ストレスチェック制度とは? 義務化された内容と実施方法について解説!

ストレスチェック制度とは、従業員のメンタルヘルスを守るための取り組みの一環として、企業がストレスチェックを実施し、その結果をもとに職場環境の改善策を検討することを目的とした制度です。従業員規模50名の事業所において、ストレスチェック制度は義務づけられています。

本記事では、ストレスチェック制度について知りたい方、今後の取り組みに向けて情報収集をしている方を対象に、ストレスチェック制度が義務化された背景、ストレスチェックの概要、実施方法などについて解説します。

日本における職場のメンタルヘルスの現状

厚生労働省が実施している「労働安全衛生調査(令和3年)」では、メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は全体の10.1%でした。5年前の平成28年に実施した同調査では、連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合が全体の0.4%であったことから、この5年間で一気に増えたことが分かります。

また、厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」では、精神障害を原因とする労災の請求件数、支給決定件数は平成29年から令和3年まで間で約1.3倍に増えていることが報告されています。

このような状況から、日本の職場におけるメンタルヘルス不調の問題が、年々大きくなってきていることが統計データからも読み取れます。

ストレスチェック制度とは?

ストレスチェック制度とは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。ストレスチェック制度では、労働者のストレスを質問票を用いて測定して把握し、結果に基づいて面接指導などを実施することが求められています。

以下は、ストレスチェックを実施する目的として、政府が挙げている4つの指針です。

  1. 労働者自身のストレスへの気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させること
  2. 検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境改善につなげることで、ストレス要因そのものを低減させること
  3. ストレスの高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること
  4. 労働者のストレスの状況の改善及び働きやすい職場の実現を通じて、生産性向上につなげるものであることに留意し、事業経営の一環として、積極的にストレスチェック制度の活用を進めていくこと
出所:「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき処置に関する指針」、厚生労働省

ストレスチェック制度の対象企業

ストレスチェック制度は、2015年の労働安全衛生法が改正を受け、従業員規模50人以上の事業所に対して義務化されています。従業員規模50人未満の事業所においては、ストレスチェックは努力義務とされており、実施した場合の費用を助成する制度があります。

ストレスチェック制度の対象者

ストレスチェックの対象となる労働者は「常時使用する労働者」とされています。具体的には、以下のいずれの要件を満たす者を指します。

なお、ストレスチェックの実施については従業員規模50人以上の企業を対象に義務づけられていますが、労働者がストレスチェックを受検するかしないかは義務づけられていないため、受検を強制することはできません。

  • 期間の定めのない契約労働により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む)であること。
  • その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
出所:「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(令和3年3月改訂版)」

ストレスチェックの実施者

ストレスチェックの実施者は、ストレスチェックを実施し、その結果に基づいて個人への面接指導の必要性について判断する役割を担います。そのため、ストレスチェックの実施者は、産業保健および産業精神保健に関する知識を持つ医師、保健師、必要な研修を受けた看護師、精神保健福祉士、歯科医師、および公認心理師とされています。

ストレスチェックの実施事務従事者

ストレスチェックの実施事務従事者とは、ストレスチェックの実施者をサポートする役割を担います。サポート内容の例としては、回答された質問票の回収、データ入力、労働者への結果の通知などがあります。ストレスチェックの結果によって、労働者が不当な扱いを受けないよう、ストレスチェックの実施事務従事者は、人事権を持たない者に限ります。

なお、ストレスチェックの結果と直接関わらない、ストレスチェックの実施計画の策定、外部に委託する場合の外部機関との契約に関する連絡、質問票の配布、ストレスチェックを受けていない労働者への受験を推奨する行為は人事権を持つ者でも行っていいとされています。

ストレスチェックの実施方法

ここでは、ストレスチェックの実施方法について、準備から労働基準監督署への報告まで、ステップ・バイ・ステップで解説していきます。

導入準備

ストレスチェックを円滑に実施するためには、実施体制を整えることが不可欠です。衛生委員会など、ストレスチェックを実施するチームをつくりましょう。

次に、ストレスチェックを実施する前に、従業員へストレスチェックを実施する旨、なぜストレスチェック制度を実施するのかについて通知します。その際、ストレスチェックの結果がどのように管理され扱われるのかという、個人情報の保護に関する説明も十分にしておく必要があります。

そして、ストレスチェックを担う衛生委員会では、以下の項目について話し合い、どのようにストレスチェックを実施するか決めていきます。

【ストレスチェック導入前に決めること】

  • ストレスチェックの実施者および実施事務従事者
  • ストレスチェックの実施時期や頻度
  • ストレスチェックで使用する質問票
  • 高ストレス者を選ぶ基準
  • 面接指導の申出方法および実施者
  • ストレスチェックの結果を取り扱う者および保存方法
  • ストレスチェックの結果の集団分析方法
  • ストレスチェックの集団分析結果の利用目的および利用方法
  • ストレスチェックの面接指導に関する情報の集計および分析方法
  • ストレスチェックの面接指導に関する分析結果の利用目的および利用方法
  • ストレスチェックで得られた情報や集計・分析結果の開示、訂正、削除方法
  • ストレスチェックおよび面接指導に関する苦情の対処方法
  • ストレスチェックの結果による不当な扱いの防止策

質問票を準備する

ストレスチェックでは、次の3項目について確認できる質問票を利用して行うことが義務づけられています。

  • 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目(仕事のストレス要因)
  • 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目(心身のストレス反応)
  • 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目(周囲のサポート)

厚生労働省は、ストレスチェックで使用する質問票として、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の利用を推奨しています。厚生労働省が無償で配布しているこの調査票は、信頼性と妥当性において科学的根拠を持っています。

