今注目の越境学習とは?導入のメリットやポイントを徹底解説

従業員に多様な体験をさせ、知見を広げる方法として「越境学習」が注目されています。越境学習とは、普段勤務している会社や職場を離れて働き、新たな視点を得る学びを指します。本記事では、越境学習の実施を検討されている企業様向けに、越境学習の種類、メリット、実施のポイントなどを解説しています。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

越境学習とは?

越境学習とは、普段勤務している会社や職場を離れ、まったく異なる環境で仕事をすることを通じて、新たな視点などの学びを得ることを言います。他社留学、社外留学とも呼ばれています。

越境学習では、従業員の籍を所属している企業に残したまま、短期または長期にわたって他社の業務やプロジェクトなどに参加する形をとります。具体的な方法としては、NPOや地方自治体で社会貢献活動に取り組む「プロボノ」、経営や専門分野の知識を深める「社会人大学院、ビジネススクール」、本業以外の仕事をかけ持ちする「副業・兼業」などが挙げられます。

越境学習が注目されている背景とは?

越境学習は、不確実性が高く、変化の激しい時代において、組織と従業員の双方にとってメリットが多い取り組みとして注目されています。また、企業だけではなく、経済産業省も越境学習の効果を認識し、推進しています。ここでは、越境学習が注目されている背景を3つ解説します。

1. 新しい価値観を得る機会の必要性

産業構造や労働環境の変化に伴い、多くの企業はイノベーションを起こすために、新たな価値観や知見、ノウハウを必要としています。

企業は越境学習を通じて、従業員に多様な経験、新たなスキルを身につける機会を提供できます。そして、彼らをイノベーション人材として育成し、社外で経験し学んできたことを新規事業の創造に発揮してもらうことを期待できます。

2. 不確実性を乗り越えられる従業員の能力開発の必要性

企業がVUCA時代に生き残るためには、従業員の能力開発が欠かせません。しかし、社内だけでは能力開発に限界があり、従業員の視野も狭くなりがちです。

従業員に社外で新鮮な学びを体験させることは、企業全体のアップデートにつながります。また、いつもと異なる環境での経験や学習機会は、従業員の自己成長を促し、リーダーシップの育成も期待できます。

3. 終身雇用の崩壊によるキャリア自律の必要性

日本企業は、経済成長の低迷により従業員の終身雇用を維持する体力がなくなってきており、企業主導での従業員のキャリア形成を行うことが難しくなってきています。

このような状況下で、従業員一人ひとりが自ら学習し、能力を開発し、自身のキャリアを形成する「キャリア自律」が求められています。

従業員は社外で主体的に学びを得ることで、自律的に自分の可能性やキャリアを形成する力を身につけられます。そのため、従業員が異なる環境でも通用するスキルやキャリアを形成する上でも、越境学習は有効な手段であると言えます。

越境学習の種類

越境学習はどのように行えば良いのでしょうか?代表的な越境学習の種類を5つご紹介します。

1. プロボノ

プロボノとは、仕事で培われたスキルや専門知識を活用して、地域や社会に貢献するボランティア活動を指します。具体的には、NPO法人や自治体などで数日〜数ヶ月の期間、支援業務やプロジェクト運営を通じて、地域振興や新興国支援に貢献する活動を行います。

企業が従業員のプロボノ参加を後押しすることで、CSRの遂行や社会的信用獲得につながります。同時に、従業員は人の役に立つ喜びを知り、自己肯定感を高められます。プロボノは、自分の強みや専門性を活かし、社会に貢献することができる意義深い活動です。

2. 副業・兼業

自分の専門分野を活かしたり、趣味を活かしたりして、他社の仕事を請け負う働き方を副業・兼業と言います。副業・兼業の主な目的として、本人のスキルアップや収入アップがあります。

副業・兼業を通じて、本業では得られない知識や経験を得ることができます。そのため、従業員の自己成長やモチベーション向上を期待できます。

副業を解禁することで、従業員の離職を促進してしまうのではないかという懸念をよく耳にします。しかし、実際には副業解禁には離職率を下げる効果があると言われています。詳細はぜひ関連記事をご覧ください。

>関連記事:「副業解禁の波に乗る前に知っておきたいメリット・デメリット|本業のパフォーマンスを高める効果はあるのか?」

3. 社会人大学院、ビジネススクール

社会人大学院やビジネススクールは、社会人が学ぶための教育機関です。夜間や週末に開講している大学院に通うことで、業務に直結した知識を習得できるほか、同じ志を持った社会人と交流することができます。

社会人大学院やビジネススクールでは、従業員が精通している分野以外の講義も受けられるため、新しい分野の知見やスキルを身につけ、キャリアの幅を広げることにも役立ちます。

また、同じ志を持った仲間との交流や人脈の拡大は、本人だけではなく企業にとっても有益です。新しい人脈から、これまで付き合いのなかった企業やベンチャーとの協業やオープンイノベーションの可能性が広がります。そのため、社会人大学院やビジネススクールでの越境学習は大変注目されています。

4. 留職(りゅうしょく)

留職とは、企業に所属する人材が決められた期間のあいだ新興国へ派遣され、現地のNPOやNGOに所属し、本業のスキルを使って現地の人々とともに社会課題の解決に取り組むことを指します。

