昨今、人材の流動性の高まりや将来的な労働人口の減少予測を踏まえて、人材の確保や流出の防止は企業にとって持続可能性に関わる問題となりつつあります。
さらに、人的資本経営の意識の高まりを受けて、従業員エンゲージメントの重要性が増しています。
従業員エンゲージメントには、学術的研究や実務的調査を元にしたものなどさまざまな指標が存在します。また、測定方法についても複数の手法があるため、調査の実施にあたり、どのような手法を採用すべきかお悩みのご担当者も多いと思います。
この記事では従業員エンゲージメントの指標と測定方法について、関連する要素もまじえて詳しく解説します。
【本記事で得られる情報】
・従業員エンゲージメントの概要
・従業員エンゲージメント向上で得られる5つのメリット
・従業員エンゲージメントの指標
・従業員エンゲージメントに関連する要素
・従業員エンゲージメントの測定方法
・継続的な従業員エンゲージメントサーベイの必要性
目次
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、従業員が感じている会社への愛着や信頼感です。また、仕事に対してどの程度積極的に関わろうとしているかを測る指標とも言われています。
リアルワンでは、エンゲージメントを「1.思考面、2.情緒面、3.行動面の3つの側面において、自己が仕事に対し積極的に関与している状態」と定義しています。
エンゲージメントの高い従業員は、「頭も、心も、体も」、仕事に対して積極的(ポジティブ)に関わり、仕事で高い成果やパフォーマンスを上げるとともに、周囲に良い影響を与えるなど、企業や組織に大きく貢献します。
従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
従業員エンゲージメントは、従業員が感じている会社や組織への結びつきや仕事に対する積極的な関与の度合いです。一方、従業員満足度は、従業員の職場環境や仕事に対する満足度を対象とします。
アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグは「二要因理論」を提唱しました。この「二要因理論」によれば、モチベーションに影響を及ぼす要因には、動機づけ要因と衛生要因があります。
動機づけ要因には、仕事の達成感、責任範囲の拡大、能力向上や自己成長、チャレンジングな仕事などが挙げられます。 衛生要因には、会社の方針、管理方法、労働環境、作業条件(金銭・時間・身分)などが挙げられます。
従業員満足度は、この二要因に影響を受けています。この二要因に加えて、従業員エンゲージメントでは、仕事に取り組む際の「思考面・情緒面・行動面」における「集中度・情熱度・積極性」を評価します。
また、従業員満足度は従業員が会社に対して抱いている満足度であり、一方向の感情です。それに対して従業員エンゲージメントは従業員と組織の結びつきであり、双方向性がある点にも違いがあります。
関連記事:従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイの違い~実施内容を比較
日本の従業員エンゲージメントが低い理由
アメリカの調査会社であるギャラップの「グローバル職場環境調査」によれば、2022年度調査において日本の職場で「エンゲージしている(貢献意欲がある)」従業員は5%で、4年連続で過去最低を記録しています。この数字はグローバルの職場の平均値である23%を18ポイント下回り、OECD加盟国平均の20%を15ポイント下回っています。
さらに、ギャラップが日本向けにまとめたレポート「2023年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状」では、現状の日本の従業員に関する以下の記述があります。
「日本の従業員のほとんど(72%)がエンゲージしていません。これらの従業員はただ職場にいて、時計をみつめて終業時間が来るのを待っています。彼らは必要最低限の努力しかせず、会社との心理的つながりが断ち切られています。生産性は最低限で喪失感が強く、職場から分断されていると感じているため、『エンゲージしている従業員』と比べて、より強くストレスや燃え尽きを感じやすいです。」
2023年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状
