組織の収益性改善や生産性向上に向けて施策を展開しているものの、今ひとつ成果があがらない場合、会社全体のエンゲージメントに目を向けてみるべきかもしれません。
社員のエンゲージメントが低いと、どれだけ意味のある施策を実行しても、パフォーマンスにつながらないからです。
この記事では、そんなエンゲージメントとはどのような概念なのか、なぜエンゲージメントが低下しているのかについて解説しながら、エンゲージメント改善のために知っておきたいポイントを紹介します。
【本記事で得られる情報】
・エンゲージメントが低いとどうなるのか
・エンゲージメントが低下する原因
・エンゲージメント改善の進め方
目次
エンゲージメントの定義

エンゲージメント(engagement)とは、端的に言えば「1.思考面」、「2.情緒面」、「3.行動面」の3つの側面において、自己が仕事に対し積極的に関与している状態のことを指す言葉です。
会社全体のエンゲージメントを理解する上で、重要なのが社員のエンゲージメントです。一人一人が仕事に対して思考や情緒といった内面的な部分だけでなく、行動の面でも意欲的になれているかどうかは、彼らのパフォーマンスにも大きく影響します。
一般的にエンゲージメントは高いほど良いとされており、一人当たりの生産性はその分大きくなる一方、エンゲージメントが低いとその分小さくなります。
エンゲージメントの高さには様々な要因が影響しており、企業はエンゲージメント向上を阻害する要因を発見し、それらを取り除くことで社員を高いエンゲージメントに導くことが重要です。
エンゲージメントが重視される背景

エンゲージメントはここ数年で一気に注目されるようになった言葉ですが、その背景には以下の理由が考えられます。
人材不足の深刻化
一つは、人材不足が年々深刻になっていることが挙げられます。日本では少子高齢化に伴う労働人口の減少が懸念されており、すでに多くの領域で人手が足りず、事業の継続が困難になっているケースが見られます。
新卒採用はもちろん、中途採用においても、競合企業と優秀な人材の獲得競争に苦しむ企業が出てきました。
そこで注目したいのが、エンゲージメントの概念です。
社員にとって働きやすく、それでいて熱意をもって仕事に取り組めるような組織へとアップデートすることで、魅力的な職場を創出し、離職率の低下と人材の獲得を有利に進めることができます。
また、高いモチベーションで業務を遂行できる人材が増えることにより、少数でも従来のパフォーマンスを維持できるという効果も期待されています。
人材サービスの普及・多様化
人材サービスがここ数年で広く普及したことも、エンゲージメントへの注目度を高める結果となりました。
あらゆる職種やニーズに合わせた人材サービスが登場した事で、転職希望者は以前よりも気軽に転職ができるようになった結果、会社は社員のひきとめに多くのリソースを割く必要が出てきたわけです。
社員が転職を希望する理由としては、その会社における働きがいを感じられないこと、つまりエンゲージメントを高めて働ける要素がないことも挙げられます。
このような問題に対処し、転職を回避させる上では、エンゲージメント向上に向けた改善策が重要です。積極的にこの会社とともに意味のあることを成し遂げたいと感じてもらえる職場やビジネスを実現することで、離職率を下げる必要があります。
働き方や生き方の多様化
社員一人一人が求める働き方や、生き方において考え方が多様化していることもエンゲージメントに注目が集まる理由の一つです。
ワークライフバランスや働き方改革という言葉が普及すると同時に、従来型のライフスタイルが必ずしも全ての社員が求めている事ではないことがわかってきました。エンゲージメントを改善する上では、こういった新しいニーズにも対応できる組織づくりが必要です。
エンゲージメントサーベイの役割

このようなエンゲージメント改善の必要性が各社で高まっている中、まず実施すべき取り組みとして注目されているのがエンゲージメントサーベイです。
エンゲージメントサーベイとは、その名の通り会社のエンゲージメントの状態を評価するための調査を指します。
そもそもエンゲージメントが高いか低いかを可視化しなければ、必要な対策を検討することができません。
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントを数値化できるのはもちろん、どのような点がエンゲージメント低下の要因となっているのか、どんなことが会社の魅力となっているのかなどをピンポイントで把握できます。
がむしゃらにエンゲージメント改善に向けたアクションを起こすよりも、まずはエンゲージメントサーベイを通じて客観的に現状を把握することで、建設的に改善施策を進めたいところです。
社員のエンゲージメントが低いとどうなるのか

