心理的安全性だけでは組織は変わらない

組織調査を「対話」と「行動」につなげるために

シリーズ|Leadership Development研究から学ぶ、人と組織がともに成長する組織づくり

本シリーズの第1回では、リーダー個人を育てることと、組織全体のリーダーシップを育てることは同じではないと説明しました。

第2回では、従業員満足度調査やエンゲージメント調査などの組織調査は、組織を直接変える施策ではなく、職場の状態を把握し、対話と改善を始めるための出発点であることを取り上げました。

では、調査結果を職場へ共有すれば、メンバーは率直に話し合えるのでしょうか。

例えば、「上司支援」の評価が低かった職場で、部下は上司本人を前にして、日頃感じている問題を具体的に話せるでしょうか。

「部署内の連携」の評価が低かったときに、メンバーは自分たちの関わり方にも課題があると認められるでしょうか。

管理職は、自分にとって耳の痛い意見を、反論せずに受け止められるでしょうか。

組織調査によって課題を見えるようにしても、その課題について率直に話せなければ、組織改善は進みません。

そこで重要になるのが、心理的安全性です。

心理的安全性は、単に「話しやすい職場」をつくるためのものではありません。

調査によって見えてきた問題を対話の場に上げ、異なる立場の人が意見を交わし、具体的な改善行動につなげるための土台です。

ただし、心理的安全性さえ高めれば、組織が自然に変わるわけではありません。

本記事では、心理的安全性と組織調査、組織開発の関係を整理したうえで、率直な対話を実際の行動につなげる方法を解説します。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

目次

この記事の要点

  • 心理的安全性は、組織調査の結果について率直に話し合うための土台である
  • 心理的安全性とは、仕事上の質問、意見、懸念、失敗などを伝えても大丈夫だと感じられる状態である
  • 仲がよいこと、厳しい指摘をしないこと、何でも許すこととは異なる
  • 心理的安全性は、情報共有や学習を促すが、それだけで組織の成果が生まれるわけではない
  • 組織改善につなげるには、目的の共有、具体的な行動、発言後の対応、組織からの支援、実行後の振り返りが必要である
  • 同じ考え方は、360度評価後のフィードバックや、リーダー個人の育成にも当てはまる

心理的安全性とは何か

心理的安全性の研究で広く知られているAmy C. Edmondson氏は、チームの心理的安全性を、このチームでは対人関係上のリスクを取っても大丈夫だという、メンバーに共有された認識として説明しています。

対人関係上のリスクとは、例えば次のような行動です。

  • 分からないことを質問する
  • 自分の間違いや失敗を認める
  • 問題や懸念を報告する
  • 周囲に助けを求める
  • 上司や多数意見と異なる考えを伝える
  • まだ完成していないアイデアを提案する
  • 現在の仕事の進め方に疑問を示す

こうした行動には、少なからず不安が伴います。

質問をすれば「能力が低いと思われるかもしれない」、反対意見を伝えれば「協調性がないと思われるかもしれない」、失敗を報告すれば「評価が下がるかもしれない」と考えるからです。

心理的安全性が低い職場では、問題に気づいていても黙る、分からなくても質問しない、失敗を隠すといった行動が起こりやすくなります。

心理的安全性が高い職場では、質問や意見、問題を伝えても、すぐに否定されたり、不利益を受けたりする可能性は低いと感じられます。

そのため、必要な情報が共有され、問題を早く発見し、チームで学びやすくなります。

なぜ組織調査に心理的安全性が必要なのか

組織調査を組織開発につなげる過程は、大きく三つの段階に分けられます。

  1. 従業員が調査に回答する
  2. 結果を職場で共有し、背景を話し合う
  3. 改善行動を実践し、振り返る

心理的安全性は、このすべての段階に関係します。

1.従業員が率直に回答するために必要になる

組織調査では、普段は表に出にくい従業員の認識を把握します。

しかし、回答者が次のように感じていたら、実態に近い回答を得ることは難しくなります。

低い評価をすると、自分だと特定されるのではないか。
上司について厳しく回答すると、不利益を受けるのではないか。
本当のことを書いても、どうせ何も変わらないのではないか。

匿名で実施する調査であっても、回答者が「自分だと分かるかもしれない」と不安を感じていれば、無難な回答に偏る可能性があります。

特に回答者の少ない部署や、自由記述を設ける場合には、匿名性への不安が生じやすくなります。

また、過去の調査で何も改善されなかった経験があれば、「率直に答えても意味がない」と感じるかもしれません。

そのため、人事は調査の前に、少なくとも次の点を説明する必要があります。

  • 調査を行う目的
  • 回答がどのように集計されるか
  • 個人が特定されないためのルール
  • 誰が結果を閲覧するか
  • 調査結果を何に活用するか
  • 調査後にどのような対応を予定しているか

