心理的安全性を高め、組織の生産性を高めるリーダーとは?

組織において心理的安全性がある状態とは、自分の考え・懸念・疑問を率直に口にしても、関係が壊れたり、嫌われたりするリスクがない状態を指します。先行研究では、心理的安全性が高い組織は様々な労働環境や業界で高い生産性を促進することが確認されています。本記事では、Googleの事例を中心に、心理的安全性の重要性と心理的安全性を高めるためにリーダーが取るべき行動などについて解説します。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

心理的安全性とは?

心理的安全性とは、1999年にハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念です。エドモンド教授は、心理的安全性を以下のように定義しています。

A shared belief held by members of a team that the team is safe for interpersonal risk taking.

訳:チーム内での人間関係においてリスクを取ることが安全であるという、チームメンバーで共有されている信念

引用:Edmondson (1999) Administrative Science Quarterly. 44(2)

簡単に言うと、心理的安全性があれば、通常では嫌われたり、関係が壊れたりする言動であっても、そのようなリスクがない状態を意味します。エドモンド教授は心理的安全性がある状態を「率直であることが許されているという感覚」とも表現しています(※1)。

心理的安全性が注目されている背景

今や誰もが知っているGoogleは、世界最高の検索エンジンをつくり、創業からわずか6年で上場しました。検索エンジンや広告だけではなく、企業並びに消費者向けのクラウドソフトウェア、アンドロイドOSをはじめとした優れたプロダクトを開発し、世界トップレベルの時価総額を誇る大企業へと成長しました。

Googleは自社の調査にて、「平均的なメンバーを集めて、共同作業の正しいあり方を教育すれば、スーパースターでもできないことを成し遂げることができる」と報告し、このようなチームのあり方を急成長の要因であると結論づけています(※2)。

高い生産性を実現するための鍵がチームメンバーのスター性ではなく、平均的なメンバーの束ね方にあるという結論は、多くの企業に成長の可能性があることを示しました。

同じくGoogleの調査結果では、チームを束ねる上で特に重要なのが「心理的安全性」であると述べられ、その結果、様々な組織で「心理的安全性」が注目されるようになりました。

生産性の高いチームとリーダーの特性

心理的安全性は、生産性の高いチームのひとつの特性と紹介しましたが、心理的安全性以外にはどのような特性があるのでしょうか。Googleの調査では、生産性の高いチームには次の5つの特性があることが分かっています。

【生産性の高いチームの特性】

  • チームの心理的安全性が高い
  • チームに対する信頼性が高い
  • チームの構造が明瞭である
  • チームの仕事に意味を見出している
  • チームの仕事が社会に対してインパクトをもたらすと考えていること

また、生産性の高いチームの特性に加えて、リーダーによる適切なチームマネジメントが重要であるとも言われています。以下は、Googleの調査によって判明した、チームの生産性を高めるリーダーの8つの特性です。

【チームの生産性を高めるリーダーの特性】

  • 良いコーチである
  • チームを勢いづけて、マイクロマネジメントをしない
  • チームのメンバーが健康に過ごすこと、成果を上げることに強い関心を持っている
  • 生産的で成果主義である
  • チーム内の良き聞き手であり、メンバーと活発にコミュニケーションをしている
  • チームのメンバーのキャリア形成を手助けしている
  • チームのためのはっきりとしたビジョンや戦略を持っている
  • チームメンバーにアドバイスできる専門的技術・知識を持っている

心理的安全性を高めるためのリーダーの心得

心理的安全性の高いチームとは、メンバー全員が不安や恥を感じることなく、リスクある言動をとれるチームを指します。メンバー全員がリスクある言動をとれるようになるためには、全員が自分の意見をしっかり言える環境、そして、その意見にしっかり耳を傾けられる環境をつくる必要があります。

このような環境をつくるためには、チーム内でのリーダーの振る舞いが重要となってきます。もし、リーダーがチームメンバーの意見に対して「そんなことできるはずがない」と言ったり、メンバーの話を遮って自分の意見を述べ始めたりすると、他のメンバーもその振る舞いを真似するようになります。その結果、心理的安全性は醸成されず、メンバーは批判を恐れて萎縮してしまいます。

このようなことが起きないために、Googleでは以下のような振る舞いをリーダーに求めています。

【心理的安全性を高めるためのリーダーの心得】

  • リーダーは議論のときにメンバーの話をさえぎることなく、最後まで話を聞き切る
  • ちゃんと話を聞いていることを示すために、誰かの話が終わったら、その内容を要約する
  • 自分が知らないことは知ったかぶりをせず、素直に認める
  • メンバー全員が少なくとも1回発言するまでは会議を終えない
  • チーム内の意見の対立に目をつぶることをせず、また抑え込もうとせず、みんなでオープンに議論するようにする

リーダーが上記のような振る舞いをすることで、メンバーは無視される不安、非合理的な批判を受ける不安などから解放され、自由に発言できるようになります。自由に発言できるようになることで、メンバーは普段から自分の頭で考え、アイディアを出すことに積極的になります。

