人材の流動性が高まるとともに、将来的な労働人口の減少が懸念されることから、多くの企業で見直されてきているのが従業員エンゲージメントです。
従業員エンゲージメントの向上は、生産性の向上や離職率の低下といったメリットをもたらすと考えられていますが、そのためには具体的にどんなことを実施すれば良いのか、あまり知られていないのも事実です。
この記事では、そんな従業員エンゲージメントとは何か、具体的にどうやって高めれば良いのかについて、事例を交えながら解説します。
【本記事で得られる情報】
・従業員のエンゲージメントを高めるメリット
・従業員エンゲージメントの高め方
・従業員エンゲージメントを高めることに成功している事例
目次
エンゲージメントについて
エンゲージメントとは、思考面、情緒面、行動面の3つの側面において、従業員本人が仕事に対し積極的に関与できているかの指標です。
エンゲージメントが高ければ高いほど意欲的に就労しているということになりますし、エンゲージメントが低いとそうではなく、無気力な状態かストレスを抱えている状態ということになります。
エンゲージメントは通常目に見えるものではなく、従業員の心の動きであるため、捉えることは難しいものですが、これを可視化するために実施するのがエンゲージメントサーベイです。
個々人のエンゲージメントを推量するための質問事項を用意し、その回答結果からエンゲージメント状態をスコアにすることができるという仕組みです。
従業員のエンゲージメントを高めるメリット・目的
従業員のエンゲージメントを高めることで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。エンゲージメント改善を求めている場合、目的として設定すべきは以下のようの強みを獲得することです。
生産性向上につながる
エンゲージメントの改善は、まず生産性向上において非常に効果的とされています。エンゲージメントが高まれば高まるほど、日々の業務に対して意欲的にこなせるため、素早く作業を終えていくことができるからです。
また、エンゲージメントが高いと従業員間のコミュニケーションが活性化し、日々の業務における情報共有のスピードが高まったり、問題解決に向けた意欲的なソリューションの議論も活発になったりします。
事業を効果的に成長へ導く上では、従業員エンゲージメントの改善は欠かせない取り組みとなるでしょう。
離職率の低下に役立つ
離職率の低下を目指す場合にも、エンゲージメントの向上が役に立ちます。エンゲージメントが高いということは、それだけ今の仕事にやりがいを感じており、退職や転職のメリットが小さくなっているからです。
労働人口の減少の懸念があることや、人材サービスの活性化によって人材の流動性が高まったことにより、今後人材を確保したり繋ぎ止めておくことのコストはますます大きくなると言われています。
エンゲージメントを改善し働きがいのある職場や人間関係を構築することで、人手不足や人件費の高騰に悩まされるリスクを低減できます。
エンゲージメント向上施策に必要な準備・心構え
エンゲージメント向上のための施策には多様なアプローチが挙げられますが、ポイントとして押さえておきたい心構えは以下の通りです。
エンゲージメントの重要性の共有
まず必要なのは、エンゲージメントの重要性を社内で十分に共有することです。エンゲージメントは売り上げとは異なり目に見えにくい指標であるため、その重要性は後回しにされてしまいがちです。
まずはエンゲージメントに対するマインドセットから見直しを進め、エンゲージメント改善に意欲的な組織づくりを進めましょう。
現状課題の把握
エンゲージメントを改善するためには、自社のエンゲージメントの現状を理解することも求められます。エンゲージメントサーベイを実施して、どんな問題があるのか、何から課題を解決していけば良いのか、考えましょう。
PDCAサイクルの構築
エンゲージメント改善は長期的な取り組みとなりやすく、散発的に施策を実施しても効果は出にくいものです。
改善施策の検討と実行、そして実行結果の分析と分析結果に基づくさらなる改善ポイントの発見という、質の高いPDCAサイクルを構築することが求められます。
エンゲージメント向上の主な施策
従業員のエンゲージメント向上に最適な方法はケースバイケースですが、多くの場合、以下のような施策の実施が一定の成果をもたらすと期待されています。
定期的なエンゲージメントサーベイ
エンゲージメント向上において大事なのは、定期的にサーベイを実施してエンゲージメントの現状を把握することです。
