360度評価は、上司・部下・同僚といった様々な関わり方をする複数の人から、フィードバックを受ける評価制度です。従業員の能力開発の一環として取り入れる企業が増えていますが、導入・運用に失敗すると職場内いじめに発展してしまうリスクもあります。
本記事では、360度評価に対する上司・部下の心理を紐解くとともに、マイナスの影響を出さないための対策を解説します。
目次
360度評価でなぜ“いじめ”が起きるのか
360度評価は、上司・部下・同僚といった様々な関係性にある複数の人から多面的に評価を受けることで自分自身の強み・弱みを的確に捉え、パフォーマンス向上やスキルアップにつなげていく手法です。従来の上司が部下を評価する評価制度と大きく異なるのは、複数の視点を取り入れることによって評価の公平性・客観性を担保しやすい点です。
従業員の納得感を醸成できる評価制度として取り入れる企業が増えていますが、一方で導入に失敗すると職場内のいじめに発展するケースもあります。なぜ、360度評価でいじめが起きてしまうのか、上司・部下の心理を踏まえながら説明します。
結果を受け入れられない上司の心理
本来、360度評価は上司にとってメリットの多い評価制度です。導入・運用がうまくいっている企業では「自分では気づかなかった強み・弱みがわかり、マネジメントに自信を持てるようになった」「行動改善が進み、職場内のコミュニケーションが活性化した」などの声が多く聞かれ、リーダー育成やマネジメント力向上に役立てられています。
しかし、日本では上司が部下を評価する一方向的な評価制度が浸透しているため、部下から評価されること自体に慣れていない上司が多いのが実際です。そのため、部下からのフィードバックに対して、以下のような心理になることがあります。
「未熟な部下に管理職の立場や仕事がわかるわけがない」
「部下は評価の仕方をわかっていないので正当な評価ではない」
「人格否定されたようで信頼関係が崩れた」
「部下のために指導したのに否定された」
こうしたマイナスの感情が生まれると疑心暗鬼になってしまい、コミュニケーションがギクシャクしたり適切な指導をしなくなったり、最悪の場合は部下いじめに発展してしまうことがあります。
管理職であっても一人の人間であり、自分が思っていたような評価を得られなかったときや辛辣なコメントがあった場合に、このような感情が生まれるのはむしろ自然なことといえるでしょう。360度評価の本来のメリットを享受するには、この点を理解した上で対策を講じることが重要になります。
上司を批判する部下の心理
360度評価によって部下が得られるメリットは、上司へのフィードバックの機会を得ることでより良い組織づくりに寄与できることです。また、他者を評価するスキル・ノウハウを習得できる機会でもあり、自分自身の視野を広げられるという利点もあります。
しかし、残念ながら360度評価が部下のフラストレーションを発散する場になってしまっていることがあります。この場合、以下のような心理が働いています。
「嫌いな上司を異動させたい」
「普段から厳しい言葉をかけられているので仕返ししたい」
「自分の評価も低いので相手の評価も下げよう」
このような心理状態にあると、上司の行動や能力に対する評価ではなく感情に任せた批判・誹謗中傷となり、職場内いじめになってしまうことがあります。こうしたリスクを避けるには、部下が適切に評価できるようフォローすることが不可欠です。
360度評価のリスクを回避するための4つの対策
上司・部下の心理を踏まえ、360度評価によるリスクを避けるための4つの対策を紹介します。
- 【全従業員に向けて】実施する目的・メリットへの納得感を醸成する
- 【上司に向けて】結果をマネジメントに活かす方法を指導する
- 【部下に向けて】評価の仕方・コメントの書き方を指導する
- 360度評価を人事考課に直接的に結び付けない
1)【全従業員に向けて】実施する目的・メリットへの納得感を醸成する
従業員の理解や納得感がないまま360度評価の導入を進めてしまうと、ネガティブな心理が生まれやすくなり、従業員同士の関係性悪化を招く原因になります。まずは説明会を実施し「なぜ360度評価を実施するのか」「どのように運用するのか」を丁寧に説明することが重要です。
以下の事項を具体的に伝えて従業員の懸念や疑問を解消し、納得して取り組める状態を作ります。
実施目的と背景
実施目的は企業が抱えている課題によって様々ですが、多いのはリーダー育成やマネジメント力強化、組織のコミュニケーション活性化、コンピテンシーの浸透、コンプライアンス遵守の風土醸成などです。背景にある自社の課題を踏まえた上で「360度評価によって何を実現したいのか」を伝え、従業員の納得感を得られるようにしましょう。