心理的安全性は、職場での会話だけに関係するものではありません。

従業員が組織を信頼し、率直に回答できるかどうかにも関係します。

2.結果の背景を話し合うために必要になる

組織調査の数値だけでは、課題の原因までは分かりません。

例えば、ある部署で「上司支援」の評価が低かったとします。

その背景には、さまざまな可能性があります。

  • 管理職が忙しく、相談する時間を確保できていない
  • メンバーが助けを求めても、具体的な支援が得られない
  • 管理職は支援しているつもりだが、部下の期待とずれている
  • 一部のメンバーに支援が偏っている
  • 管理職自身が、上位者から必要な支援を受けていない

どれが当てはまるかは、数値だけでは判断できません。

職場での対話を通じて、具体的な出来事や経験を確認する必要があります。

しかし、管理職が結果を見て、

私は十分に支援していると思いますが、なぜこのような結果になったのでしょうか。

と不満そうに尋ねれば、メンバーは率直に話しにくくなります。

反対に、

私には見えていなかったことがあると思います。
どのような場面で、支援が不足していると感じましたか。

と問いかけ、出された意見をすぐに否定せずに聞けば、結果の背景を確認しやすくなります。

Huebner・Zacher(2021)が従業員調査後の取り組みに関する研究を整理した結果からも、調査を組織改善につなげるには、管理職とメンバーが結果について話し合い、行動計画を立て、実行する過程が重要だと考えられます。

心理的安全性は、この対話を成立させるための条件です。

3.新しい行動を試し、失敗から学ぶために必要になる

調査結果について率直に話し合い、改善行動を決めても、それだけでは組織は変わりません。

実際に新しい行動を試す必要があります。

例えば、次のような取り組みです。

  • 会議の進め方を変える
  • 管理職が部下と話す時間を増やす
  • 部署内の役割分担を見直す
  • 仕事上の困りごとを共有する時間をつくる
  • 他部署との情報交換の方法を変える

新しい行動が、最初からうまくいくとは限りません。

試してみたものの、思ったほど効果がなかったり、別の問題が生じたりすることもあります。

そこで失敗を責められると感じれば、メンバーは新しい方法を試さなくなります。

また、うまくいかなかったことを隠すようになれば、改善のための情報も得られません。

心理的安全性が必要なのは、意見を出すときだけではありません。

新しい行動を試し、結果を率直に振り返り、次の改善につなげるためにも必要です。

研究が示すのは「心理的安全性が学習を支える」ということ

Edmondson(1999)は、製造業の51チームを対象とした研究で、心理的安全性とチームの学習行動、成果との関係を調べました。

その結果、心理的安全性の高いチームほど、情報を共有する、助けを求める、失敗について話し合う、試行錯誤するといった学習行動が行われやすいことが示されました。

重要なのは、心理的安全性が直接成果を生み出すというよりも、心理的安全性が学習行動を促し、その学習行動がチームの成果につながるという考え方です。

Frazierら(2017)は、136の調査結果、2万2,000人を超える個人と約5,000のチームに関する研究結果を統合しました。

その結果、心理的安全性は、情報共有、学習行動、仕事への積極的な関与、仕事の成果などと関係していることが確認されています。また、上司との良好な関係、同僚からの支援、組織からの支援なども、心理的安全性と関係していました。

Edmondson・Bransby(2023)が近年までの研究を整理した論文でも、心理的安全性は、仕事を進めること、学習行動、働く人の経験、リーダーシップという複数の領域に関係し、変化が大きく、複数の人が協力する仕事において特に重要だと説明されています。

これらの研究から、心理的安全性が組織の学習や改善にとって重要であることは、広く支持されています。

一方で、心理的安全性があれば、自動的に組織の成果が高まるという意味ではありません。

心理的安全性は「成果」ではなく「行動を可能にする条件」

心理的安全性の高い職場でも、メンバーが何も発言せず、仕事の進め方も変えなければ、組織は改善しません。

心理的安全性が組織改善につながる流れは、次のように整理できます。

率直に話せる
必要な情報や問題が共有される
課題の背景について対話する
改善行動を決める
新しい方法を試す
結果を振り返り、さらに改善する

心理的安全性は、この流れを可能にする重要な条件です。

しかし、土台があるだけで、組織改善が自動的に進むわけではありません。

心理的安全性を、次の要素と組み合わせる必要があります。

必要な要素内容
目的何のために対話し、何を改善するのか
目標や基準どのような状態を目指すのか
行動誰が、いつ、何を実行するのか
支援時間、人員、情報、権限が用意されているか
責任決めた行動の進捗を誰が確認するのか
振り返り実行して何が変わったかを確認する機会があるか