エンゲージメントが高いか低いかというのは、エンゲージメントサーベイを通じて評価すべき事項です。ただ、会社の雰囲気や社員の様子をざっと見るだけでも、エンゲージメント低下の兆候をなんとなく把握することは可能です。
ここでは社員のエンゲージメントが低い場合、どのような様子が見られるようになるのかについて主なパターンを紹介します。
業務へのモチベーションが低い
社員のエンゲージメントが低いと、業務全般へのモチベーションが下がり、生産性が低くなるという問題が出てきます。
これまでなら業務時間内でこなせていたことが、社員に残業をさせてまでやらせる必要が出てきた場合、業務へのモチベーション低下が原因である可能性を考えるべきでしょう。
社員も人間のため、日によってモチベーションに上下があることも一般的ですが、慢性的に生産性が低い場合、エンゲージメントの低下に気づけることが重要です。
コミュニケーションが円滑でない
コミュニケーションがスムーズに進まない事態もエンゲージメントが低下している兆候の一種と捉えることができます。
メールやチャットの返信が極端に遅かったり、コミュニケーションミスが頻発していたりする場合、業務に対するモチベーションが下がっており、情報共有がうまくいっていない可能性があります。
円滑なコミュニケーションは、業務を素早くこなす上でも重要なポイントであるため、エンゲージメント改善を意識することが大切です。
社員の出入りが激しい
離職率が高く、常に新しい人が入ってきてはやめていくような事態が慢性化している場合、会社全体のエンゲージメントが低下していると考えるべきでしょう。
仕事にやりがいを持つことが難しい環境が定着してしまうと、それをすぐに改善することは難しいものです。課題を整理して、一つずつ改善に向けて早期に動いていくことが求められます。
会社のエンゲージメント全体が低い理由

エンゲージメントの低下が個人の問題ではなく、会社全体の問題としてみられるのには、どのような理由があるのでしょうか。エンゲージメント低下をもたらす要因として、以下の理由が考えられます。
賃金や福利厚生が十分ではない
わかりやすい理由としては、賃金や福利厚生が社員の求めるレベルに達していない問題です。
業界平均よりも賃金や福利厚生の内容が下回っていたり、忙しさと釣り合っていなかったりすると、働きがいを見失いやすくなってしまいます。
極端に水準を下回った賃金や福利厚生しか提供できていない場合、まずはこの点を見直すべきでしょう。
オーバーコンプライアンスに陥っている
オーバーコンプライアンス、つまり過剰に法令遵守を意識しすぎている場合も、社員のエンゲージメントを低下させてしまう原因となります。
コンプライアンスを守ることは組織にとって確かに重要ですが、社内外でのインシデントを防ぐために過剰なチェック体制や承認作業を導入していると、その分働きやすさは低下します。
リスク管理があまりにいきすぎてしまうと社員の労働意欲を削いでしまったり、社員に「自分は会社から信用されていない」という懸念を産んでしまったりするため、適切なバランスを保つことが大切です。
職能型人事制度を採用している
職能型人事制度とは、人事異動の際に従来とは全く異なる部門の業務であっても能力を発揮できる、汎用的なスキルセットを有していることが前提となった人事制度です。
年功序列や終身雇用といった、純日本的な企業の仕組みとともに広く普及しているこの人事制度は、会社のエンゲージメント低下につながっているとされています。
というのも、職能型人事制度は社員個人の専門性を評価しない、代替可能な人材であることが良しとされる仕組みであるからです。
エンゲージメント向上には社員にプロ意識を根付かせることが重要ですが、同制度ではそのような意識を養うことが難しく、強みを発揮したり、使命感を持ったりしづらい問題を抱えます。
組織が複雑化している
急成長を遂げ、組織の規模も部門も大きくなった企業では、それとは対照的に現場でのエンゲージメント低下が問題になることもあります。
というのもいきなり巨大化した組織は部門間の連携が困難であったり、業務が細分化され、自分が何をやっているのかわからず使命感や責任感を持つことが難しくなったりするからです。
また、巨大化した組織では一つ一つの承認を得るのに多くの時間を必要とし、仕事のテンポが遅くベンチャー企業のようなスピード感で働くことが難しくなります。
コミュニケーションコストが極端に膨らみ、本来の役割を果たすためにリソースを確保することも難しく、従業員のモチベーションを奪ってしまうわけです。
大企業が直面しやすいこれらの問題は、社員のエンゲージメントに悪影響を及ぼします。
従業員のエンゲージメント向上のために解消すべき課題

