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2021.11.08

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自律的なキャリア志向をもつ若手社員ほど組織からのサポートを求めている? 新人の適応・育成に関する新たな研究知見

早稲田大学 大学院経営管理研究科
教授 竹内 規彦

これまでに筆者は、個人のキャリア開発や組織の人材育成・人材マネジメントに関わる研究プロジェクトに数多く携わってきた。なかでもこの20年近く、筆者が継続して関わっているテーマの1つに、企業が高校・大学等から新規に採用した新入社員(以下、新人)の適応や育成に関するものがある。この研究テーマの中核的な問いは、「入社後の個人の仕事やキャリア面での発達に対し、職場や組織がどのように関わっていくか?」である。一連の研究では、入社後の一定期間の発達、適応、ないしは育成という時間軸をともなう個人の変化を扱うため、入社した個人の定点観測に基づくデータの蓄積とその緻密な解析により得られる科学的エヴィデンスが研究の成否を分ける試金石となる。

本稿では、筆者らが日本企業の新人を対象に、入社後約10ヶ月間計4回にわたる追跡調査データから得られた最新知見のうち、この分野の権威ある国際的学術誌の1つJournal of Vocational Behavior誌の最新号(執筆時)に掲載された拙著 “Takeuchi, N., Takeuchi, T., & Jung, Y. (2021). Making a successful transition to work: A fresh look at organizational support for young n-ewcomers from an individual-driven career adjustment perspective. Journal of Vocational Behavior, 128 [103587]. https://doi.org/10.1016/j.jvb.2021.103587(邦訳:竹内規彦ら (2021). 仕事への移行を成功させるために―個人主導のキャリア適応から考える若手新人サポートの新たな視点.[以下省略])” の内容を中心に、キャリア意識が多様化する新人に対し、日本企業が今後どのように向き合っていくべきかに関する研究知見を紹介する。

1.入社後の新人(新卒採用者)の課題

2.多様化する新人のキャリア意識と仕事・組織への適応

3.新人に対する組織サポートの新たな視点:新人のセルフイメージを高める「個人主導型アプローチ」とは?

4.個人主導型の適応アプローチがより機能するケースと機能しないケース

【文献】

1.入社後の新人(新卒採用者)の課題

組織を構成する人材をいかに採用するか、また採用後の人材をいかに育成するかはいつの時代においても重要な課題である。正規社員に限定した場合、その採用方法は新卒採用か中途採用かの大きく2つに分類されるが、日本企業の多くは長らく、新卒一括採用を人材の主な採用チャネルとしてきた。近年、採用方法や雇用形態の多様化、転職市場の活性化などにより、学校のみが重要な人事供給元とは限らなくなってきているが、それでも2017年度の正社員採用実績に占める新卒採用の比率は約35%を占めている(リクルートワークス研究所, ND)。さらに、この新卒採用比率は5,000人以上の大手企業では6割以上、金融・保険業では実に7割以上と非常に高い。

新卒採用の新人は、「学校から職業への移行」(school-to-work transition: STWT)を経験する。人は人生の間に何度か大きなキャリア上のトランジションを経験すると言われているが、なかでもSTWTは最もインパクトの大きい移行経験の1つである。職業心理学の研究では、新人がいかに成功裏にこのSTWTを経ることができたかについての定義づけが行われている。具体的には、STWTの成功は、新人が「雇用主に受け入れられるレベルで仕事をこなし、職場環境や職務要件に対して前向きな姿勢を持っている」(Ng & Feldman, 2007, p.116)程度によるとされている。当然のことながら、STWTの成功度合いには、多かれ少なかれ個人差がある。初職後の一定期間で、組織の価値観との摺り合わせが行われ、また職場や仕事に適応し「前向きな姿勢」を実現できる新人もいれば、必ずしもそうではなく離職意思を高める、ひいては実際に離職を経験する新人もいる。

我々の研究では、入社後の具体的なSTWTの指標として、入社からある一定期間(本研究では10ヶ月間)での「キャリア成長感」、「職務満足」、「組織コミットメント」、「(会社への)定着意思」の変化の度合いを指標として設定している。つまり、新人の初期のキャリア・仕事面での課題として、彼・彼女らが入社後にキャリア面での成長実感を獲得しながら、いかに会社や仕事に対して前向きな姿勢を高められたかが重要であると考えている。

2.多様化する新人のキャリア意識と仕事・組織への適応

ここ十数年ほど、世界のキャリア研究が注目しているのは、個人ないしは社会のキャリア観に関する世界的なパラダイムシフトである。いわゆる伝統的なキャリアから「新たなキャリア」(new career)への転換である。特に、新たなキャリア観を代表するより具体的な概念として研究が進んでいるものが、「プロティアン・キャリア(protean career)」である。表1は、プロティアン・キャリアの特徴を伝統的キャリアとの対比から浮かび上がらせたものである。

