ビジネスシーンにおけるダブルバインドを、具体例をあげて説明しましょう。
否定的ダブルバインドの事例
まず、否定的ダブルバインドの事例です。
事例.1
「ミスの理由」を聞かれ答えたら「言い訳をするな」と言われる
ミスの理由を聞かれたから答えたにも関わらず、上司から「言い訳をするな」と叱責されてしまう。これは、否定的ダブルバインドの典型です。
事例.2
「何でも聞くように」と言われ質問したら「自分で調べろ」と言われる
分からないことは何でも聞くようにと言われたから質問したのに、「自分で調べろ」と注意される。質問してもしなくても、注意を受けることが想定される否定的ダブルバインドの事例です。
事例.3
「考えを述べるように」と言われ発言したら「君の意見は聞いていない」と言われる
意見や考えがあったら積極的に言葉にするようにと言われたので発言したのに、「君の意見は聞いていない」と冷たい反応。これも、否定的ダブルバインドです。
どれも、職場で“ありがち”なひとコマでしょう。
ビジネスシーンでのダブルバインドは、上司と部下の間で“無意識”に起こるケースがほとんどです。これでは、部下は混乱し、どうして良いのか分からなくなってしまいます。リーダー・管理職は、否定的ダブルバインドが与える影響や伝え方について、しっかりとした理解が求められます。
肯定的ダブルバインドの事例
次は、肯定的ダブルバインドの事例です。
事例.1
「色は白がお好みですか、それとも赤がお好みですか」と質問する
「商品を購入しますか」ではなく、2つの色の好みを聞くことで「Yes・No」以外の回答を引き出す。これは、肯定的ダブルバインドの典型です。
事例.2
「オプションはA・Bですが、どちらが良いですか」と選択を促す
2つの選択肢を示し、顧客にオプションを組み込んだ未来を想像させ購入を勧める。この事例も、肯定的ダブルバインドになります。
事例.3
「Aは良い商品ですが、Bも悪くないと思います」と提案する
顧客に2つの商品を紹介することで、どちらかを購入した自分を想定させる。これも、肯定的ダブルバインドといってよいでしょう。
肯定的ダブルバインドは、交渉術として活用できます。どの事例も、「買うか・買わないか」ではなく、購入することを前提に交渉を進め、「どれにするか」を確認し、顧客の意思決定を操作しています。
どちらかを選んで欲しいために選択肢を広げたり、あるいは、選んで欲しくないために選択肢を狭めたり、また相手に「自分で決めた」と思ってもらいたい場合に効果的です。
肯定的ダブルバインド~使い方の注意点
肯定的ダブルバインドは、使い方次第で交渉を有利に進めることができます。ただし、特定の相手に多用しすぎると、「選択させられている」とネガティブに受け取られかねません。
有効活用するには、相手の「納得感」が大切です。それには、信頼関係が大前提。その上で、多用を控え、相手目線に立った選択肢の提示が重要です。
ダブルバインドの問題点

ここでは、ビジネスシーンにおける否定的ダブルバインドの問題点を見ていきましょう。
【否定的ダブルバインドの問題点】
・従業員の心理的混乱を招く
・仕事のパフォーマンスが低下する
・パワハラ・モラハラになる恐れがある
詳しく解説します。
従業員の心理的混乱を招く
否定的ダブルバインドは、従業員の心理的混乱を招きます。上司から受けた指示通りに行動しているにも関わらず、評価されるどころかマイナスの状況になるのです。混乱するのも当然でしょう。
否定的ダブルバインドが続けば、行動や判断に自信が持てなくなるばかりか、自己肯定感が失われメンタル不調に陥りかねません。これでは、組織内の心理的安全性も失われてしまいます。
仕事のパフォーマンスが低下する
否定的ダブルバインドを受けた従業員は、その後、前例を思い出しメッセージの読み解きに時間がかかるようになります。また、ダブルバインドを避けたいため、コミュニケーション自体が減少します。これでは、仕事のパフォーマンスが低下するでしょう。
上司の顔色を気にしながらの仕事は、ストレスフルになり主体性が失われていきます。そしてそれが、さらにパフォーマンスを低下させるという悪循環を招いてしまうのです。
パワハラ・モラハラになる恐れがある
否定的ダブルバインドは、パワハラ・モラハラになる恐れがあります。見てきたように、否定的ダブルバインドはメンタル面に大きな影響を与えます。
従業員によっては、矛盾した2つのメッセージをパワハラ・モラハラと感じてしまうこともあるでしょう。ひどい場合は、統合失調症といった精神障害を引き起こしてしまう可能性すらあるのです。
パワハラ・モラハラに限らず、ハラスメントは故意に行ったかどうかは関係ありません。受け手が苦痛を感じれば、それはパワハラでありモラハラです。ハラスメントに対するしっかりとした知識が必要です。
関連記事:ハラスメントとは?「種類・意味」職場で起こる原因とその対策を解説
ダブルバインドの対処法~悪影響のかわし方