このようなエンゲージメント課題を解決するために、企業はどのようなアプローチで対処しなければならないのでしょうか。ここではエンゲージメント向上を阻害する要因を、整理しておきましょう。
人事評価に問題を抱えている
人事評価を現代のニーズに合わせてアップデートできていないと、エンゲージメントに悪影響を及ぼします。上で紹介した職能型人事制度のように、社会や社員のニーズが大きく変化している以上、人事制度も現代のトレンドに合わせていく必要があります。
ポイントとなるのが、社員一人一人に丁寧にスポットライトを当て、彼らの能力や適性を正しく評価することです。
誰がどんなことに関心があり、どんなスキルを持っているのか、将来どうなりたいのかということを把握できる仕組みを整えることで、適切な配置を実現できるのが理想です。
コミュニケーションが円滑でない
社員間のコミュニケーション頻度や質が低い状況が続いていると、主体的な業務へのコミットを阻害し、エンゲージメントの低下につながります。
コミュニケーションツールをアップデートして情報共有が円滑に行えるようになったり、上司と部下が定期的に1on1ミーティングを行って、現状に満足しているか、改善したいことやしてほしいことはないかなどを話し合いながら、組織をより良いものへ改善していく試みが必要です。
社員同士が話しやすい仕組みや制度、文化を整えることができれば、会社のエンゲージメント改善を円滑に進められるでしょう。
企業のコンセプトに共感性がない
自社のコンセプトが社員にとって共感を得られないものである場合、積極的に活躍したいと思える組織づくりを阻害し、エンゲージメントを下げてしまうことがあります。
企業の理念やコンセプトは、顧客に対してのアピールとなるだけでなく、社員にとってのモチベーションやエンゲージメントの源泉にもなりうる存在です。
コンセプトが時代に合ったものであり、そのミッションの達成のためなら時間をかけて取り組めると思えるようなものへ、ブラッシュアップすることが求められます。
十分な待遇が与えられていない
どれだけ社会的に意義があり、優れたコンセプトを打ち出すことのできる会社であっても、基本的な賃金や福利厚生の面で水準を下回っている場合、エンゲージメントの底上げは望めません。
エンゲージメントを改善することは、過剰に高いオファーを人材に提示しなくとも入社してもらえるメリットにもつながりますが、一定水準の給与や福利厚生を提示することは最低限必要です。
人事評価の基準は社員が求めているものになっているか、正しく評価していると言えるレベルの待遇を与えられているか、確認しておきましょう。
エンゲージメント改善の進め方

エンゲージメントの改善は、以下の手順に則って進めていくのが一般的です。具体的なステップについて、把握しておきましょう。
エンゲージメントサーベイを実施する
エンゲージメントの改善を行うためには、まず何を改善すれば良いのかを把握すべく、エンゲージメントサーベイを実施することが重要です。
エンゲージメントサーベイは、会社によって質問事項や実施方法などは微妙に異なります。質問フォーマットや効率的なサーベイの進め方を把握した上で、実施すると良いでしょう。
調査結果をもとに課題を発見・分析する
エンゲージメントサーベイを経て得られた結果をもとに、課題の発見と分析を行います。
エンゲージメントサーベイを行うことで、社員がどのようなところに不満を抱えているのか、どうすればエンゲージメントを伸ばすことができるのか、ということを知るための傾向を把握できます。
丁寧な課題発見を多角的に行い、どんなことをすれば解決に導けるのか、詳細な分析を行いましょう。
課題解決に有効な施策を検討する
解決すべき課題を特定でき、どうすればそれを解消できるかの目処がたったら、必要な施策を検討してみましょう。
課題解決にあたってはいくつかのアプローチを候補として掲げ、自社の都合に合わせて選定するのがおすすめです。予算や自社のスキル、リソースなどを踏まえた上で、最適なものを選びましょう。
施策を実施し、効果測定を行う
解決のための施策を選定できたら、実施フェーズに移ります。成果がすぐに現れるということは基本的にないので、中長期的に取り組みつつ、施策のパフォーマンスを評価します。
施策を実行に移すときは、何らかのKPIを定めた上で取り組むと良いでしょう。KPIを達成できているならアプローチに問題がないと言えますし、そうでない場合は何らかの改善施策を考えなければなりません。
実施結果をもとに改善を進める(PDCAサイクルの構築)
施策を行ってしばらくしたら、そのパフォーマンスを評価する時間を設けましょう。
例えKPIを達成できていなくとも、時間経過とともに自然と改善が進む場合もありますし、今後どうすべきかの意思決定はテコ入れの必要性を確認してから行うと良いでしょう。
エンゲージメント向上は、施策の実施、効果測定、結果の評価と改善点の把握、そして改善を施した上での再度実施というPDCAサイクルを繰り返すことが重要です。
エンゲージメント向上のために有効な主な施策