これを踏まえてギャラップは、経済が停滞している日本の現状を打破するためにも、リーダーやマネジャーがエンゲージメント向上に取り組むことが必要と述べています。リーダーやマネジャーが従業員と対話し、励まし、鼓舞することが生産的な従業員への変化を促すとしています。
従業員エンゲージメント向上で得られる5つのメリット
次に、従業員エンゲージメントを向上させることによって得られる5つのメリットについて解説します。
離職率の低下に繋がる
労働人口の減少に加え、働き方やライフスタイル、価値観の多様化が進む中で、人材の流動化がいっそう激しくなっています。連動して採用コストも高騰しており、離職防止の施策は企業にとって見過ごせない課題です。
従業員エンゲージメントの向上により、従業員と会社のあいだに信頼関係が形成され、従業員の貢献意欲が高まることで定着率が向上します。
また、現在働いている従業員から支持される会社は、外部の人材も集めやすくなるため、採用コストを抑えながら優秀な人材を確保することにも繋がります。
労働生産性が向上する
厚生労働省の調査によれば、労働生産性とエンゲージメントの関連性が示唆されています。
具体的には、コントロール変数を考慮に入れた上での分析結果として、ワーク・エンゲージメント・スコアと労働生産性には、統計的有意に正の相関があることが確認されているのです。
そして、1単位のワーク・エンゲージメントのスコアの上昇は、企業の労働生産性を1〜2%程度、上昇させる可能性があることが報告されています。
商品・サービスの品質が向上する
エンゲージメントの高い状態にある従業員は、仕事への態度・認知が肯定的であり、高い活動水準であるため優れたパフォーマンスを発揮します。
自社と強い結びつきを実感している従業員は、自社の商品・サービスにも興味関心を持ち、その品質を向上させるとともに、問題を未然に防止するようなポジティブな働きかけを自発的に行います。
顧客満足度が高まる
会社や組織への貢献意欲が高い従業員は、自社の商品・サービスへの理解や知識が蓄積されます。そうした知識に基づいて顧客に対して接客や提案活動を行うため、高い成果が期待できます。
その結果、顧客から信頼を獲得することができ、継続的な顧客満足度の向上にも繋がります。
職場環境が改善する
エンゲージメントの高い従業員は、職場内に前向きでポジティブな雰囲気を生み出します。会社や組織をより良くしたいという意欲があるため、職場の課題を発見するとともにその改善にも取り組みます。
そうした前向きな行動は、周囲とのチームワークを機能させ、課題改善の具体的なアイデアを創出します。
こうした活動が仕事の在り方や職場環境の改善をもたらし、更にエンゲージメントを向上させる好循環を生み出します。
従業員エンゲージメントの指標
従業員エンゲージメントの指標については、学術的研究や民間の調査会社が作成したものなど、複数の指標が存在します。ここではリアルワンが定義する指標のほか、代表的な指標についても紹介します。
リアルワンの定義と指標
リアルワンでは学術的研究を踏まえて、従業員エンゲージメントを「1.思考面、2.情緒面、3.行動面の3つの側面において、自己が仕事に対し積極的に関与している状態」と定義しています。
従業員エンゲージメントを数値として可視化するためのエンゲージメント調査においては、3つの側面を以下の観点から測定します。
思考面 | 従業員本人が、自身の仕事に対して、よく考え集中している度合いを測定します。 |
情緒面 | 従業員本人が、仕事を楽しいと感じ、熱意を覚える度合いを測定します。 |
行動面 | 従業員本人が、自らの行動として積極的に仕事に従事している度合いを測定します。 |
従業員エンゲージメント指標(指数)
人事・HR領域でよく用いられる従業員エンゲージメント指標(指数)は、「従業員と会社との結びつき(エンゲージメント)を数値化したもの」と定義づけられています。
従業員の会社への「熱意」「信頼度」「愛着度」を指標化するもので、具体的には大きく3つの指標に分類されます。
エンゲージメント総合指標は、従業員の会社に対する印象や満足度などの総合的な指標です。
ワークエンゲージメント指標は、従業員が仕事に対して「どの程度、積極的に関わろうとしているか」を数値化した指標です。
エンゲージメントドライバー指標は、エンゲージメントを高める要因を、以下の3つの項目(ドライバー)によって測定した指標です。
組織ドライバー | 職場環境や職場の雰囲気人間関係やコミュニケーション |
職務ドライバー | 仕事内容や職務の満足度仕事の難易度 |