エンゲージメントの高い低いを知ることはもちろん、何がエンゲージメント向上を阻害しているのかを、適宜知ることが最適な施策の実施につながるからです。
エンゲージメント課題は会社の状況に応じて変化しやすいので、その変化を素早く捉えることが高いエンゲージメントを維持するポイントと言えます。
社内コミュニケーションの活性化
エンゲージメントの改善に効果的な施策として、コミュニケーションの活性化が挙げられます。
同僚や上司、経営者とのコミュニケーション機会やそのあり方を見直すことで、ビジョンへの共感や働きがいの創出に繋がります。1on1ミーティングの機会を増やしたり、社内SNSを活用して情報共有のハードルを下げたりすることが、主な取り組みと言えるでしょう。
また、ビジョンを広く共有して共感を作っていくような取り組みも、社内コミュニケーションの活性化に貢献します。
働き方改革の推進
働き方改革を推進して、働きやすい環境を作ることもエンゲージメント向上に役立ちます。働き方改革は従業員満足度の向上の面で重要な役割を果たしますが、従業員に安心感を与え、選択肢を設けることも彼らの主体性を促す上では欠かせません。
リモートワークとオフィスワークを選べるようにしたり、福利厚生を充実させたりすることで、エンゲージメントを高めましょう。
人事評価の最適化
人事評価のあり方を見直すことは、エンゲージメント改善において必要な施策です。人事評価が現場の働き方に沿ったものでないと、従業員はやる気を失ったり、頑張り方が見出せず生産性がなかなか高まらなかったりという事態を招きかねません。
人事評価の最適化においては、新しい人事評価システムの導入などによって対処するのが有効です。一人一人の従業員情報を可視化し、エンゲージメントスコアの変遷を確認したり、個人の嗜好に合わせたチームづくりを進めたりすることで、高いモチベーションで業務に臨める環境を提供できます。
エンゲージメント向上につながる取り組み事例5選
ここでは、実際にエンゲージメント向上に向けて一般企業が取り組んでいる事例について、主なものをピックアップして紹介します。
株式会社LIFULL
不動産サービスを手掛ける株式会社LIFULLでは、従業員エンゲージメントの向上においてビジョンの共有がうまくいっていないという問題を抱えていました。メンバー間でのコミュニケーション不足が見られ、共通のビジョンの達成に向けた目標意識を持つことができないという課題です。
そこで同社が実施したのは、専用ツールを使った各従業員のモチベーションの可視化と、それに伴う提供価値の見直しです。社員と1on1ミーティングを実施し目標やコンセプトの共有を丁寧に行うなどの施策を実施した結果、ビジョンの浸透とビジョンに基づくチームワークの醸成が実現しました。
こういった現場における小さな改善の連続が功を奏し、同社では売上が昨年比で300%を達成、主体的な社員からの意見の発信やコミュニケーションの活性化を実現できています。
株式会社スマートエデュケーション
知育アプリを手掛ける株式会社スマートエデュケーションは、エンゲージメントの改善により個人主義とチーム主義の両立が実現した、魅力的な組織作りを達成しています。
同社では平均的な退職率をキープしたまま組織運営を続けられてきたものの、改善余地がまだあるのではないかという仮定をきっかけに、組織開発チームの発足が進みました。同チームが取り組んだのが従業員エンゲージメントの可視化、そして可視化された情報から改善施策を検討するというもので、組織開発における定量的な指標を設けることに成功しました。
結果、同社では毎期で目標のエンゲージメントスコアを設定し、その達成に向けた改善施策を適宜実施できる体制が整備できたということです。
SOMPOひまわり生命保険株式会社
保険会社のSOMPOひまわり生命保険会社では、人材管理システムの刷新により従業員に寄り添った評価制度の確立に成功しています。
大きな変化の一つとしてあげられるのが、1on1を実施した際の記録媒体の画一化です。せっかく時間をとって実施している1on1を一つのシステム上で記録・管理できるようになったことで、実施内容を従業員のパフォーマンス改善のために役立てることとなりました。
また、社員同士で人事管理システムを通じてお互いのプロフィールやパーソナリティをある程度共有し合うことが実現したおかげて、社内のコミュニケーションの活性化や、問題解決に向けた解決の糸口の探し方を開拓できるようにもなっています。
株式会社鴻池組
