人的資本への投資は、企業の持続的な成長を支える重要な経営戦略として注目を集めています。それは、人的資本開示の義務化を受け、多くの企業が取り組み始めていることからも明らかでしょう。とはいえ、「何から始めればいいのか」と悩む企業様も少なくありません。
本記事では、人的資本投資の定義や期待される効果、指標(KPI)の具体例や設定ステップを分かりやすく解説。合わせて、実践企業の事例を紹介します。導入を検討されている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
【本記事で得られる情報】
・人的資本投資の定義と注目される背景
・人的資本投資の効果(メリット)や目的
・人的資本投資のテーマ
・人的資本投資の指標(KPI)の具体例
・人的資本投資におけるKPIの設定ステップ
・人的資本投資に取り組む企業の事例
目次
人的資本投資とは?定義を解説

「人的資本投資」とは、従業員の能力や意欲、経験といった「無形資産」を企業の将来を支える「資本」と捉え、その価値を高めるために行う取り組みのことです。具体的には、「研修・人材育成・職場環境の整備・人事制度の構築・エンゲージメントの向上・ダイバーシティの推進」といった施策を指します。
機械など、「有形資産」への投資である「設備投資」に対して、人的資本投資は企業が有する「人材そのもの」への投資です。従業員の成長が、組織の生産性や競争力を高め、それが企業の中長期的な価値向上につながるという考え方に基づきます。
近年では、「人的資本の開示」の義務化を受け、市場や投資家などからも注目を集めており、経営戦略の中核として位置づけられるようになっています。
人的資本投資が注目される背景~なぜ今、重要なのか?

ここで、人的資本投資が注目される背景を整理しておきましょう。
【人的資本投資が注目される背景】
・「人的資本の開示」の義務化
・非財務情報に対する重要性の高まり
詳しく解説します。
「人的資本の開示」の義務化
人的資本投資が注目される大きなきっかけのひとつは、「人的資本の開示」が義務化されたことです。2023年3月期以降、有価証券報告書において、上場企業は「人的資本」や「多様性」に関する情報を記載することが義務づけられました(金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正)。
これにより、従業員の育成方針や多様性への対応状況、従業員数、男女比率、平均勤続年数など、「人材に関する情報」の透明性が求められるようになりました。これは、財務情報に現れない「無形資産」の価値を「人的資本」として可視化しようとするものです。
人的資本に投資し開示することは、投資家や株主、従業員や求職者など、全てのステークホルダーにとって、企業選びや信頼性の判断に影響を与える重要な要素となっています。
関連記事:人的資本の情報開示とは?留意点や開示項目を徹底解説
非財務情報に対する重要性の高まり
企業評価において、「非財務情報」に対する重要性が高まっていることも人的資本投資が注目される背景のひとつです。これまで企業の価値は、売上や利益といった財務情報によって評価されてきました。しかし、近年、財務情報だけでは測れない「無形資産」の重要性が増しています。
これは、先述の「人的資本の開示」の義務化とも連動するものです。今や、企業が持つ無形資産を非財務情報として開示することが、市場から信頼を獲得するカギとなっています。
このように、人的資本は「企業価値に直結する資本」として捉え直され、非財務情報をいかにマネジメントするかが経営の重要な課題となっているのです。
関連記事:人的資本経営とは/なぜ注目されるのか、事例やメリットも紹介
人的資本投資の効果(メリット)・目的

ここでは、人的資本投資の効果(メリット)・目的を見ていきましょう。
【人的資本投資の効果(メリット)・目的】
・離職率の低下と優秀な人材の獲得
・従業員ロイヤルティの向上
・生産性の向上
・収益性の強化
ひとつずつ解説します。
離職率の低下と優秀な人材の獲得
離職率の低下と優秀な人材の獲得は、人的資本に投資する大きな効果といえます。働きがいを高めることは、人材の定着につながります。人材育成の推進や評価制度の構築は、仕事に取り組むモチベーションを高めると共に人材獲得にも効果的でしょう。人的資本投資は、企業の人材競争力を強化する有効な方策といえるのです。
従業員ロイヤルティの向上
人的資本投資は、従業員ロイヤルティの向上にも効果的です。「人を大切にする」という企業姿勢は、「忠誠心」や「愛着」といったロイヤルティを向上させます。従業員ロイヤルティが向上すれば、従業員が自ら自律的に行動する環境が育まれ、組織全体のエンゲージメントを高める好循環につながるのです。
生産性の向上
人的資本投資は、生産性の向上に直結します。研修やOJTは、仕事の質と効率を高めるでしょう。1on1ミーティングなど、従業員の話を聴く機会は、心理的安全性を高め働く安心感を醸成します。人的資本投資は、企業の人材力を支え、生産性を高める根本的な方策といえるのです。
収益性の強化
人的資本投資は、人材の定着率を高め、従業員ロイヤルティと共に生産性を向上させます。このような効果は、最終的に企業の収益性を強化する力となります。人的資本への投資は、従業員の「満足度・エンゲージメント」だけでなく、顧客満足度もアップさせ、企業価値の持続的な成長を支える重要な要素といえるのです。
人的資本投資4つのテーマと指標「KPI」の具体例