心理的安全性は、組織改善の目的そのものではありません。

目的に向かって意見を出し、協力し、試行錯誤するための基盤です。

心理的安全性は「何でも許される状態」ではない

心理的安全性という言葉が広がる一方で、その意味が誤解されることもあります。

仲がよいこととは違う

表面的には穏やかで、対立が少ない職場でも、メンバーが反対意見を控えている可能性があります。

心理的安全性が高い職場とは、意見の違いがない職場ではありません。

必要な意見の違いを、関係を壊さずに扱える職場です。

厳しい指摘をしてはいけないわけではない

心理的安全性は、改善点を指摘しないことではありません。

人格を否定せず、仕事や行動について具体的に話し合うことが重要です。

例えば、

どうして、こんなこともできないのですか。

と責めるのではなく、

今回は、確認の段階で問題を見つけられませんでした。次回は、どのような確認を加えれば防げるでしょうか。

と、改善に向けて話し合います。

すべての意見を採用することではない

メンバーの意見をすべて採用する必要はありません。

経営上の判断や、ほかの部署への影響を考えた結果、採用できない意見もあります。

重要なのは、意見を無視せず、検討した結果と理由を伝えることです。

責任を問わないことではない

心理的安全性は、失敗や規則違反を無条件に許すことでもありません。

問題が起きたときは、事実と原因を確認し、必要な責任を明らかにし、再発を防ぐ必要があります。

ただし、問題を早く報告した人を一方的に責めれば、次から問題が隠されるようになります。

問題を起こしたことと、問題を報告したことは分けて考える必要があります。

心理的安全性だけでは組織が変わらない5つの理由

1.何について話せばよいか分からない

管理職が「何でも自由に話してください」と伝えても、メンバーは何を求められているのか分からないことがあります。

例えば、次のように目的を具体的にします。

  • 顧客に影響する問題を早く報告してほしい
  • 現在の仕事の進め方で負担になっていることを共有してほしい
  • 計画に無理があると感じたら、実行前に伝えてほしい
  • 業務を改善するための提案を出してほしい

調査結果について話し合う場合も、「感想を教えてください」だけでなく、具体的な問いを用意します。

この結果を見て、思い当たる場面はありますか。
うまくいっていることは何でしょうか。
特に改善したいことは何でしょうか。
自分たちで変えられることはありますか。

2.発言しても、何も起きない

メンバーが問題を伝えても、管理職や人事が聞くだけで何も対応しなければ、次第に発言しなくなります。

すべての意見を採用する必要はありません。

ただし、発言に対して、

  • 何を確認するのか
  • 何を変えるのか
  • 今回はなぜ変えないのか
  • いつまでに返答するのか

を伝える必要があります。

「意見を言えること」に加えて、意見を言った後に何が起きるかが重要です。

3.上司が答えを決めた状態で意見を求めている

管理職が「どう思いますか」と尋ねても、すでに答えが決まっていることが伝われば、メンバーは意見を言わなくなります。

また、意見を求めた直後に、

でも、それは現実的ではありません。
以前も試しましたが、うまくいきませんでした。

と反論すれば、次の意見は出にくくなります。

まずは、内容を理解するために質問します。

どのような場面で、そう感じましたか。
もう少し具体的に教えてもらえますか。
その問題を放置すると、何が起こりそうですか。
ほかの方は、どのように感じていますか。

意見に賛成することと、意見を理解しようとすることは別です。

4.話し合うだけで、行動を決めていない

さまざまな意見が出ても、話し合いだけで終われば、職場は変わりません。

対話の最後には、少なくとも次の点を確認します。

  • 今回分かったこと
  • 優先して取り組む課題
  • 具体的に試す行動
  • 担当する人
  • 実行する時期
  • 振り返る時期

大きな制度変更ができなくても、職場で試せる小さな行動を決めます。

「率直に話せてよかった」で終わらせず、対話を行動につなげることが必要です。

5.現場だけでは解決できない問題を放置している

調査結果について話し合うと、現場の管理職やメンバーだけでは解決できない問題が見つかることがあります。

  • 人員や時間が不足している
  • 業務量が過大である
  • 評価制度と求める行動が一致していない
  • 部署ごとの目標が対立している
  • 経営方針が明確に示されていない
  • 組織構造や権限に問題がある