では、否定的ダブルバインドを受けた側は、どう対処すればよいのでしょうか。ここでは、否定的ダブルバインドの「かわし方」を解説します。
【否定的ダブルバインドへの対処法】
・内容を復唱する
・会話の前に「前置き」を入れる
・自分の対応を振り返る
詳しく見ていきましょう。
内容を復唱する
メッセージを受け取った際に、指示内容を復唱するのは有効な対処法です。復唱することで、指示内容に対する認識のズレを防ぎ、意思疎通を図ることができます。
例えば、「分からないことは何でも聞くように」と言われたとしましょう。そこで、「はい、分かりました」で済ませるのではなく、「はい、分からないことがあったら何でも質問します」と、指示内容を復唱し認識を共有するのです。指示内容の復唱は、メッセージを伝える側が自分の指示を再確認することにもつながります。
会話の前に「前置き」を入れる
会話の前に「前置き」を入れるのも効果的です。これも、「分からないことは何でも聞くように」の例で解説しましょう。質問する際、「先日、分からないことは何でも聞くようにと言われましたので、質問させてください」と前置きして質問するのです。
質問された側は、自分の指示と矛盾することを言う訳にはいきません。これで、ダブルバインドを防ぐことができます。ただし、言い方や口調には「質問させていただく」という気持ちを込め、嫌味と受け取られないように注意が必要です。
自分の対応を振り返る
自分の対応を振り返ることも、対処法のひとつです。ダブルバインドが起こった原因は、自分にないのかを振り返ります。例えば、「どうしてミスが発生したのか説明するように」と理由を聞かれたケースで考えてみましょう。
理由を一通り説明した後、「言い訳をするな」と言われました。この時の対応の仕方を振り返ってみるのです。「問いかけには、しっかりと答えていたのか」「指示を無視していなかったのか」「受け答えする態度は、適切だったのか」などです。
答え方や態度によっては、「言い訳」と受け取られかねません。特に、「こうするつもりではなかった」「想定外だった」など、自分の気持ちを含む発言は「言い訳」と受け取られやすいため注意が必要です。理由を説明する際は、事実のみを正確に伝えるようにしましょう。
最後に~ダブルバインドの克服は組織課題の把握から

ダブルバインドを克服するには、メッセージを伝える側も含めた対応が不可欠です。「具体的に指示する」「論理的に伝える」「言動を振り返る」など、「伝え方」のスキルを高めることが必須でしょう。
それと共に、重要なのが組織課題の把握です。組織が内包する課題を洗い出し改善してこそ、円滑なコミュニケーション環境が生まれ、心理的安全性を確保できるのです。そのためにも、「組織サーベイ」の実施をおすすめします。
従業員の状態を可視化するには、従業員満足度調査(ES調査)やエンゲージメントサーベイが効果的。また、指示を出す立場のリーダー・管理職については、360度評価による結果のフィードバックが多くの気づきにつながるでしょう。
リアルワン株式会社は、組織サーベイの専門会社です。信頼性の担保された「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」「360度評価」で、組織が内包する課題を可視化します。ダブルバインドの克服に向けて、組織課題を把握したいとお考えの企業様は、ぜひリアルワンにご相談ください。