個人ドライバー | 個人能力の業務への影響度合い |
UWES(ユトレヒトワークエンゲージメント尺度)
ワーク・エンゲージメントの測定にあたって、世界で最も広く普及し、活用されているのがUWESです。「活力」「熱意」「没頭」という3つのカテゴリーがあり、その下位因子を17項目の質問で測定します。
UWESの回答結果の数値が高いほど、「仕事に積極的に向かい活力を得ている状態」であることを示します。
17項目で測定する通常版のほか、各因子を3項目ずつ、合計9項目の質問で測定できる短縮版や、合計3項目の質問で測定できる超短縮版も開発されています。
新職業性ストレス簡易調査票(New BJSQ)
日本のストレスチェックでは「職業性ストレス簡易調査票(57問式)」が広く普及しています。この調査票は「心身の健康」「ストレス反応」といった仕事の質や量、対人関係といった「仕事の負担」が心身の健康に及ぼす影響や職場などのサポート状況を測定対象としています。
「新職業性ストレス簡易調査票(New BJSQ)」はその新版であり、従来の測定対象に加え、「ワークエンゲージメント」「職場の一体感」「職場のハラスメント」という3つの有効なアウトカム(結果指標)を測定することができます。
従業員エンゲージメントに関連する要素
次に、従業員エンゲージメントの向上に関連する3つの要素について解説します。
やりがいの実感
やりがいは、仕事における努力や工夫が成果として結びつき、能力の向上や自己成長の実感によって得られます。
やりがいの実感は、報酬といった金銭的な評価のほか、上司や同僚からの承認や賞賛などからも得られるものです。
やりがいを感じるためには、適切な目標設定も重要です。現実的ではない高い目標に対してはモチベーションが持続できないからです。そのため、達成可能な目標を設定するとともに、「仕事が進んでいる」という進捗の実感が得られる工夫が求められます。
また、一定の裁量が与えられていることも重要です。自身の判断の結果が成果に結びつくことで強いやりがいを感じられるからです。
働きやすさ
働きやすさは、快適な職場環境や人間関係、公平で透明性のある人事評価制度が大きく影響します。また、労働時間や勤務形態といった労働条件も含まれます。
近年では、エンゲージメントを高めるために働きやすさの観点から設備投資や制度変更を行う事例が多く見られます。例えば、職場環境の改善を目的としたオフィスの移転・改修や、最新のデジタルツールを導入して業務の利便性を高めるような取り組みが挙げられます。
また、コロナ禍をきっかけに、リモートワークでの勤務も普及しましたが、近年ではリモートワークとオフィスワークを併用した「ハイブリッドワーク」を採用する会社も増えています。ハイブリッドワークは、パフォーマンスを最大化できる働き方を従業員自身が選択する自律的な勤務形態であり、働きやすさに繋がります。
ビジョンへの共感
会社の掲げる中長期的なビジョンに共感し、働くことに意義を見出せると、従業員エンゲージメントが向上します。会社のビジョン実現のため、仕事を通じて貢献しようという意欲が芽生えるからです。
ビジョンへの共感を促すためには、企業のトップが直接従業員に向けて、みずからの言葉で発信することが重要です。また、社外のメディアを介してビジョンの浸透を図る施策もあります。
近年では、BtoB企業においてもメディアを活用して社名やビジョンを周知する事例が増えています。これは、人材確保の観点から自社の認知度向上を目的としていますが、同時に、自社の従業員に対してビジョンの浸透を図る狙いもあります。
従業員エンゲージメントの測定方法
従業員エンゲージメントの測定方法には大きく2つの手法があります。この2つは調査の頻度や質問項目の数、実施する目的などに違いがあります。
従業員エンゲージメントサーベイ
従業員エンゲージメントサーベイは1年に1回または複数年に1回など、実施の間隔を空けて行います。また一度で用意する質問項目は多いため、回答者にとっては負担が大きい調査ですが、その分、広い範囲で信頼性の高い情報を取得できます。
調査の対象範囲が広いため、質問項目の数はもちろん、記述内容にも注意が必要です。曖昧さを残した記述であると回答者は解釈に迷い、回答に要する時間も長くなります。また、回答の質も落ちてしまうデメリットがあります。
ほかにも、エンゲージメントサーベイは従業員の繁忙期での実施を避けることや、誰が回答したのかを特定できないようにするなど、個人情報保護の観点からも配慮が必要です。
