価値観が多様化する中、人と人との関係性に大きな影響を与えるコミュニケーション。その重要性は増すばかりでしょう。従業員満足度、そしてエンゲージメントを高めるためにも、コミュニケーションの円滑化は喫緊の課題です。では、どのようにしてストレスフリーなコミュニケーションを行い、良好な人間関係を築いていくのか。今「アサーティブ」というコミュニケーション手法が注目されています。
本記事では、このアサーティブコミュニケーションにスポットをあて、その意味や職場での事例を紹介します。
目次
アサーティブコミュニケーションとは

アサーティブコミュニケーションとは、どのようなコミュニケーションなのか。ここでは、その意味と目的を解説します。
アサーティブコミュニケーションの意味
アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しながら、自分自身の意見や主張を適切に伝えるコミュニケーション手法のこと。その特徴は、コミュニケーションプロセスにあります。自分の意見や主張をむやみにぶつけるだけではなく、相手の意見や立場に配慮し、たとえ意見が食い違ったとしても話し合いを重ね、お互い納得のいく結論を出していく。このプロセスが、アサーティブコミュニケーションなのです。
それは、「歩み寄り」を重んじるコミュニケーションであり、話し合いに時間がかかっても、お互いのことを「大切にし合った」という余韻が残るコミュニケーションを目指します。
自他尊重の自己表現「アサーション」
アサーティブコミュニケーションをより深く知るには、「アサーション」を理解する必要があります。「アサーション:assertion」とは、自分も相手も大切にする「自他尊重」の自己表現のことです。アサーションは「主張・断言」といった意味を持ちますが、本質は「どのようにして良好な人間関係を構築するのか」ということであり、そのコミュニケーションスタイルは、次の3つのタイプに分かれます。
- アグレッシブ
- ノンアサーティブ
- アサーティブ
ひとつひとつ詳しく解説します。
アグレッシブとは
「アグレッシブ」とは、攻撃的なコミュニケーションスタイルのこと。相手を尊重することなく、一方的に自分の意見や主張を伝えるタイプです。意見が食い違った場合にも、相手の立場を踏まえず、自分の考え方を押し通そうとするタイプであり、良好な人間関係を構築しにくい傾向にあります。アサーション3つのタイプをわかりやすくイメージするために、良く「ドラえもん」のキャラクターが使われますが、アグレッシブは「ジャイアン」に例えられます。
ノンアサーティブとは
「ノンアサーティブ」とは、非主張的なコミュニケーションスタイルのこと。相手を尊重することはできるものの、自分のことよりも相手のことを考えすぎて、自分の意見や主張を伝えないまま、結果的に相手の意見を受け入れてしまうタイプです。相手を優先するあまり、何事も受け身で頼まれごとも断れず、ストレスをためやすい傾向にあります。ドラえもんの「のび太」のイメージです。
アサーティブとは
「アサーティブ」とは、攻撃的と非主張的の中間的なコミュニケーションであり、最もバランスのとれたコミュニケーションスタイルのことです。自分を主張しすぎず、かつ相手を優先しすぎることもない。意見や主張をしっかりと伝え、相手の意見もしっかり聴くタイプです。まさに、自他尊重のコミュニケーションができるタイプ。イメージは、ドラえもんの「しずかちゃん」です。このアサーティブなコミュニケーションスタイルが「アサーティブコミュニケーション」に他ならないのです。
アサーティブコミュニケーションの目的
良好な人間関係の構築に役立つアサーティブコミュニケーションですが、その目的を整理してみます。
① コミュニケーションの活性化
お互いを尊重し、納得のいく結論を出していくのがアサーティブコミュニケーションです。様々な立場の人が意見を発信し、活発な議論を交わしながら結論を出していく環境の中で、コミュニケーションの活性化が期待できます。
② 生産性の向上
コミュニケーションが活性化するということは、情報共有がスムーズになるということです。スムーズな情報共有は、適材適所の人材配置を促進し、業務の遂行を効率化。生産性の向上につながるでしょう。
③ メンタルヘルスケア
「自他尊重」そして「歩み寄り」を重視するのが、アサーティブコミュニケーションです。従業員同士の信頼関係が深まると共に、心理的安全性も担保されストレスが軽減。メンタルヘルスケアに貢献します。
アサーティブコミュニケーションの必要性