建設会社大手の株式会社鴻池組は、業界における従業員エンゲージメントナンバーワンを目指す施策に着手し、一定の成果を挙げています。
同社で課題となってきたのが、入社後に社員がミスマッチを感じ、早期に退職してしまう問題です。採用時に相性を上手に見極めることができなかったことも問題にあるかもしれませんが、同社では特に理念の共有が上手く浸透していないことを課題と感じていました。
そこで同社が取り組んだのは、従業員満足度ではなく従業員エンゲージメントのサーベイ実施です。会社への期待値の高さと、従業員が感じる実感値の間のギャップを調べることで、どんなところにギャップがあるのか、なぜギャップが生まれているのかを可視化し、質の高い改善施策の実施に繋げることができました。
結果、エンゲージメント改善施策の議論を建設的に進めることができるようになっただけでなく、経営層や現場へのフィードバックの具体性の高まり、中期経営目標におけるKPIの明確さの改善などが進んだということです。
株式会社フィッシングマックス
釣具ショップを多数経営している株式会社フィッシングマックスは、エンゲージメントサーベイの実施による可視化を実行し、効果的な組織課題の洗い出しを実現した会社です。
同社では調査の結果、企業風土のスコアには優れている一方、エンゲージメントにおいて平均を下回っていたという課題が浮き彫りになりました。
そこで同社は社員に対しての経営状態が業界の中でも優れた状態にあることを伝えるとともに、経営層と現場の間でのコミュニケーションを強化し、ビジョンへの共感や働きがいを促すよう改善を進めたということです。
結果、同社は劇的なエンゲージメントスコアの改善を実現し、高いモチベーションと安定した経営基盤を持つ、これといった弱点のない組織へと生まれ変わることができました。
エンゲージメント向上の取り組みを円滑に進めるポイント
上記のように、すでに多くの会社でエンゲージメント向上の施策は高い成果を収めているわけですが、エンゲージメント向上の取り組みを成功に導くためには、どのような点に気をつける必要があるのでしょうか。
ここでは、主なポイントとなる以下の3つを解説します。
従来の業務フローや慣習にとらわれない
まず、エンゲージメント向上においては従来の業務フローや会社の慣習にこだわりすぎないことが大切です。会社のミッションやビジョンに共感してもらうためには、確固たる軸があることは重要であるものの、変えられるところは変えてみるという柔軟性を持つことも求められます。
エンゲージメントの改善には業務フローの刷新なども発生するもので、施策を実施した直後は業務のパフォーマンスが下がってしまうことも珍しくありません。ただ、長期的に見ればそのような変化に伴うパフォーマンスの低下は一時的なもので、徐々に改善が進んでいくものです。
また、部門間や店舗間の縦割りなどのあり方にもメスを入れ、より横断的で活発なコミュニケーションが行われるような仕組みや文化を取り入れることも視野に入れましょう。
経営理念を見直す
ビジョンの共有がうまくいっていない場合、経営理念を一度見直してみるのも有効です。ビジョンが伝わらないのは、言い回しに共感性が生まれていない、実態と理想があまりに乖離しているなどの原因も考えられます。
やりたいこととやっていること、そして目指すべきことをすり合わせながら、共感性の高いコンセプトを再度検討してみましょう。
フィードバックを怠らない
エンゲージメント向上に向けた施策が実際に高いエンゲージメントや生産性をもたらせるようになるためには、施策に伴うフィードバックを確実に行うことが大切です。
エンゲージメント向上施策はどれくらい機能しているのか、KPIを達成できているのか、できていない場合はどんなところに改善点があるのかを把握し、改善のサイクルを回していきましょう。
まとめ
この記事では、従業員エンゲージメントとは何なのか、どうすればエンゲージメントは改善に向かうのかなどについて、実際の改善事例などと合わせて紹介しました。
エンゲージメントの改善は、従業員のモチベーションを高めて生産性向上に繋げるとともに、離職率を抑える上でも重要な役割を果たします。実際の成功事例を参考にしながら、まずは自社におけるエンゲージメント状況を可視化し、適切な改善施策を展開しましょう。
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エンゲージメントサーベイを実際に行う際のテンプレートもダウンロードが可能ですので、エンゲージメント向上にお悩みの際は、まずはそちらを参考にしてみてください。