メンバーが率直に問題を伝えても、人事や経営が何も対応しなければ、次第に「話しても意味がない」と感じるようになります。

心理的安全性を保つためにも、現場で改善できる課題と、人事や経営が引き取る課題を分ける必要があります。

組織調査を対話と行動につなげる5つの実践

実践1.調査の前に、調査後の流れまで説明する

調査を実施する前に、目的だけでなく、結果をどのように共有し、改善につなげるかを説明します。

結果は全社と部署単位で集計します。
部署ごとに結果を共有し、強みと課題について話し合います。
現場で改善できない問題は、人事や経営でも検討します。

調査後の見通しが分かることで、従業員は回答の意味を理解しやすくなります。

実践2.数値を管理職の成績表にしない

調査結果を、管理職のよし悪しを判定する成績表として扱うと、管理職は防御的になります。

低い数値を責められると感じれば、結果の背景を率直に話し合うことも難しくなります。

数値は、管理職を評価する結論ではなく、職場の状態を理解するための仮説として扱います。

実践3.管理職が、自分にも見えていないことがあると認める

管理職が常に正しい答えを持っているように振る舞うと、異なる意見は出にくくなります。

結果を共有するときには、例えば次のように伝えます。

この結果には、私には見えていなかったことも表れていると思います。
皆さんが日頃感じていることを、できるだけ具体的に教えてください。
すぐに答えを出せないこともありますが、まずは理解したいと思います。

管理職が自分の不完全さを認めることは、責任を放棄することではありません。

メンバーの情報や協力が必要であることを示す行動です。

実践4.発言しやすい仕組みをつくる

「自由に発言してください」と呼びかけるだけでは、一部の人しか話さないことがあります。

  • 会議前に意見を書く時間を設ける
  • 全員から順番に意見を聞く
  • 少人数に分かれて話す
  • 匿名で意見を集める
  • 上位者は最後に意見を述べる
  • 外部または他部署の進行役を置く

など、発言しやすい方法を整えます。

心理的安全性を、個人の勇気だけに頼らないことが重要です。

実践5.小さく行動し、対応状況を返す

話し合った後は、すぐに試せる行動を決めます。

  • 週に一度、困りごとを確認する
  • 会議前に資料を共有する
  • 管理職が意見を述べる前に、メンバーへ質問する
  • ミスや手戻りを、責任追及だけでなく再発防止の視点で振り返る

また、対話後には、次のように対応状況を伝えます。

  • すぐに実施すること
  • 継続して検討すること
  • 人事や経営へ伝えること
  • 現時点では対応しないことと、その理由

「意見を伝えた結果、実際に何かが変わった」という経験が、次の対話や協力につながります。

同じ考え方は、人材開発や360度評価にも当てはまる

本記事では、組織調査と組織開発を中心に心理的安全性を考えてきました。

ただし、同じ考え方は、リーダー個人の育成や360度評価にも当てはまります。

人が成長するためには、次のような行動が必要です。

  • 自分の弱みを認める
  • 分からないことを質問する
  • 他者からフィードバックを受ける
  • 助けや助言を求める
  • 慣れていない行動を試す
  • 失敗した経験を振り返る

これらは、すべて対人関係上の不安を伴う行動です。

360度評価で、自分の認識と周囲の評価に違いがあったとき、本人が「弱みを見せると不利になる」と感じていれば、結果を防御的に受け止めやすくなります。

反対に、評価結果を成長の材料として扱い、上司や周囲から支援を得られる環境であれば、本人は自分の課題に向き合い、新しい行動を試しやすくなります。

つまり、心理的安全性は、組織開発だけでなく、個人の学習や行動変容にも関係します。

リアルワンが、心理的安全性を単独で考えない理由

リアルワンでは、心理的安全性を、単独で高めることだけを目的とした指標とは考えていません。

心理的安全性は、組織調査によって見えてきた課題を、率直な対話、学習、協働、具体的な行動へつなげるための重要な土台です。

一方で、心理的安全性だけでは、組織の状態を十分に説明できません。

安心して意見を言える職場であっても、組織の方針が不明確であれば、進む方向を決められません。

メンバー同士の関係がよくても、役割や責任が曖昧であれば、仕事の抜け漏れが起こります。

率直に問題を報告できても、意思決定や情報共有の仕組みが整っていなければ、同じ問題が繰り返されます。

組織をよりよくするには、心理的安全性に加えて、次のような状態も確認する必要があります。

  • 組織の方針や目的が共有されているか
  • 役割や責任が明確になっているか
  • 上司から必要な支援を受けられるか
  • 部署内外で協力できているか
  • 必要な情報が共有されているか
  • 意見や提案が意思決定に生かされているか
  • 改善を実行できる時間や資源があるか