アサーティブコミュニケーションが必要とされる背景について解説します。近年、人材を資本として捉え、その価値を最大化するマネジメント手法である「人的資本経営」が広がっています。従業員が持つ能力やスキル、経験を最大限引き出すためには、これまでの「相互依存」というつながりではなく「自律対等」という関係性が重要です。そのような中で、アグレッシブ、ノンアサーティブではなく、アサーティブなコミュニケーション環境への転換が求められているのです。
※「人的資本経営」については、コチラの記事を御覧ください。
さらに、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)への対応の高まりがあります。「多様」な人材を「公平」に「活かす」という考え方が、組織の課題解決やイノベーションを促進します。先に述べた「人的資本経営」もDE&Iの環境でこそ実現が可能。そのためには、アサーティブなコミュニケーション環境作りが欠かせない重要事項なのです。その他、チャットツールやメールなどの非対面コミュニケーションの増加、メンタルヘルス不調への対応なども、アサーティブコミュニケーションが必要とされている背景になっています。
※DE&Iについては、コチラの記事を御覧ください。
アサーティブコミュニケーション「4つの柱」

アサーティブなコミュニケーションを実現には、「誠実・率直・対等・自己責任」という「4つの柱」を理解する必要があります。それぞれ詳しく解説します。
① 誠実
コミュニケーションの本質は思いやりであり、相手に対してどれだけ誠実になれるのかということ。それにはまず、自分自身に誠実かつ正直になる必要があります。相手に対して偽りのない正直な気持ちを伝え、相手の意見を受け入れる誠実さが、アサーティブコミュニケーションなのです。
② 率直
自分の意見は、はっきりと明確に伝えることが重要。余計な言葉をはさまず、ストレートに話す率直さが大切です。「私はこう考えます」と、率直に主張しましょう。
③ 対等
コミュニケーションする相手とは対等です。上司や部下、取引先であっても、アサーティブコミュニケーションにおいては対等が前提。卑屈にならず上から目線でもない。過度に持ち上げることなく見下しもしない。この対等な意識が、アサーティブな環境を作ります。
④ 自己責任
主張するのも主張しないのも、責任は自分にあるという意識が大切です。自分の発する言葉には、責任を持つ。最終的な結果がどのようなものになろうと、全ては自分の決定がもたらしたとする自己責任の意識を忘れてはなりません。
アサーティブコミュニケーションを実践する方法

それでは、アサーティブコミュニケーションの実践方法を解説します。
DESC法
DESC法とは、「Describe:描写 / Explain:表現 / Specify:提案 / Choose:選択」の頭文字をとったもので、自分の気持ちを「4つの段階」にわけて伝える手法です。
- Describe(描写):主観を交えず、相手の行動や状況を客観的に伝える
- Explain(表現):客観的な事実に対して、自分の意見や気持ちを伝える
- Specify(提案):具体的な解決策や妥協案を提案する
- Choose(選択):提案に対して否定的な場合は、次の選択肢を再提案する
相手を尊重しながら、具体的な方策を見つけていく手法がDESC法なのです。
I(アイ)メッセージ
自分を主語「I(アイ)」として、相手に意見や気持ちを伝える手法です。具体的には、「私は〇〇と思います」のように、「私=I(アイ)」を主語にして自分の思いを伝えます。自分を主語にすることで、相手と「1対1」の公正な場ができあがり、お互いの意見を率直に言い合えるアサーティブな環境になるのです。
非言語的アサーション
コミュニケーションの9割は、「表情・声の質・視線・仕草・姿勢」といった「非言語」で行っているといわれています(メラビアンの法則)。私たちは、相手の意見や気持ちを理解しようとする時、表情や態度を確認し、声の質を感じながら判断しています。それは、アサーティブコミュニケーションにおいても同様です。
アサーティブコミュニケーション~職場での実践例