では、人的資本投資4つのテーマと「KPI」の具体例を解説します。KPIとは、「Key Performance Indicator/重要業績評価指標」のこと。人的資本投資においては、従業員に対する様々な施策がどれだけ効果を上げているかを測る指標となります。定量化することで、施策の進捗状況や効果の把握、戦略の見直しに役立つでしょう。
【人的資本投資4つのテーマ】
・人材育成
・エンゲージメント
・ダイバーシティ
・コンプライアンス
各テーマの詳細と共に、KPIの具体例を見ていきましょう。
人材育成
人材育成は、従業員一人ひとりのスキルや知識を高めながら専門性を強化し、生産性を高める施策です。学びの機会を体系的に提供することで、働くモチベーションや定着率の向上につなげます。
【KPIの具体例】
・中堅社員向けにキャリア開発プログラムを導入し、受講率80%以上を目指す
・新入社員向けOJTを整備し、配属3ヶ月以内の定着率を95%以上にする
・スキルアップ研修の受講時間の年間平均を1人あたり15時間以上にする
エンゲージメント
エンゲージメントとは、仕事における「思考面・情緒面・行動面」に対して、従業員が積極的に関与している状態のことです。エンゲージメントを高めることで、離職防止や生産性の向上を目指します。
【KPIの具体例】
・エンゲージメントサーベイのスコアを1年で5ポイント向上させる
・サーベイ実施後のアクションプランの実施率を100%とする
・1on1ミーティングを月1回以上かつ90%以上の従業員に実施する
関連記事1:従業員エンゲージメントとは
関連記事2:エンゲージメントサーベイ(エンゲージメント調査)とは
ダイバーシティ
ダイバーシティは、「性別・年齢・国籍・価値観」など、多様な背景を持つ人材が活躍できる組織を目指す施策です。多様性が尊重される環境は、イノベーションが生まれやすくなり、企業の持続的成長を後押しします。
【KPIの具体例】
・女性管理職比率を2027年度までに20%以上に引き上げる
・外国籍従業員の採用数を前年比で10%増加させる
・育児や介護を両立する制度の利用率を50%以上にする
コンプライアンス
コンプライアンスは、法令や社内規定の遵守はもちろん、倫理的な判断や行動を意識づける施策です。従業員が安心して働ける職場環境を整えることは、企業の信頼性やリスクマネジメントに直結します。
【KPIの具体例】
・コンプライアンス研修の受講率を100%とする
・内部通報制度の認知率を90%以上に引き上げる
・ハラスメントの相談件数を把握し再発防止策の実施率を100%にする
人的資本投資における「KPI」の設定ステップ