私たちが目指しているのは、単に「安心して話せる組織」をつくることではありません。

組織調査によって見えてきた課題について率直に話し、互いに学び、具体的な改善を続けられる組織をつくることです。

まとめ:心理的安全性は、測定と組織改善をつなぐ

第2回では、組織調査は、組織改善の答えではなく、対話と行動を始めるための出発点であると説明しました。

今回取り上げた心理的安全性は、その出発点から実際の組織改善へ進むための重要な条件です。

組織調査で、職場の状態を見えるようにする
心理的安全性のある場で、結果の背景を率直に話し合う
優先して取り組む課題を決める
新しい行動を試す
結果を振り返り、さらに改善する

心理的安全性は、組織改善の成果そのものではありません。

しかし、心理的安全性がなければ、調査で見えてきた課題を率直に扱い、行動や学習につなげることは難しくなります。

自社では、組織調査の結果について、メンバーが率直に話せる場を設けているでしょうか。

管理職は、自分にとって耳の痛い意見にも向き合えているでしょうか。

現場から出された課題に対して、人事や経営は対応状況を伝えているでしょうか。

必要なのは、単に話しやすい職場ではありません。

組織の課題について率直に話し、協力して行動し、その結果から学べる職場です。

よくある質問

心理的安全性は、組織調査になぜ必要ですか

従業員が率直に回答し、調査結果の背景について職場で話し合うためです。また、話し合いで決めた新しい行動を試し、うまくいかなかった場合にも率直に振り返るために必要です。

心理的安全性が高ければ、組織は改善しますか

心理的安全性は重要な土台ですが、それだけで組織が改善するわけではありません。明確な目的、具体的な行動、組織からの支援、責任の明確化、実行後の振り返りと組み合わせる必要があります。

心理的安全性と、仲のよい職場は同じですか

同じではありません。心理的安全性が高い職場では、必要な反対意見や耳の痛い内容も、相手を尊重しながら話し合えます。表面的に対立がないことより、重要な問題を率直に扱えることが大切です。

管理職は、調査結果の対話で何に注意すべきですか

数値を管理職自身の成績表として受け止めず、職場を理解するための手がかりとして扱います。意見をすぐに否定せず、具体的な場面を尋ね、話し合った後には小さくても改善行動を決めます。

心理的安全性が低い職場でも、結果を共有すべきですか

共有を避けるのではなく、進め方を慎重に設計する必要があります。少人数で話す、匿名で意見を集める、第三者の進行役を置く、管理職が最初に反論しないことを約束するなど、発言しやすい方法を用います。

心理的安全性は、360度評価にも関係しますか

関係します。周囲が率直に評価し、本人が耳の痛い結果を受け止め、新しい行動を試すためにも心理的安全性が必要です。

参考文献

  • Edmondson, A. C.(1999)“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams.” Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. DOI: 10.2307/2666999
  • Frazier, M. L., Fainshmidt, S., Klinger, R. L., Pezeshkan, A., & Vracheva, V.(2017)“Psychological Safety: A Meta-Analytic Review and Extension.” Personnel Psychology, 70(1), 113–165. DOI: 10.1111/peps.12183
  • Huebner, L.-A., & Zacher, H.(2021)“Following Up on Employee Surveys: A Conceptual Framework and Systematic Review.” Frontiers in Psychology, 12, 801073. DOI: 10.3389/fpsyg.2021.801073
  • Edmondson, A. C., & Bransby, D. P.(2023)“Psychological Safety Comes of Age: Observed Themes in an Established Literature.” Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 10, 55–78. DOI: 10.1146/annurev-orgpsych-120920-055217

次回予告

次回は、これまで個別に取り上げてきた360度評価と組織調査を、どのように組み合わせればよいのかを考えます。

360度評価は管理職を育てる。組織調査は組織を育てる。――二つの視点を重ね、個人と組織をともに変える

管理職個人の行動と、その行動を支えたり妨げたりする職場環境を、両方の結果から捉える方法を解説します。