端的に言えば、伝統的なキャリアは組織主導型のキャリア形成が前提となっているのに対し、プロティアン・キャリアは個人主導型のキャリア形成を重要な前提としている。個人がもつ後者のキャリア観は、「プロティアン・キャリア志向(protean career orientation PCO)」と呼ばれ、キャリアにおける「自律性」(self-directed orientation: キャリア上の課題や学習の要求に対し個人が適応する能力)と「価値観主導性」(values-driven orientation:キャリアの指針と成功を自己の内的な価値観に求める意識)の2つの側面が含まれる(Briscoe & Hall, 2006)。

日本の若手人材においても、上述のキャリア観に関するパラダイムシフトは少なからず進んでいると考えられる。実際に、我々の調査データからも、プロティアン・キャリア志向の水準は、国際的なデータと比較しても決して低いわけではない。一方で伝統的なキャリア観を支える制度的特徴(長期安定的な雇用やそれを前提とした人材マネジメント)が企業や企業グループ内で完全に払拭されているわけではない。したがって、組織主導型の伝統的キャリア観と個人主導型の新たなキャリア観が混在する状況において、自律的なプロティアン・キャリア意識をもった新人が、いかにSTWTの成功を経験し、組織・仕事に適応をしていくかは、解明すべき喫緊かつ重要な課題である。

表1.伝統的キャリアとプロティアン・キャリア

出所: Hall (2002) をもとに、筆者が加筆修正。

3.新人に対する組織サポートの新たな視点:新人のセルフイメージを高める「個人主導型アプローチ」とは?

では、多様化する新人のSTWTを高めるために、組織はどのような支援をしたらよいのだろうか? 従来の新人に対する組織サポート研究では、組織側の価値観、規範、キャリア計画に適合するように、「新人個人の考え方を変化させる」ことを前提とするものがほとんどであった。これは新人研究では「認知的学習」アプローチと呼ばれ、極論すると、新人のSTWTの成功は入社後の本人の学習次第というものである。

つまり、仕事のノウハウはもとより、会社や職場にある暗黙のルールや文化、ひいては個人の育成計画なども、「会社に学び会社に合わせる」という組織主導型のアプローチが主流だった。しかし、先述の新たなキャリア・パラダイムが浸透する(し始めた)社会では、自律的(プロティアン)キャリア志向をもつ新人が企業に多かれ少なかれ参入している。したがって、新人個人の価値観やキャリア計画を会社のそれに修正させる伝統的な新人適応の手法のみでは、自律的なキャリア志向の強い新人を入社後の組織に成功裏にオンボーディングさせることは、必ずしも容易ではない。

我々の研究で提唱し実証を試みたのは、「個人主導型の組織適応」(individual-driven organizational adjustment)という新たなメカニズムである。すなわち、半ば強制的に新人に変化を促す伝統的な組織主導型のアプローチとは逆に、組織が新人のもつ価値観やキャリア計画に歩み寄りつつ、新人に組織・仕事への前向きな姿勢の獲得を促すアプローチである。ここで重要な役割を果たすのが「組織サポート知覚」(perceived organizational support)である。組織サポート知覚とは、会社が自身の貢献を評価し、自身の幸福を気にかけ関心を示し、サポートしてくれていると感じる個人(新人)の知覚の程度を指す。

なぜ、この新人の主観的な組織サポート知覚が、我々が新たに提起する「個人主導型の組織適応」に重要なのか? 組織サポート知覚が個人の態度形成にもたらす効果は大きく2つあるとされている。1つは「社会的交換(social exchange)」のロジックにもとづく組織への肯定的な態度の形成であり、もう1つは「自己高揚(self-enhancement)」の動機づけ向上効果にもとづく組織への同一化意識の醸成である。

個人主導型の組織適応アプローチで重要だと考えられるのは、後者の「自己高揚」の動機づけ向上効果である。
人間には、他者から評価されたい、認められたい、尊敬されたいなど「高い自己イメージ形成」(=自己高揚)を求める普遍的な欲求があり、その欲求を満たしてくれた他者に肯定的な感情を抱くとともに、彼・彼女と自己を同一視しようとする傾向がある。心理学ではこの内的なメカニズムを「自己高揚効果」という。自己高揚効果は、対人間の関係(認める人と認められた人の関係)のみならず、組織と個人の関係でも起こる。つまり、組織によって認められたと感じる個人は、自尊感情の欲求が満たされ(自己高揚の状態)、当該組織に対して同一視し、組織の一員である感覚が得られるようになる。