さらに、エンゲージメントサーベイは一度実施して終わりではなく、得られたデータを元に課題を特定し、改善の施策やアクションプランに落とし込むことが重要です。それらの施策やアクションプランを実践した結果の効果測定のためにも継続的な実施が前提となります。
エンゲージメントサーベイ導入の流れやポイントは以下の記事でも解説していますので、ご覧ください。
関連記事:エンゲージメントサーベイ(エンゲージメント調査)とは
従業員パルスサーベイ
パルスサーベイも、従業員エンゲージメントを測定する手法の1つです。
パルス(pulse)とは、日本語で「脈拍」を意味します。パルスサーベイは、脈拍チェックのように短いスパンで質問することにより、従業員の状態をリアルタイムで測定します。
具体的には、週次や月次といったスパンで少ない質問を繰り返します。短い間隔で行うことにより、従業員のコンディションや感情の変化と傾向を把握します。
ただし、パルスサーベイはあくまで現状把握の手法であり、会社や組織の強みや課題といった今後に役立つ情報までは知り得ない点には留意が必要です。深掘りするためには質問数を増やす必要がありますが、それは関係者の負荷の増大に繋がります。
したがって、パルスサーベイは組織が崩壊の局面にある、または会社が大きな再編やM&Aの渦中にあるなど、特殊な事情がある場合に限って実施することが望ましいと言えます。
時代とともに変化する従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメント向上のためには調査に基づいて立案した施策の継続的な実践が重要になります。しかしながら、施策は一度決めたものに固執してはならず、定期的なアップデートも必要です。その理由についても解説します。
従業員を取り巻く社会環境の変化
従業員エンゲージメントは、会社に対する従業員の感情や「感じ方」という主観的なものです。その従業員の考え方は、職場環境や仕事の内容だけではなく、会社を取り巻く社会環境にも影響を受けます。
例えば、昨今の非正規雇用の増加など会社と労働者の関係性の変化が挙げられます。また、ワーク・ライフ・バランスの重要性の高まりや女性活躍推進に伴う育児休暇の奨励など、社会環境は動的に変化しています。
こうした社会環境の変化に従業員エンゲージメントは影響を受ける点に留意が必要です。
所属する業界動向の変化
会社が属する業界動向の変化も従業員エンゲージメントに影響します。例えば、技術革新によって事業の見直しを迫られるケースがあります。また、業界内の企業間の再編や統廃合などが活発化するなど、従業員は否応なく変化を強いられる場合もあり得ます。
業績の悪化や企業同士の吸収合併、統廃合の発生は、従業員に心理的負荷を与えます。こうした状況下では、エンゲージメントの低下が予想されるため、改善施策の変更や優先順位の見直しが必要になるでしょう。
継続的なエンゲージメントサーベイの必要性
現代は先行きの不透明で将来予測が困難なVUCA(ブーカ)の時代と言われています。そうした環境下で社会環境や業界動向は激しく変化しています。
その影響によって従業員の意識や感じ方は変化し続けます。そうした変化の兆候を見逃さないように、定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、調査結果を適切かつ精緻に分析して、改善施策を立案またはアップデートすることが求められます。
まとめ。継続的なエンゲージメントサーベイによる施策のアップデートが必要不可欠
労働人口の減少や人材の流動性の高まりに加え、人的資本経営の考え方の普及も後押しとなり、数多くの企業が従業員エンゲージメントを向上させる施策に取り組んでいます。
しかしながら、エンゲージメント向上のためには、指標の正しい理解や適切な測定方法の選択が必要です。そのため、この記事では、従業員エンゲージメントに関する指標や測定方法、関連する要素までを詳しく解説しました。
なお、従業員エンゲージメントサーベイは測定して終わりではなく、そこから得られたデータを精緻に分析し、改善の施策に繋げることが目的です。そして、改善施策は社会環境や業界動向の変化とともにアップデートが必要不可欠です。
最後に、リアルワン株式会社は、調査・評価の専門会社です。信頼性の担保された「エンゲージメント調査」で従業員の成長と組織の活性化をサポートします。「組織の今を可視化したい」とお考えの方は、ぜひリアルワン株式会社のエンゲージメント調査をご活用ください。