人的資本投資の効果を最大化するには、KPIを設定し運用することが重要です。では、どう設定すればよいのでしょうか。ここでは、KPIの設定ステップを見ていきましょう。
【人的資本投資における「KPI」の設定ステップ】
ステップ1:人的資本投資の「目的」を明確にする
ステップ2:「KGI」を設定する
ステップ3:組織課題を洗い出す
ステップ4:課題に紐づく「KPI」を設定する
ステップ5:優先順位をつける
ステップ6:必要に応じて見直す
ステップごとに詳しく解説します。
ステップ1:人的資本投資の「目的」を明確にする
まずは、人的資本投資の「目的」を明確にします。人的資本投資を通じて、何を実現したいのか。「早期離職を防ぎたい」「管理職を強化したい」など、組織改革を意識し、目的を明確にすることがKPI設定の第一歩です。
ステップ2:「KGI」を設定する
KPIを決める前に、「KGI」を設定します。「KGI」とは、「Key Goal Indicator/重要目標達成指標」のこと。最終的に達成すべき「ゴール」を表す指標です。具体的には、「3年以内に離職率を10%未満にする」「女性管理職比率を20%に引き上げる」などがあげられます。
KGIを定めることで、達成に向けて「何を測るべきか」「どんな行動が必要か」といった具体的なKPIの設定が可能になり、ブレることなく施策を推進できるのです。
ステップ3:組織課題を洗い出す
目的とKGIが決まったら、それを妨げている組織課題を洗い出します。たとえば、「教育機会が部署ごとに偏っている」「上司との面談が不足している」などです。現場の実情を踏まえた課題の抽出が、効果的な施策につながります。尚、組織課題を洗い出すには「組織サーベイ」の実施が効果的です。
関連記事:組織サーベイとは?目的や種類、ツール別の質問項目を解説
ステップ4:課題に紐づく「KPI」を設定する
洗い出した課題に紐づく「KPI」を設定します。「何をどう測れば改善状況を見える化できるのか」を頭に置きKPIを設定します。行動や進捗を測る“中間指標”としてKPIを活用することで、施策の運用や改善の状況がやりやすくなるでしょう。
ステップ5:優先順位をつける
人的資本に関する施策は多岐にわたるため、全てを同時に取り組むのは困難です。インパクトの大きさや取り組みやすさを踏まえて、KPIに優先順位をつけましょう。優先すべき施策を定めることが、成果につながる近道になります。
ステップ6:必要に応じて見直す
KPIは、一度設定すれば終わりではありません。状況や組織フェーズの変化など、必要に応じて見直すことが重要です。「KPIは形骸化していないか」「現場の実情に合っているのか」など、状況を踏まえながらチェックし定期的に見直すことが、現場で機能するKPIとなるのです。
人的資本投資に取り組む企業の事例

ここでは、人的資本投資に取り組む企業の事例を紹介します。ぜひ参考にしてください。
株式会社資生堂
株式会社資生堂は、女性のリーダー層への登用促進を目的に、女性のキャリア形成支援に取り組んでいます。2017年には、女性管理職候補を対象とした育成プログラムをスタート。「女性管理職比率50%」というKPIを設定し、女性リーダー育成塾やキャリア開発プログラムを提供しています。
取り組みの結果、管理職に占める女性比率が日本国内で29%から40%に上昇(2023年)。KPIの達成に向けて着実に前進すると共に、人的資本の開示においても進捗状況を積極的に公開しています。
伊藤忠商事株式会社
伊藤忠商事株式会社は、人材戦略を通じた労働生産性の改善や企業価値の向上を目指し、人的資本投資に取り組んでいます。具体的な施策例は次の通りです。
・健康経営の導入
・中国語人材の育成促進
・早朝勤務や残業削減の制度整備
施策を取り入れたことで、中国語に対応できる従業員が増加。「中国語人材1,000人以上」の目標に向け、取り組み続けています。また、朝型勤務の徹底により残業時間を抑制しつつ、生産性と業績の向上を実現しました。
こうした施策の成果は、人的資本報告資料にも明示しており、従業員の能力向上と働きやすさの両立を「企業の信頼性」として情報発信につなげています。
双日株式会社
双日株式会社は、中期経営計画に基づき、人材育成と組織変革を目的とした人的資本投資を推進しています。注目されるのは、「Microsoft Power Apps」を活用する「市民開発」の導入です。
この施策により、数多くの業務アプリケーションが現場で開発・運用され、業務削減効果と共に従業員のデジタルスキルが向上しています。双日の事例は、人的資本投資が業務効率の改善だけでなく、従業員のスキルアップにつながる好例といえるでしょう。
参考:企業戦略に欠かせないビジネスフレームワーク10選|システムキューブ
参考:SMARTで目標設定する方法と達成率UPのコツを解説|日本デザイン
最後に~組織課題を洗い出し人的資本投資に取り組もう!

残念ながら、日本企業の人的資本投資は、海外企業に比べて低迷しています。だからこそ大切なことは、人的資本投資に対する理解を深めことです。それと同時に重要になるのが、組織課題を洗い出すこと。組織課題を洗い出すには、本文で述べた通り「組織サーベイ」が効果的です。
リアルワン株式会社は、組織サーベイの専門会社です。第一線の専門家が監修する、「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」で、組織課題を定量的かつ定性的に可視化します。導入にあたっては、設計から実施、アクションプランの立案・実行まで、企業様に則したサポートを横断的に実施します。
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