この自己高揚による組織へのメンバーシップ感の獲得プロセスは、新人への教育・研修を通じた組織側の同一化圧力を伴う新人の内面変化や、組織から何らかのサポートを受けたことに伴う報恩的な貢献意識の醸成、つまり組織主導型の適応プロセスとは異質のものである。我々の研究でまず明らかにしたのはこの点である。図1は、この結果を要約したものである。

使用したデータは、筆者らが収集した高校、大学、大学院などを3月に卒業し直後の4月に民間企業に入社した新入社員111名のデータである。具体的には、入社2週間後、3ヶ月後、6ヶ月後、そして9ヶ月後の計4回のアンケート式調査を同一対象者に実施し、4回全てに回答があったデータである(なお、途中で退職したサンプルは分析には含めていない)。

図1から、入社3ヶ月後の組織サポート知覚のうち「自己高揚効果」に相当する分散のみが、入社6ヶ月後のキャリアマッチ(組織と個人のキャリア計画の一致に関する新人の知覚)に有意なプラスの影響を与えていることがわかる。さらに、キャリアマッチは入社10ヶ月後のSTWTの各指標(キャリア成長感、職務満足、組織コミットメントの変化量)にいずれも有意なプラスの影響を与えていた。つまり、この一連の連続したパスで説明されるメカニズムが「個人主導型の組織適応」である。

より具体的には、新人が組織のサポートを入社初期に経験した場合、それが自己のセルフイメージが高められるような感覚を伴う(自己高揚効果)と、入社後の会社が提供するキャリア計画と自身のキャリア計画とが一致すると知覚(同一視)し、入社約10ヶ月後のキャリア成長感、職務満足感、組織コミットメントが高まること(STWTの成功指標の量的増加)が、我々の研究から確認された。一方で、会社のサポートに対する返礼的な新人の態度変化や、会社の教育研修などによる同一化圧力を伴う学習経験は、入社後のSTWTの成功をごくわずかしか説明していないことがわかる(入社初期の新人が経験する組織との「社会的交換」の分散が組織コミットメントの増加に与える効果のみ)。

これまでは、新人の適応は、会社が個人を同化させるプロセスだと考えられていたが、我々の研究はそのステレオタイプ的な見方に一石を投じている。いうなれば、新人の入社適応は、組織の規範や価値観、キャリアプランを個人に刷り込み、個人の変化を強いるようなやり方では必ずしもうまくいかないということである。大事なポイントは、新人個人の価値観や本人が描いているキャリアプランを「アプリシエイト」し、新人個人のセルフイメージの維持・向上を図るような働きかけを行うことである。

ただし、この個人主導型の適応・育成手法は必ずしも全ての新人にあてはまるわけではないことも我々の研究で同時に明らかになった。次説ではこの条件についてみていく。


図1.新人の入社適応メカニズム
注:図中の矢印は統計的に有意なパスを示す。Bは非標準化係数を指す。
* p < .05, ** p < .01, *** p < .001。
出所:Takeuchi et al. (2021) をもとに筆者が作成。

4.個人主導型の適応アプローチがより機能するケースと機能しないケース

本稿の前半で、キャリアに関するパラダイムシフトが起きている(起きつつある)ことが多くの研究で指摘されている点を取り上げた。実はこの多様化する新人のキャリア意識こそが、個人主導型の組織適応アプローチがどの程度機能するかの重要な条件要因となっていることも我々の研究で浮き彫りとなった。図2は、図1で確認された入社3ヶ月後の組織サポート知覚のうち「自己高揚効果」に相当する分散と入社6ヶ月後のキャリアマッチ(組織と個人のキャリア計画の一致に関する新人の知覚)とのプラスの関係を、プロティアン・キャリアの「自律性」が高い新人と低い新人とで効果を比較したものである(なお、同じプロティアン・キャリアでも「価値観主導性」には効果の違いは見られていない)。

図2から、自律的なプロティアン・キャリア志向が高い新人では、自己高揚効果が及ぼすキャリアマッチのプラスの効果は強まるのに対し、自律的なキャリア志向が低い新人ではこのプラスの効果が弱まっており、かなりニュートラルに近い状況にあることがわかる。すなわち、組織サポートの「自己高揚効果」は自律的なプロティアン・キャリア志向が高い新人には「非常に」効果的である一方、低い新人には有効ではないことを示している。

