組織開発とは?事例や手法(フレームワーク)について

就業スタイルや働くことに対する価値観が多様化し、人材の流動性を高める動きも活発になっています。このように雇用環境が大きく変化する中で、組織内の「人と人」のつながりを強化する「組織開発」が注目されています。組織の活性化を目指す組織開発は、従来の人材開発とどこが違い、どのような特徴があるのか。本記事では、組織開発の定義と目的を明らかにしながら、手法そして企業の取り組み事例を解説します。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

企業を強くする組織開発(OD)とは

会議

組織開発とはどういうものなのか、その定義や目的、そして混同されがちな、人材開発について解説します。

組織開発の定義

組織開発とは、OD(英語表記Organization Developmentの頭文字)とも呼ばれ、組織内の「人と人との関係性」に働きかけ「相互作用」を促し組織を活性化させる取り組みのことです。1950年代後半のアメリカで始まり、欧米を中心に拡大しました。組織が抱える課題を把握し、組織に属する一人ひとりが自律的かつ主体的に課題解決プランを考え、そのプランを実行することで組織全体のパフォーマンスをあげていこうという取り組みです。会社でいえば、「社員自身が、自らの手で会社をより良くしていく」という考え方。つまり、組織開発の手法や進め方はひとつではなく、組織によって違ってくるのです。

組織開発の目的

組織開発の目的は次の通りです。

  1. 相乗効果が生まれる組織風土づくり
  2. 当事者意識とエンゲージメントの強化
  3. 生産性の向上

組織開発は、人と人との関係性に働きかけます。価値観の違う個人と個人の関係改善は、様々な相乗効果を生み新しい組織風土を作り出すでしょう。また、社員が「自分ごと」として課題解決に取り組む姿勢は、当事者意識とエンゲージメントを強化させ、生産性の向上にもつながります。このように組織開発の目的は、企業を強くすることであり継続的に取り組んでいくものなのです。

人材開発とは~組織開発との違い

ここで、組織開発と混同されがちな人材開発について解説します。人材開発とは、組織内の「人」にフォーカスし、人のパフォーマンスを向上させる取り組みのことです。「組織」にフォーカスする組織開発に対して、「人」にフォーカスするという点で大きな違いがあります。人材開発は、組織の課題を解決するために、個人の能力やスキルを伸ばしていこうとする取り組み。研修やセミナー、OJTやキャリア開発を通して、能力やスキルの向上を図ります。このように人材開発は、組織の課題解決を人と人との関係性の改善や相互作用の最大化に求める組織開発とは、大きく異なるアプローチなのです。

組織開発が注目される理由

面接

働き方に対する価値観の多様化、終身雇用の崩壊といった日本型の雇用環境が大きく変化する中で、人材の流動性が高まっています。採用のタイミングも、新卒採用や中途採用をはじめ、様々なタイミングで採用活動が行われています。また、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)のもと、老若男女、正規・非正規や障がい者、外国人など、多様な人材が組織に属する時代です。

さらに、新型コロナウイルスのパンデミックは、働き方そのものを変えてしまいました。リモートワークや在宅勤務の普及により、コミュニケーションはオンラインとなり、チームや部署の連携のあり方、そして仕事の進め方までも変化を余儀なくされています。まさに、働く環境が激変し組織も変化を迫られている時代。このような中、組織の課題解決を外部の人材に頼らず、組織内の人材自らが解決することでエンゲージメントを高めていこうとする組織開発が注目されているのです。

組織開発の実践プロセス

では、組織開発の実践プロセスを「6つのステップ」で解説します。

ステップ1:目的設定~現状把握

組織開発は手段であり目的ではありません。よって最初に行うべきことは、「目的」の設定です。「なぜ組織開発を実施するのか」を明確にし、目指すべきゴールを設定します。目的が明確になったら、組織の現状を把握します。これは、今現在の組織が抱える課題を抽出することです。アセスメントツールやサーベイを活用することで、組織が抱えるリアルな課題を抽出し現状を把握します。

ステップ2:課題設定

現状を把握し課題を抽出したら、「解決すべき課題」を設定します。ここで大切なことは、「人と人との関係性」にフォーカスすること。アセスメントツールやサーベイから得られたデータや事実をもとに、関係性のどこに問題があるのかを意識し、解決すべき課題を設定します。