アサーティブコミュニケーションを職場でどう活かしていくのか。具体な例をあげながら解説します。
ケーススタディ1:上司から部下
資料を提出した部下に対してミスを指摘する時、どのような指摘がアサーティブなのか。「いつもミスばかりだな!」とか「ミスが多いよ!気をつけろ!」では、あまりにもアグレッシブでしょう。では、どう表現するのか。
「資料を提出してくれて、ありがとう。ただ、ちょっと数字が間違っていたよ。僕も説明が足りなかったのかもしれないけど、小さなミスで時間を取るのはもったいないから、注意するようにしよう。わからないことがあったら、遠慮なく聞いていいから」
DESC法を活用し、まずは客観的な事実を伝えた上で、自分の感じていることや改善策を伝えるようにしましょう。
ケーススタディ2:部下から上司
上司から頼まれた仕事が期限に間に合いそうにない場合、アサーティブに伝えるにはどうしたら良いのでしょうか。唐突に「仕事の期限を延ばしてください!」では、うまくいかないでしょう。
「申し訳ございません。いただいた仕事が期限に間に合いそうにありません。期限を延ばしていただくことは、可能でしょうか。あるいは、どなたかに手伝っていただければ間に合いそうなのですが。いかがでしょうか」
仕事においては、進捗状況を共有することが大切です。現状をありのままに報告し、どう対応するのがベストなのか。それを一緒に考えていくのが、アサーティブなコミュニケーションです。
ケーススタディ3:I(アイ)メッセージの例
職場でのやり取りの中に、I(アイ)メッセージを取り入れることでアサーティブなコミュニケーション環境を作れます。ここでは、I(アイ)メッセージの活用例を紹介します。
- 私は、このやり方のほうが効率がいいと思うよ。
- 君はいつも仕事が早いね。私は、安心して仕事を任せられるよ。
- 私は、そういう態度をされると残念でしかたがないよ。
- 私は、心配性だから、何かあったらすぐに連絡がほしい。
- いつも気づかってくれてありがとう。私は、うれしい。
アサーティブコミュニケーション研修の導入事例

アサーティブコミュニケーションを組織に浸透させる方法は様々ですが、研修の活用は有効な方法のひとつです。ここでは、アサーティブコミュニケーション研修の導入事例を目的別に紹介します。
事例1:心理的安全性の形成
小売業を展開するA社は、アサーティブコミュニケーション研修を、若手社員の「心理的安全性の形成」に役立てています。この会社では、若手社員のコミュニケーション不足とメンタル不調が大きな課題でした。課題解決の方策として、若手に対してアサーティブ研修を導入。研修目的は、「率直に上司に相談する。わからないことを、わからないままにしない」と設定。次のトレーニングを行いました。
- 自分の状況を客観的・具体的に伝える
- 自分の意見や気持ち、提案を率直に伝える
アサーティブコミュニケーションという具体的な手法を学んだことで、伝える「勇気」と「自信」を得ると共に、組織内に心理的安全性の高い環境を作ることに成功しています。
事例2:信頼関係の構築
保険金融業のB社では、新人育成のOJT強化の一環として、アサーティブコミュニケーション研修を取り入れ、新人との「信頼関係の構築」を目指しました。働き方に対する新入社員の意識の多様化が進み、「効果的な関わり方がわからない」といった声に対応するものでした。価値観の違う新人に戸惑いキレてしまう社員や、逆に腫れ物に触るように接する社員など、コミュニケーションが機能していない状態をどうするのか。テーマを「優し過ぎず厳し過ぎず、新人と向き合う姿勢」に設定し研修を行いました。
研修を受ける社員の悩みは様々でしたが、自分が抱える悩みを率直に語り合いロールプレイを繰り返すことで、新人を尊重しながらも「言うべきことは言う」という意識を身につけ、自信を持って新人教育に関わる土壌が育まれています。
事例3:ハラスメント防止
運輸通信業のC社は、「ハラスメント防止」の対策としてアサーティブコミュニケーション研修を導入。管理者を中心に研修を行いました。ハラスメントを恐れるあまり、注意が遠回しになっている現状を変えたい。これまでのハラスメント研修で、「何がNGか」は理解していましたが、「どうしたら良いのか」がわからなかったため、研修のテーマを「適切な指導法」に置きました。
研修を進めていく中で、アサーティブであることへの認識が深まり、部下を尊重した上で、言うべきことを言うことがお互いの信頼関係につながり、最終的にはそれがハラスメント防止になるということが明確になりました。
アサーティブなコミュニケーションが組織を活性化させる

アサーティブな環境は、人的資本経営やパーパス経営、また組織開発や人材開発にとって重要な意味を持ちます。なぜならば、それらの根幹をなすのはコミュニケーションに他ならないからです。DE&Iのもとではなおさらでしょう。アサーティブコミュニケーションが組織を活性化させ、強い組織を作る。そしてそのような組織でこそ、従業員満足度やエンゲージメントは高まるのです。
アサーティブな環境を作るには、その前後で従業員満足度調査やエンゲージメント調査といったサーベイの実施をお勧めします。組織課題を明確にし、効果測定の役割を果たします。さらに、360度評価を実施することで、上司と部下のコミュニケーション環境の評価も可能です。
リアルワン株式会社は、科学的根拠に基づく信頼性の高い「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメント調査」「360度評価」で、個人や組織の成長をサポートします。アサーティブな環境作りは、まず組織の健康診断から。リアルワンが提供する各種サーベイを、ぜひご活用ください。
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