留職の専門企業や官公庁が派遣先を紹介し、現地でのグローバルな考え方や高度なリーダーシップを養えます。また、留職はグローバル人材の育成だけではなく、新興国市場の開拓、組織の活性化といったメリットもあります。

5. ワーケーション

ワーケーションとは、仕事と休暇を組み合わせた新しい働き方であり、観光地やリゾート地などでテレワークを行うことを指します。観光地でのテレワークのほかに、地域振興のプロジェクトに参加するというワーケーションスタイルもあります。

このような働き方は、普段とは異なる環境から得られる刺激によって新たな発想が生まれ、イノベーションにつながる可能性が高まるとされています。また、ワーケーションは有休消化率を高め、従業員のストレス緩和にもつながります。

越境学習を実施する4つのメリット

越境学習を実施することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、主なメリットを4つご紹介します。

1. 次世代リーダーの育成

越境学習は、若手従業員にリーダーとしての活躍の機会を提供し、未来の事業責任者や経営幹部になる、次世代リーダーの育成に効果的です。

自社のポジションが限られている場合、外部のプロジェクトへリーダーとして参加させることで、自社では提供できない経験を従業員に積ませることができます。また、越境学習には仕事への問題意識やモチベーションを高める効果があるため、越境学習から戻ってきた従業員は企業のコアメンバーになる可能性が高いと言われています。

2. 従業員の自己理解と成長を促進

越境学習により、従業員は自分自身の適性や価値観を再認識できます。そのため、越境学習は、従業員の自己理解を深めたり、自己成長を促進したりする効果があると言えます。

普段と異なる環境にいることで、従業員は自身や勤務先について客観視し、スキルの優れている点や不足している点を把握できます。そして、新しいスキルの獲得や目標づくりに向けて行動することができるようになります。

3. イノベーション創出の機会を促進

越境学習を通じて、従業員が新たな視点や知見を獲得することは、イノベーションの促進につながります。

例えば、社外のプロジェクトに参加することで、従業員は自社内の当たり前と思われていたルールや仕事の進め方に気づき、外部で得た多様な価値観やアイデアを自社に取り入れたいという考えを抱くようになります。このような従業員が得た気づきやモチベーションは、組織の体質改善や新規事業の創出に貢献します。

従って、越境学習は従業員のスキルアップや業務効率化を図るだけでなく、企業の停滞を防ぎ、継続的な成長を促す重要な手段であると言えます。

4. 人材流出の防止

越境学習は、従業員が新しいキャリアを獲得するために転職するリスクを軽減できます。なぜなら、越境学習制度があることで、従業員は業務時間外に自己啓発をする必要がなくなり、自社での挑戦が可能となるからです。

さらに、越境学習は従業員の働きやすさや満足度を向上させることにもつながります。越境学習制度は、はじめは利用されにくいかもしれませんが、継続して取り組むことで多くの従業員に利用され、働きやすい環境を作り出すことができます。

越境学習を実施する上での注意点

越境学習は企業の目的、従業員の目的を明確化し、双方のベクトルを合わせなければ、本記事で挙げたようなメリットを得ることができません。そのため、ここでは越境学習を実施する上での注意点を2つご紹介します。

1. 目的を明確にする

越境学習を成功させるためには、目的を明確にすることが重要です。漠然と学ぶだけでは成果を得られないため、必ず目的と目標を設定して臨む必要があります。

さらに従業員が越境学習先から戻ってきた際には、成果や学んだことを報告させるなどのフォローも重要です。フォローや報告は、従業員が社外で得た情報を集めるためだけではなく、従業員自身に越境学習の目的を再認識させ、新たな知識やスキルをどのように今後のアクションにつなげられるか真剣に考える役割を果たします。

また、越境学習の成果を測定する際は、従業員のその後のパフォーマンスや評価だけではなく、会社に対する満足度やエンゲージメントについても確認するといいでしょう。とくにその後のパフォーマンスが低い場合は、何が原因となっているのか調査し、制度を見直すことが大切です。

従業員満足度調査の詳細はコチラ

従業員エンゲージメント調査の詳細はコチラ

2. 志望理由を確認し、主体的に取り組める人を選ぶ

越境学習では、新たな知見が自社と受け入れ先の双方に生まれることが理想的とされています。そのため、高いモチベーションを維持しながら、主体的に取り組める従業員に越境学習の機会を与えることが重要です。

越境学習に参加する従業員を選ぶ際は、主体的に取り組んで、学習終了後に自社に貢献する意欲のある人を見極めなければなりません。そのため、越境学習を希望する従業員には、志望理由書も提出してもらいましょう。

志望理由書では、従業員が越境学習で学びたいことや学んだ後のビジョンの確認はもちろん、受け入れ側の要件とのすり合わせも行いましょう。そうすることで、自社と受け入れ先のシナジー効果を生み出しやすくなります。

越境学習は企業と従業員の双方にメリットあり

越境学習は、社外から新たな知見を得られるだけではなく、従業員の能力開発やキャリア自律を促進させます。また、従業員が形成してきた新たな人脈も、企業の今後のビジネスにとって非常に有益であると考えられます。本記事でご紹介した内容が、貴社の越境学習制度の検討の一助となれば幸いです。