ステップ3:課題解決プラン作成

解決すべき課題の「課題解決プラン」を作成します。課題を「いつまでに、どのようにするのか」を、具体的に言語化します。尚、組織開発は中長期的な取り組みですが、まずは短期的なプランを作成しましょう。これは、課題を解決できるか否かは、実施しないと効果が見えないからです。短期的なプランであれば比較的早期に施策の効果がわかり、改善点を盛り込むことが可能になります。最初は、ミーティングやワークショップなどの手頃な手法から取り組むのもお勧めです。

ステップ4:課題解決プラン実施

作成した課題解決プランを実施します。短期的な課題解決プランを、スモールステップで進めていきましょう。スモールステップとは、小さな段階から実践を重ねるということ。まずは、小さなチームからスタート。その後、特定の部門に展開。最終的に、組織全体に広げていきます。

ステップ5:検証~フィードバック

課題解決プランを進めていく中で、得られた結果を検証しフィードバックを行います。あるチームでは成果があがっても、別のチームでは効果がないこともあるでしょう。結果を踏まえ検証を重ね、データを蓄積することが重要です。検証~フィードバックを繰り返すことで課題解決の精度を高め、施策のブラッシュアップを目指します。

ステップ6:組織全体で共有

ブラッシュアップした課題解決プランを組織全体で共有します。共有した後も、継続的な検証が必要であることはいうまでもありません。アセスメントツールやサーベイなどで効果測定を行い、施策のブラッシュアップを継続しましょう。この繰り返しが、中長期的な組織開発へとつながっていくのです。

組織開発の手法/フレームワーク

ディスカッション

ここでは、組織開発に役立つ手法やフレームワークを解説します。

チームビルディング(タックマンモデル)

「チームビルディング」とは、社員の能力やスキル、経験を最大限に活かし、目標を達成できるチームを作り上げていく取り組みです。チームを活性化させ、チームが抱える課題を解決するための関係性の構築を目指します。この間のチームの成長を「形成期・混乱期・統一期・機能期・散会期」の5段階で示したものが「タックマンモデル」です。

「チーム形成→最初はぶつかり合う→価値観の相互理解が進み安定する→チームとして機能し成果が生まれる→チームの役割終了」が主な流れ。効率よくチームづくりを進めるには、チームの成長段階に応じた働きかけが重要であることを示しています。

※チームビルディング(タックマンモデル)の詳しい解説については、コチラの記事を御覧ください。

1on1ミーティング

「1on1ミーテイング」とは、社員と1対1で定期的に行うミーティングのこと。キャリアの課題や悩みを共感的に傾聴し、社員の成長をフォローするのが目的です。大切なことは、社員の自律的かつ主体的な課題解決をフォローするというスタンス。強制や押しつけの場にならないように、社員が抱える課題や悩みを傾聴し、自律的かつ主体的に行動できるよう「能力を引き出す」関わりを目指します。

コーチング

「対話」により、社員の能力やモチベーションを引き出すことで成長を促し、自律性や主体性を伸ばすコミュニケーション手法が「コーチング」です。社員との対話を重ね、強制するのではなく自律的かつ主体的な課題解決につなげることを目指します。大切なことは、「自分で考えさせる」そして「共に歩む」という姿勢。自己成長を促すことを意識しましょう。コーチングは、もともと人材開発の手法として取り組まれていましたが、最近は組織開発でも取り入れられ活用されています。

ワールドカフェ

「ワールドカフェ」とは、少人数に分かれリラックスした雰囲気で対話を行い、自由で創造的な意見やアイデアを引き出していく手法です。対話を通じて、参加者の気づきを得ることが大きな目的。堅い雰囲気ではなく、リラックスした自由な空間は、意見が言いやすいばかりではなく、相手の意見を受け入れやすくなり相互理解を深める効果が生まれます。

サーベイ・フィードバック

様々なサーベイによって組織の現状や課題を可視化し、社員にフィードバックすることが「サーベイ・フィードバック」です。サーベイは、実施して終わりではなく、社員にフィードバックしてこそ意味を持ちます。社員へのフィードバックを通して対話を促進。社員の自律的かつ主体的な課題解決、そして成長へとつなげていきます。

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)

