キャリアプランを立て、必要な能力やスキルを経験を通じて身につけていくキャリア形成。働く環境の変化や、働き方の多様化に伴いキャリア形成はその重要性を増しています。同時に、変化のスピードが早く将来の予測が難しい時代にあって、社員と企業の関係性も様変わりしつつあります。このような変革期の中で、企業は社員のキャリア形成をどう考え、どうサポートすれば良いのか。本記事ではキャリア形成を深掘りすると共に、社員のキャリア形成に対する企業の向き合い方を解説します。
目次
キャリア形成とは

人生100年時代となり、ファーストキャリアはもちろん、セカンド・サードキャリアまで視野に入れたキャリア形成が必要な時代です。ここではキャリア形成を深掘りし、自律的かつ主体的なキャリア形成への変化とその支援について解説します。
キャリア形成の意味
キャリア形成とはどのような意味でしょうか。
キャリア形成
中長期的な職業設計(キャリアプラン)と人生設計(ライフプラン)を立て、「経験」を積みながら「能力」や「スキル」を身につけ、「なりたい自分」を実現するプロセスのこと。
言い換えれば、自分の立てた将来設計に沿って、職業経験を重ねながら働く能力を積み上げていくということ。
その先に、自己実現を目指すということです。
そもそも「キャリア」とは何か。厚生労働省の「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書では、キャリアを次のように定義しています。
キャリア
「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すもの。「職業生涯」や「職務経歴」などと訳される。
分かりやすく言うと、自分が歩んできた仕事人生で培った経験や、身につけてきたスキルのつながり(経歴)のことです。
キャリアという言葉は、ラテン語の「車道」に由来します。これは競技場などに残った「行路や足跡」のことで、そこから人の生涯や遍歴を意味するようになりました。今はそれに加えて、仕事の経歴のことを指すようになっています。
つまりキャリアとは、仕事だけではなく人生そのものを含む概念であり、キャリア形成とは仕事や人生に価値を見出し、主体的に自己実現していくための行動プロセスのことなのです。
キャリア形成に必要な能力
ここでは、キャリア形成に必要な4つの能力を解説します。
- 人間関係形成・社会形成能力=人や社会との関係を築く力
- 自己理解・自己管理能力=自分を肯定的に理解し律する、かつ成長する力
- 課題対応能力=課題を発見し解決する力
- キャリアプランニング能力=計画を立て実行する力
この4つの能力は、文部科学省の中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の中で、「基礎的・汎用的能力」として学校で「育成すべき力」とされています。
実はこの4つ、学校だけではなく社会人のキャリア形成においても必要不可欠な能力なのです。企業はこの4つの能力を柱に、キャリア形成支援の取組み方を考えていく必要があります。
自律的かつ主体的キャリア形成への変化とその支援
これまでの日本では、大企業を中心に社員のキャリアを年齢や入社年次によって一括りにするマネジメントを行ってきました。ジョブローテーションの名のもとに、様々な職種を経験させることが社員のキャリア形成とされたのです。社員にとってのキャリアは企業の中で出世することであり、自ら意識してキャリア形成に取組む必要はありませんでした。
しかし時代は大きく変化し、社員自らが自律的かつ主体的にキャリア形成に取組む時代となっています。そこには、働く側のキャリアに対する意識変化が大きくかかわっています。「昇進よりも能力を活かしたい。管理職よりもスペシャリストになりたい。能力を活かせるのなら今の会社に拘らない」といった、自分が持つ能力や専門性によりコミットメントするキャリア観への変化。そうです、「エンプロイアビリティ=雇用されうる能力」を高める意識が広がっているのです。
そのような中で企業のキャリア形成に対する考え方も、自律的かつ主体的に能力開発に取組む社員を支援する形に変わってきています。それはエンプロイアビリティの高い社員を育成できれば、日常業務でも高い成果が期待できるからに他なりません。これからの時代のキャリア形成は、組織の活性化や生産性の向上に直結する重要なものなのです。
キャリア形成が重視される背景