従業員や組織にとってのメリット
360度評価が従業員や組織にどのようなメリットをもたらすのかがわかると、前向きな姿勢を引き出しやすくなります。上司・部下・同僚・他部署など、それぞれの立場におけるメリットを具体的に伝えることがポイントです。
運用ルール
360度評価がどのように運用されるのかが不明瞭なままだと、不安が助長されてしまうため注意が必要です。とくに従業員の不安を招きやすい以下の点は具体的に伝えるようにしましょう。
- 匿名性の担保
- 結果のフィードバック方法
- 人事への影響
説明会だけでは懸念点が解消されない従業員が出てくることも考えられるため、相談窓口を設けておくとよいでしょう。
2)【上司に向けて】結果をマネジメントに活かす方法を指導する
リーダー・管理職が結果をどのように受け止めるか、どう解釈するかによって360度評価で得られる成果は大きく変わります。理想的な姿は、自身の強み・弱みを客観的に捉えた上で今後の行動に活かしていくことです。
とはいえ、部下からの評価が低いと落ち込んだり反発したりする上司が多いのも実情です。これを回避するには、あらかじめ360度評価の読み解き方をレクチャーする場を設けるという方法があります。
結果の捉え方として大切なのは、部下によっても、そのときの仕事の状況によっても評価は変わるものであり、必ずしも点数が上司の能力や優劣を包括するものではないという点です。また、厳しいコメントが書かれていることもあるかもしれませんが、言葉自体に一喜一憂するのではなく、なぜそのようなコメントが書かれたのか要因を振り返ることが重要になります。
このように、上司が陥りやすいネガティブな心理を理解した上で、評価をマネジメントに活かす視点を養えるようフォローしましょう。
3)【部下に向けて】評価の仕方・コメントの書き方を指導する
一般的に360度評価は5段階評定(そう思う・どちらかというとそう思う・どちらともいえない・どちらかというとそう思わない・そう思わない)とフリーコメントで構成します。しかし、部下は他者を評価することに慣れていないことが多いため、人による点数のバラつきが大きくなりがちです。また、意図せずに批判的なコメントになっているケースもあります。
これらの問題を避けるには、事前に研修を実施して評価の仕方・コメントの書き方をインプットする方法があります。とくに周知したいのは、評価者としてのスタンスです。好き嫌いや感情で評価をしないこと、評価対象者への期待が伝わり成長につながるコメントを心がけるよう理解してもらう必要があります。
コメントの書き方では、誹謗中傷にあたる表現をNGとするルールを設けるほか、良い例・悪い例を提示してノウハウを習得できるようにするとよいでしょう。
悪い例)「メンバーへのフォローがない」
良い例)「一緒に改善策を考えてもらえる機会が増えるとよい」
悪い例は評価者の感想となっており、何を改善すべきか捉え方に迷います。良い例では期待することが明確で、上司が行動改善につなげやすいコメントになっています。このように具体例を挙げることで、自身のコメントが上司の行動やパフォーマンスに貢献できるイメージができるようになり、部下の前向きな気持ちを引き出しやすくなる効果も期待できます。
4)360度評価を人事考課に直接的に結び付けない
360度評価については理解が進んだものの、処遇を決める人事考課にダイレクトに反映されるとわかった瞬間、様々な思惑が生まれてしまうことがあるため注意が必要です。たとえば「苦手な上司を異動させよう」「お互いに高い評価をつけあって不利益を被らないようにしよう」といった心理が働くと、適正な評価ができなくなります。
360度評価は、人材育成や人材管理のための制度と位置づけて運用するところからスタートすることをおすすめします。
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従業員の心理を踏まえたフォローが成功の鍵
誰もが評価者・評価対象者となる360度評価は、お互いに磨き合う風土・文化を醸成できる手法であり、組織力が求められる昨今のビジネス環境においてますます期待が高まっています。一方で、導入・運用に際しては、従業員の心理を踏まえた的確なフォローが成否を分けることも事実です。
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