「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」とは、組織の「強み」にフォーカスし、その「強み」を最大化させるフレームワークです。「アプリシエイティブ:Appreciative」は「価値、違いがわかる」、「インクワイアリー:Inquiry」は「問いかけ」を意味します。組織のネガティブな部分ではなく、強みや価値、目指す未来を共有し、実現を目指すポジティブなアプローチがアプリシエイティブ・インクワイアリーです。4つのD、「発見(Discover)・夢(Dream)・設計(Design)・実行(Destiny)」のプロセスで個々の考えを共有し、組織パフォーマンスの向上につなげていきます。

組織開発における人事の役割

話し合い

組織開発の概要と共に、手法やフレームワークを解説してきました。では、組織開発を実施していくにあたり人事部門はどのような役割を果たせば良いのか。人事が取り組むべき「3つの大きな役割」をまとめました。

  1. 組織の将来像を経営層を含む組織全体で共有する
  2. アセスメントやサーベイの実施
  3. ファシリテーションスキルや傾聴スキルの強化

組織開発を組織全体に浸透させていくには、経営層をはじめ、キーマンとのベクトルの一致が欠かせません。経営陣や部門間といった垣根を越えて、あるべき将来像を共有します。また見てきた通り、組織開発のスタートは組織の現状把握です。組織の現実を数値やデータで可視化するアセスメントやサーベイの実施は必須でしょう。さらに組織開発を進めていくには、チームや個人への介入が不可欠。ファシリテーションスキルや傾聴スキルを磨き、関わり方の強化を図るのも人事担当者の重要な役割です。

組織開発の取り組み事例

ここでは、組織開発を実施し、効果をあげている企業の取り組み事例を紹介します。

ヤフー株式会社

ヤフー株式会社が組織開発に取り組み始めたのは2012年。当時は業績こそ悪くなかったものの、事業の拡大と共に組織が肥大化し活力の低下を招く「大企業病」が懸念されていました。経営陣の強い危機感を背景に、自走できる組織作りとして組織開発をスタート。次のような施策に取り組みました。

  • 1om1ミーティング
  • 役職者へのコーチング研修
  • 部下が上司にフィードバックするアシミレーション
  • ワールドカフェ

現在は、社員のエンゲージメントが強化され、「組織が円滑に動くようになった」との評価があがり、大きな改善につながっています。

株式会社ニトリホールディングス

組織開発と人材開発を統合的に取り組んでいるのは、株式会社ニトリホールディングスです。「タレントマネジメント」と「教育システム」を連携させることで、人材マネジメントを一元管理。社員は、「エンプロイージャーニー(働く間にたどる道筋)」の作成や「eラーニング」の学習に取り組みます。

人事の施策は、社員のエンプロイージャーニーからスタートし、社員の価値観や好奇心と企業の施策とのマッチングを考えていきます。社員の企業内での「従業員体験(EX)」とHRテクノロジーのデータを連動させ、個人の成長を組織の成長につなげているのです。

スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスコーヒージャパン株式会社は、独自の企業文化でエンゲージメントを高め、何よりも大切にする企業文化を、組織開発にも活かしています。そのポイントは次の2つ。

  • 「ミッション・バリュー」への共感
  • 内発的動機づけの醸成

店舗で働く人は、社員・アルバイト問わず「パートナー」と呼ばれるスターバックス。店舗には、マニュアルも存在しません。そこで大切になるのは、「ミッション・バリュー」への共感、そしてパートナーの内発的動機づけです。対話によるミッション・バリューの浸透、そしてコーチングやフィードバックを通して内発的動機づけを醸成する。パートナーの高いエンゲージメントは、パートナー自身を動かし組織を変える原動力になっています。

組織開発でエンゲージメントを高める

ここまで見てきたように、組織開発では各種サーベイが大きな役割を果たします。「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメント調査」「360度評価」といったサーベイを実施することで、組織や社員の状況を数値やデータで把握し見える化することができるのです。そこで明確になった課題をもとに組織開発は動き出し、そのプロセスの中で社員のエンゲージメントが高まっていきます。そこには、外部の人材に頼らない「自走」できる強い組織と成長する社員の姿があるでしょう。

リアルワン株式会社は、100万人超にご利用いただく調査・評価の専門会社です。科学的な理論背景を備えた信頼性の高い「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメント調査」「360度評価」で、個人や組織の成長をサポートします。「組織開発のために組織や社員の状況を把握したい」とお考えの人事担当者の方は、ぜひリアルワンにご相談ください。