ここでは、キャリア形成が重視される背景を解説します。
日本型雇用の崩壊
終身雇用、年功序列といった日本型雇用はもはや崩壊寸前です。大企業に入れば一生安泰といった、従来型のキャリアは幻想となりました。これからは、ビジネスパーソン各自が持つ能力や専門性をどのような形で活かしていくのか、自ら意思決定していく時代です。ビジネスパーソンには、自分の市場価値やエンプロイアビリティが今まで以上に問われます。他方企業には、自発的に成長を目指す人材の確保が求められています。このような雇用環境の中で、キャリア形成が重視されるのは当然のことなのです。
働き方の多様化
在宅勤務やフリーランス、副業解禁など働き方は多様化しています。転職やキャリアチェンジは当たり前、さらに企業に就職することを目標としない生き方も増えています。働く選択肢が増えることは、悪いことではありません。ただしそこには、意思決定が個人に委ねられるという現実があります。だからこそ重要になるのはキャリア形成なのです。自分自身を十分理解した上で意思決定し、自分のキャリア、人生をプランニングしていく。そして企業は、そのような個人とどのような関係性を築いていくのか。キャリア形成は人材獲得競争が激しくなる中で、個人はもちろん企業にとっても重要なトピックなのです。
人生100年時代の到来
人生100年時代。定年後が長くなりました。セカンドキャリアはもとより、サードキャリアそしてその後も…。健康寿命は延びており、生涯現役という考え方も普通になるかもしれません。とはいえ、同じ仕事を一生涯続けられる人はそう多くないでしょう。イギリスの組織論学者であるリンダ・グラットン氏が、共著「ライフ・シフト」で提唱した“「教育→仕事→引退」という人生から「マルチステージ」の人生へと様変わりする”という生き方がスタンダードになる可能性が高いのです。将来迎える様々なステージを見据えるためにキャリア形成は必要不可欠であり、そこを見越した上で支援していく企業のあり方が問われています。
スペシャリストの必要性
デジタル化によるDX、AIやRPAといったテクノロジーの発達は、労働生産性を高めると共に雇用の流動性を高めます。デジタルによる労働環境の変化は、ジョブ型雇用の導入を早める可能性があるのです。そこで必要となる人材は、ゼネラリストではなくスペシャリストでしょう。自分の専門性を活かし、適材適所で働く。この実は当たり前のことが徐々に定着しつつあります。スペシャリストの育成、そしてスペシャリストを受入れる環境整備もキャリア形成支援の重要項目なのです。
キャリア形成の考え方・重要なこと

キャリア形成の必要性、そして企業にはその支援が求められていることが明確になりました。ここではキャリア形成を支援するにあたって、企業が考えるべき重要なことを解説します。
自己理解がポイント
キャリア形成を進めるにあたって、最も重要なポイントが「自己理解」です。自己理解をどう深めるかが、キャリア形成をスムーズに進めるポイントになります。自己理解を深めるには、次のような方法があります。
- キャリアや経験の棚卸し
- Will Can Mustのフレームワークを使う
- 自己分析シートへの記入
- 他者からのフィードバック
分かっているようで分かっていないのが自分自身のことです。自己理解を深めることは、キャリア形成の根幹ともいえる部分。最も意識すべき重要項目です。
内発的動機づけを高める
人材育成においては「動機づけ」が重要。それはキャリア形成でも同じです。動機づけには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」があります。
内発的動機づけ
人の内側にある欲求から生まれる動機づけ。興味や関心、やりがいや達成感、好奇心や探究心といったもの。
外発的動機づけ
人の外側からの働きかけによる動機づけ。報酬や名誉、人からの評価といったもの。
キャリア形成にとって大切なのは、内発的動機づけを高めること。外部の影響を受け難く、かつ持続性があるからです。仕事の意味づけを問う価値観の明確化や、目標設定や自己決定の促進、小さな成功体験を積ませることが内発的動機づけを高めることにつながります。
個人と企業の関係性を意識する
社員がキャリア形成に取組んだ結果、市場価値やエンプロイアビリティが高まり、自分の実力を社外で試してみたいという感情が生まれても不思議ではありません。せっかく組織の活性化や生産性の向上のために、キャリア形成を支援したにもかかわらず転職されては…。そんな声が聞こえてきそうです。ではどうすれば良いのか。
答えは「個人と企業の関係性」の構築にあります。これまでの「相互依存型」というつながりではなく、「自律対等型」という関係性を構築するのです。人生100年時代。個人はキャリア形成を続け、企業はそうした個人を支援し寄り添うパートナーとしての関係性を構築する。その環境を整え個人と企業が将来に向かって伴走していくことが、これからのキャリア形成支援のあり方なのです。
キャリア形成の方法