さらに、入社後約10ヶ月間のSTWTの成功指標に至る効果まで含め、詳しく解析を進めたところ、対象となった全新人サンプルのうち、自律的プロティアン・キャリア志向の分布が上位約75%に該当する大部分の新人層では、図1で示した一連の連続したパスで説明されるメカニズム(すなわち、個人主導型の組織適応)は統計的に有意に機能していたものの、下位4分の1に該当する層では機能していないことが明らかとなった。すなわち、キャリアの自律性が下位4分の1に該当する新人では、仮に彼・彼女らが自己高揚感の向上につながるようなサポートを組織から得られたとしても、入社後にキャリアマッチが経験されず(組織に対する同一視の未形成)、結果としてキャリアの成長実感や仕事への満足度、ひいては会社への愛着といった前向きな姿勢の獲得につながらないようである。


図2.自律的プロティアン・キャリア志向の違いからみた入社後の組織サポート知覚(自己高揚効果)とキャリアマッチの効果の違い
注:SDは標準偏差を指す。
出所:Takeuchi et al. (2021) をもとに筆者が作成。

したがって、少なくとも我々の分析結果を見る限り、大部分の新人には、個人主導型の組織適応アプローチは有効である。特にキャリアの自律性が高い新人ほど、組織からのサポートにより得られるセルフイメージの向上(全般的な自尊心の向上、自身のキャリア計画の承認感の高揚)が、入社後のキャリア成長感、仕事への満足感、組織へのコミットメントなどの「前向きな姿勢」の形成を強く促進する。一方で、キャリアの自律性が特に低い新人では、残念ながらこのような組織適応のシナリオを期待することは難しいようである。

では、自律的なキャリア意識の低い新人は、組織からのサポートが不要なのか? 結論から言えば、“No”である。つまり、自律的なキャリアの志向性の有無や程度に関わらず、組織からのサポートは必要である。決定的な違いは、両者には、サポートの「焦点」に違いがある。既述のように、自律的なキャリア志向性の高い新人は、セルフイメージが高められることによって、より強く動機づけられる傾向にある。一方で、自律的なキャリア志向性の低い新人は、セルフイメージが高められることによってでは、あまり動機づけられないが、他のメカニズムが働いて組織に適応していく可能性は十分にある。

図1にて、「社会的交換効果」から組織コミットメントに対し有意なプラスの影響があったことを思い出して欲しい。つまり、キャリアの自律性の程度にかかわらず、彼・彼女らが会社からサポートされていると感じた場合、サポートを提供した会社への返礼意識が入社約10ヶ月間での「組織コミットメント」向上に結びついているのである。この返礼意識は、職務満足やキャリア成長感といった他のSTWT成功指標には直接的には効果が確認されていないが、少なくとも入社後の会社への帰属意識を醸成する効果はある。特に組織コミットメントは、離職率の低下を強く予測する変数として知られており、新人のリテンションを考えた場合、組織サポート知覚がもたらす組織への返礼効果(社会的交換効果)は無視できないメカニズムである。したがって、組織のサポート知覚は、自律的なキャリア志向性の低い新人では、セルフイメージの向上とは異なるメカニズム(サポートに対する返礼意識の形成)を通じて、限定的なSTWT指標(組織コミットメントのみ)に効果があるといえる。

【文献】

Briscoe, J. P., & Hall, D. T. (2006). The interplay of boundaryless and protean careers: Combinations and implications. Journal of Vocational Behavior, 69, 4-18. https://doi.org/10.1016/j.jvb.2005.09.002
Hall, D. T. (2002). Careers in and out of organizations. Thousand Oaks, CA: Sage.
リクルートワークス研究所 (ND). 中途採用実態調査(2017年度実績).リクルートワークス研究所. https://www.works-i.com/research/works-report/item/180627_midcareer.pdf
Ng, T. W. H., & Feldman, D. C. (2007). The school-to-work transition: A role identity perspective. Journal of Vocational Behavior, 71(1), 114-134. https://doi.org/10.1016/j.jvb.2007.04.004
Takeuchi, N., Takeuchi, T., & Jung, Y. (2021). Making a successful transition to work: A fresh look at organizational support for young newcomers from an individual-driven career adjustment perspective. Journal of Vocational Behavior, 128 [103587]. https://doi.org/10.1016/j.jvb.2021.103587

竹内 規彦〈早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授〉
Norihiko Takeuchi, Ph.D.
名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。
専門は組織行動論及び人材マネジメント論。
東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、
2012年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。
2017年より現職。
2021年より国立成功大学(台湾)国際経営管理研究所・客員教授を兼任。
Asia Pacific Journal of Management副編集長、米国Association of Japan-ese Business Studies会長、 欧州Evidence-based HRM誌 (Emerald Publi-shing) 編集顧問、経営行動科学学会副会長、産業・組織心理学会理事、 組織学会評議員、京都大学大経営管理大学院・客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。

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