エンゲージメント向上には様々なアプローチがあり、以下の施策は有効とされる代表的な取り組みです。自社に不足していると感じることに合わせて、実施しましょう。
ミッションやビジョンの共有
ミッションやビジョンの共有は、エンゲージメント向上に貢献します。社員にとって伝わりやすい、共感しやすいコンセプトを改めて設定することで、組織一丸となって取り組むべきことが何なのかを明らかにしておきましょう。
新しい人事評価システムの導入
時代や社員のニーズに即した人事評価制度の導入は、エンゲージメント向上の良いきっかけとなります。社員個人の能力に適した人材配置を可能にできるシステムを実装することで、客観性があり、社員に寄り添った人事管理が実現するからです。
最新の人事評価システムの多くはこのような社員の適性や個性に寄り添える機能が多く備わっているため、刷新を検討してみましょう。
コミュニケーションツールの導入・仕組みづくり
社内SNSやメッセンジャーツールの導入によって、コミュニケーションのハードルを下げることも大きな意味を持ちます。
メールや電話、対面のコミュニケーションに限定されていると、どうしてもコミュニケーションが疎かになってしまうものです。情報共有のために最適化された各種ツールを導入し、業務効率化とエンゲージメント向上を促進しましょう。
また、このような刷新を行う際にはこれらのツールの使用を前提としたルール作りも大事です。ツール使用の仕組みがないと、従来手法に頼ってしまう社員が出てきてしまうからです。
マネジメント研修の実施
上司とのコミュニケーション改善や、管理職としてのスキルアップに向けたマネジメント研修は、部下のモチベーションを高めたり、離職率を下げたりする上で大切な取り組みです。
意思決定に携わる人が現場のモチベーションや生産性を低下させている可能性がある以上、こういった層のブラッシュアップを行い、優れたリーダーシップを発揮してもらうことが重要です。
ワークライフバランスの改善につながる仕組みの導入
働き方改革に注力し、ワークライフバランスを実現できる仕組みを整えることは、エンゲージメント向上に役立ちます。
残業や休日出勤が発生しないよう業務量を調節したり、休暇の取得に対して前向きな文化風土を養うことで、居心地が良く働きがいのある職場へと育てることが可能です。
エンゲージメント向上を成功に導くポイント

エンゲージメント向上を成功に導く上では、正しい施策の実施と、以下のポイントを踏まえておくことも求められます。
自社の課題を丁寧に特定する
エンゲージメント向上は、それに関する施策であれば何でも高い効果を発揮するとは限りません。
発見した課題にはなるべく全て対処できるのが理想ですが、とはいえ、課題にも優先的に対処すべきものと、そうでないものがあります。
まずは自社が真っ先に取り組むべき課題を把握し、その対処に注力することで、真剣に課題解決に取り組んでいる姿勢を社員に見せるとともに、その恩恵を感じてもらうことが重要です。
定期的にエンゲージメントサーベイを実施する
エンゲージメントサーベイは、一度やって終わりというものではなく、定期的に何度も実施することが重要です。
エンゲージメント向上施策を行った後、以前の問題は見られなくなったが、今度は別の部分で課題が発生してしまった、ということもあります。
定期的にエンゲージメントサーベイを実施することで、積極的に現状を把握し、対処する仕組みを構築しましょう。
エンゲージメントサーベイの結果をすぐに反映する
また、エンゲージメントサーベイを実施した後、すぐに改善施策を実行に移すことも大切です。
エンゲージメントサーベイはあくまでエンゲージメント向上のきっかけであるため、サーベイそのものがエンゲージメントを高めてくれるわけではありません。
調査結果を把握し、改善に努めているという意志を社内にアピールしましょう。
まとめ

この記事では、会社のエンゲージメントが低下している原因や、低下の兆候を掴むためのサイン、そしてエンゲージメントを把握するための手法について解説しました。
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