ここでは、厚生労働省の「キャリア・コンサルティング技法等に関する調査研究報告書の概要」をもとにキャリア形成の方法とその環境整備について解説します。
キャリア形成6つのステップ
個人のキャリア形成は、次の6つのステップで構成されています。
- 自己理解
- 仕事理解
- 啓発的経験(選択や意思決定の前に実際体験してみること)
- キャリア選択にかかわる意思決定(相談の過程を経て選択肢の中から選ぶこと)
- 方策の実行(キャリアの選択や能力開発の方向など意思決定したことを実行すること)
- 仕事への適応(これまでを評価し新しい仕事への適応を行うこと)
この6つのステップを繰り返すことで、キャリア形成は進んでいきます。ただし、効果的に進めるには次のような環境整備が必要です。
- 人材育成方針の明確化
- 能力開発機会の提供
- 評価制度への反映
環境を整えることがキャリア形成の土壌となり、動機づけの向上や人材の定着につながります。詳しく解説します。
人材育成方針の明確化
先にも記した通り、個人と企業の関係性は「相互依存型」ではなく「自律対等型」へと変化しています。個人はエンプロイアビリティを高め、企業はそのキャリア形成を支援する。このような人材育成方針を明確化することで、企業におけるキャリアパスが見えてきます。キャリアパスが見えるということは、その企業でどのように自己実現できるのかを認識できるということです。自己実現への期待はキャリア形成の動機づけとなり、企業への定着の可能性を高めます。
能力開発機会の提供
社員に能力開発の機会を与えることは、企業の経営戦略の実現のため、そしてキャリア形成を支援するための重要項目です。これはキャリア形成6つのステップ、「啓発的経験」への大きな要素ともなります。OJTやOFF-JT、集合研修やeラーニングといった能力開発の機会を提供することで、社員のスキルアップそしてキャリア形成の促進が期待できるのです。
評価制度への反映
キャリア形成を支援することで、社員の能力やスキルは高まります。それは、組織の活性化や生産性の向上といった成果につながるでしょう。能力や業績、貢献度に応じた透明性のある評価制度を整え、成果を生み出した社員は正当に評価していく。社員のキャリア形成を評価制度に反映することも、キャリア形成への動機づけを高め成長を促す大きなインセンティブとなるのです。
キャリア形成をサポートする方法(人事向け)

それでは、社員と直接的にかかわる人事はキャリア形成をどうサポートしていけば良いのか。ここではその方法を解説します。
キャリアコンサルティングを実施する
ひとつ目は、キャリアコンサルティングの実施です。キャリアコンサルティングとは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」と定義されています(厚生労働省)。要は、キャリア形成の方向性を考え進めていくにあたって、具体的な方策を考えるための情報提供や相談を行い意思決定を支援することです。自律的かつ主体的にキャリア形成に取組むといっても、ひとりで完結できるものではありません。そこを人事としてサポートするのです。
先に示したキャリア形成6つのステップに沿って、キャリアコンサルティングを実施します。キャリアコンサルティングを行うのに資格はいりませんが、高い専門性が必要です。人事スタッフが専門的な知識や技能を習得するか、キャリアコンサルタントという国家資格を持つ専門職に依頼するといった方法を取ります。もちろん、人事スタッフがキャリアコンサルタントの資格を取得するというのも方法のひとつです。
社員の自己効力感を高める
自己効力感とは英語で「Self-efficacy」と表記され、「自分はやり遂げることができる」という自分の可能性を認識することです。簡単に言うと、自分の自信を自分で理解するということ。自己効力感はカナダの心理学者であるアルバート・バンデューラによって提唱され、内発的動機づけを高めたり行動変容を起こす要因といわれています。それは目標達成への行動力や困難を乗り越える内なる力であり、自分自身への信頼感につながるものです。
自己効力感は、「達成経験」「他人の成功体験の観察」「高い評価や励まし」「心身の健康維持」で高まるといわれています。人事スタッフとしてサポートできる部分は多いはずです。
1on1ミーティングの実施
1on1ミーティングとは、社員と1対1で定期的にミーティングを行うことです。悩みやキャリア上の課題を傾聴かつ共感し、社員自らの自己解決をフォローするのが目的です。社員が自律的かつ主体的に仕事を進めることができるように、能力を引き出すことを目指します。1on1ミーティングは、相談や面談とは違いカウンセリングに近いものがあります。人事スタッフが1on1ミーティングを実施していくには、傾聴スキルが必須となります。
まずは会社の健康診断から|サーベイの実施

キャリア形成、そしてその支援の重要性を解説しました。ただし大切なことがあります。キャリア形成6つのステップは「自己理解」から始まっています。これは自分の現在地が分かっていなければ、その後の方向性を決めることができないからです。これは何も個人に限ったことではなく、企業にとっても同じこと。会社の現状を分析し、課題を見つける。そしてそこをどう改善していくのか。すべては、会社の現状を知るとことから始まります。
リアルワン株式会社は、科学的根拠に基づく信頼性の高い各種サーベイを行い、個人や組織の成長をサポートしています。目的別に「従業員満足調査」「エンゲージメント調査」「360度評価」といったサーベイを行い、成長する組織の健康診断を行います。
「社員の仕事や企業に対する満足感を調査し、組織課題を明らかにします」。そして、「社員と企業、個人と仕事の結びつきを分析、組織と個人が共に成長できる関係性を目指します」。さらに、「対象となる本人や周りの仲間といった多様な視点の評価で、モチベーションアップや成長につなげます」。実施した各種サーベイの活用支援やアンケーツールも充実しています。社員のキャリア形成、そしてその支援を促進するには、まず自分の会社を理解すること。リアルワンの各種サーベイをぜひお役立てください。