心理的安全性が組織にもたらす3つの効果

会議

心理的安全性が組織にもたらすポジティブな効果として、以下の3点が挙げられます。

  1. 様々な意見やアイディアが出やすくなる
  2. 悪い報告が早く届き、早く挽回できる
  3. 安心してリスクある行動に挑戦できる

これらの効果を通じて、組織の生産性が高まると考えられています。

効果1.様々な意見やアイディアが出やすくなる

リーダーが何か意思決定を下すとき、情報が必要になります。意思決定に関わる多くの情報は、生産現場、商談現場、カスタマーサクセスやサポートの現場など、事業活動そのものが行われている現場にあります。

どの領域のリーダーであれ、現場にいるメンバーしか知り得ない重要な情報を集めなければなりません。心理的安全性の高いチームでは、メンバーが積極的に現場で起きていることを共有するため、リーダーに様々な情報が集まるようになります。

一方で、リーダーがあまり真剣にメンバーの話に耳を傾けない、心理的安全性の低いチームの場合、メンバーは現場で起きていることを話さなくなります。さらに、リーダーに聞いてもらえそうな情報だけ伝えようという意識が働き、本当はリーダーに必要だったはずの情報が報告されないままになってしまいます。

効果2.悪い報告が早く届き、早く挽回できる

チームの心理的安全性を高めることで、失敗・問題・リスクなどのネガティブな情報であっても共有されやすくなります。悪い知らせは、放っておくと思いもよらぬスピードでさらに悪化します。悪化しすぎる前に対処するためには、メンバーが異変に気づいたときに、ありのままに報告できる風土が必要です。

Googleでは、何か問題が起こったときは、「逃げる」「放置する」「隠す」ではなく、「上昇」「告白」「遵守」を徹底しています。これは、航空機が緊急事態に陥ったときにパイロットが墜落を防ぐための行動に由来しています。パイロットはまず、墜落しないように機首を上げて上昇し、その後すぐに管制官へ状況を告白(報告)します。そして、管制官の指示に従い、危機を回避します。

ネガティブな報告を迅速且つ正確に報告し、リーダーの指示に素直に従うことは容易ではありません。心理的安全性は、このような行動を従業員に促すのに効果的であると考えられています。

効果3.安心してリスクある行動に挑戦できる

失敗は多くの人にとって非常に怖いものです。失敗することで、怒られたり罰則を受けたりしてしまうことはもちろん、「将来の自分のキャリアや人間関係が危うくなるかもしれない」という不安もつきまといます。

心理的安全性の高いチームでは、メンバーを信頼し、失敗を許容する姿勢があります。実際、Googleや他の成長企業でも、すべてのプロジェクトが成功しているわけではありません。Googleにおいては、発表したサービスの35%は終了・停止し、打率5割程度で、成功しているものは1割程度と言われています。

しかし、1割の大成功をおさめるためには、日頃から挑戦し、失敗から学び続けることが大切です。心理的安全性は、メンバーに対して挑戦したいという動機を生み出し、挑戦・失敗・成長のサイクルを回すことにつながります。

心理的安全性を測定する方法

自社に心理的安全性がどの程度あるか気になる場合、エドモンドソン教授が開発した心理的安全性を測定するアンケートを使って知ることができます。このアンケートは次の7つの質問項目によって構成されており、回答は「非常にそう思う」〜「全くそう思わない」の7段階となっています。

【心理的安全性に関する意識調査】

  1. このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R)
  2. このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。
  3. このチームの人々は、他と間違っていることを認めない。(R)
  4. このチームでは、安心してリスクをとることができる。
  5. このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R)
  6. このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。
  7. このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。

※(R)がついている質問項目はリバースクエスチョンと呼ばれるもので、否定的な選択肢であればあるほど、心理的安全性が高い状態を意味します。

エドモンドソン教授は、「このアンケートは統計的に信頼性と妥当性が高いものの、スコアを決定的なものとして捉えるのではなく、従業員の期待と現実のギャップ等から、リーダーがチームを振り返り、チームを改善するために何が必要か前向きに考えるために活用すべきである」と推奨しています。

心理的安全性とは、より高い成果をあげるための土台

心理的安全性を高めることは、「生ぬるい組織」や「勝手気ままな組織」をつくることではありません。目標達成基準を下げたり、挑戦を避けたりすることではないからです。心理的安全性とは、率直に話し合い、協力し合える環境を通じて、組織がより高い成果をあげるための土台です。

心理的安全性を高めているのに、成果が上がっていない場合、従業員が自分の意見を言える環境であっても、挑戦できる環境ではないのかもしれません。あるいは、挑戦する動機が持てない状況なのかもしれません。このような状況では達成感を感じられず、従業員エンゲージメントがあまり高くない可能性があります。そのため、心理的安全性の醸成に取り組む際には、エンゲージメント調査も活用するといいでしょう。

本記事では、生産性の高いチームの特性や、心理的安全性を高めるためのリーダーの心得などについて、Googleの事例をもとにご紹介しました。本記事が皆さまの組織のリーダー育成やチームマネジメントの参考になれば幸いです。

【参考文献】

  • ※1 エイミー・ギャロ. 「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」. ハーバードビジネスレビュー. 2023.04.14
  • ※2 桑原晃弥. 「グーグルに学ぶ最強のチーム力 成果を上げ続ける5つの法則」. 日本能率協会マネジメントセンター, 2019
  • ※3 エイミー・C・エドモンソン. 「恐れのない組織 『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」. 英知出版, 2021