ストレスチェックでは必ずしも厚生労働省が推奨しているものを使用する必要はありませんが、上記の3項目を満たしている且つ「性格検査」「希死念慮」「うつ病検査」を含まない、一定の科学的根拠を持つ質問票を使用しなければなりません。

全体の流れを把握しPDCAを考える

ストレスチェックの全体の流れは以下のようになります。ストレスチェックの結果に基づいた個別フォロー、職場環境の改善といったメンタルヘルス不調の一次予防はもちろん、ストレスチェック実施の流れそのものも、その時の従業員の反応を見ながら改善していく必要があります。

昨今は、ストレスチェックの実施において配慮すべきポイントが多いこと、個人情報の取り扱いが煩雑であること、従業員が安心してストレスチェックを受けられる環境をつくるという観点から、健診機関やEAP(従業員支援プログラム)へストレスチェックの実施を委託する企業が増えてきています。

1. 従業員へのストレスチェック実施に関する方針の表明
2. 衛生委員会での調査審議
3. ストレスチェックの実施
4a. 個別フォロー4b-1. 集団集計と分析
4b-2. 職場環境の改善
5. ストレスチェックと面談指導の実施状況の確認と改善事項の検討

労働基準監督署への報告

ストレスチェックの実施後は、厚生労働省が指定する書式で報告書(「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」)を作成し、提出する必要があります。

報告書には、ストレスチェックを実施した月、受検者の数、面接指導を受けた労働者の数などを記載します。

高ストレス者の選定方法について

高ストレス者の選定基準については、厚生労働省が公表している「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」に記載があります。ここでは、そこで紹介されている内容を簡略化してご紹介します。

質問票の選び方を説明する節でも解説した通り、ストレスチェックでは、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」に関する項目を測定します。

高ストレス者を選定する際は、まずは「心身のストレス反応」の得点が高い者を選びます。しかし、これでは自覚症状はないけれど、業務量が多く、周囲から十分なサポートを得られていない、高ストレス者になる可能性のある、予備群を見逃してしまいます。そのため、「心身のストレス反応」の得点が一定以上、且つ「仕事のストレス要因」および「周囲のサポート」の評価点が高い(悪い)者も高ストレス者として選定します。

選定された高ストレス者のうち、ストレスチェックの実施者(医師や保健師)が面接指導が必要であると判断された者が、面接指導の対象となります。実務上では、高ストレス者の中から面接指導対象者を絞るのではなく、「高ストレス者=面接指導対象者」としているケースが多いようです。

ストレスチェックの受検者を増やすポイント

会社としてストレスチェックを実施していても、従業員が受検を拒むことがあります。メンタルヘルス不調を未然に防ぎ、さらに得られたデータを活用して組織全体として職場改善に取り組むためには、従業員にストレスチェックの意義を理解してもらい、受検者を増やす取り組みが重要です。ここでは、ストレスチェックの受検者を増やすためのポイントを2つご紹介します。

ポイント1:ストレスチェックの目的を理解してもらう

ストレスチェックで良くない結果が出てしまうと、今後のキャリアへ悪い影響があるのではないかと不安に感じる従業員は少なくありません。また、会社の中で誰が自分のストレス状態を知っているのか分からない状態も従業員を不安にさせ、ストレスチェックを受検したくないという感情が働くようになります。

ストレスチェックの目的は、従業員本人にストレスへの気づきの機会を与えることであり、会社が従業員の病気やパフォーマンスのスクリーニングをすることではありません。

この点について、経営者や管理職も正しい理解が必要です。その上で、従業員に対してストレスチェックはあくまでストレスの気づきの機会として実施しているもの、結果に関する個人情報は適切に保護されること、ストレスチェックの結果によって不当な扱いを受けることはないことを従業員にしっかり説明しましょう。

ポイント2:セルフケアに関する情報提供を行う

ストレスチェックの結果が個々人へ配られるだけでは、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことにつながりません。どのように従業員が仕事のストレスに対処すればいいか、セルフケアの方法について従業員へ適切な情報提供を行う必要があります。

ストレスチェック制度で会社がケアすべき対象は高ストレス者だけではなく、すべての従業員であることを忘れないようにしましょう。

>関連記事:「職場のメンタルヘルスケア対策とは?」

ストレスチェック制度の趣旨を正しく理解して実施する

ストレスチェック制度の4つの重要な目的は、「従業員にストレスへの気づきの機会を与えること」、「高ストレス者を早期発見しメンタルヘルス不調を未然に防ぐこと」、「集団結果を職場環境の改善に活かすこと」、「職場環境の改善を通じて生産性向上につなげること」です。

これらの目的を達成するためには、ストレスチェックの実施に携わるマネジャーや担当者が従業員の視点、組織の視点の両方を持った上で、進めていくことが求められます。人事部門が現場で働いている従業員の考えを知る手段として、従業員満足度調査エンゲージメントサーベイがあります。ストレスチェックだけではなく、これらのサーベイも有効活用しながら、メンタルヘルス不調の一次予防に取り組みましょう。

【参考文献】

  • 加藤容子, 三宅美樹. 「産業・組織心理学 個人と組織の心理学的支援のために」. 株式会社ミネルヴァ書房. 2020.
  • 山口裕幸. 「産業・組織心理学」. 一般財団法人放送大学教育振興会. 2020
  • 吉野聡, 梅田忠敬. 「精神科産業医が明かす職場のメンタルヘルスの正しい知識」. 日本法令. 2009
  • 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室.「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」. 令和3年2月版