エンプロイアビリティとは?/意味や高める方法を紹介

Employabilityエンプロイアビリティという言葉を耳にする機会が多くなったのは、日本の終身雇用制度が終わりを迎えたころからではないでしょうか。

多様な働き方が尊重されて、スキルアップやキャリアチェンジも当たり前の時代となった昨今。働き手はエンプロイアビリティの高さを評価してくれる企業に惹かれ、転職をする人も増えています。一方、企業は様々な能力開発の施策を通して、優秀な人材の流出は防がなければなりません。

ここでは、そんな双方のメリットとなるように、エンプロイアビリティの定義や意味、分類、エンプロイアビリティを高めるために具体的にどうすればよいか…。といったところまで紹介していきます。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

エンプロイアビリティとは

エンプロイアビリティとは、『雇用』の意味を持つ『Employ』と、『能力』の意味を持つ『Ability』という2つの単語を組み合わせて作られた経済学用語。という理解で、世間一般に周知されています。

参考:エンプロイアビリティ(Employability)|フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

組織や企業のなかでエンプロイアビリティという言葉自体は聞いたことがある。けれど、深く理解しているかというと、それほどでもない。そんな方々へもエンプロイアビリティの理解が広く浸透するように、まずは、エンプロイアビリティの意味や定義から説明します。

エンプロイアビリティ そもそもの意味や定義とは

エンプロイアビリティとは、組織や企業から『雇われる・雇われ続けるための能力』といった意味になります。
厚生労働省が公表した『エンプロイアビリティの判断基準に関する調査研究報告書』では、エンプロイアビリティとは、『労働市場価値を含んだ職業能力、即ち、労働市場における能力評価、能力開発目標の基準となる実践的な職業能力』と定義しています。

また、同報告書で『産業構造の変化、技術革新の進展や労働者の就業意識・就業形態の多様化に伴い、労働移動が増大しつつある』とも指摘しています。

社会情勢の変化や労働者の意識の多様化などにより終身雇用制が絶体でなくなった今、企業間を越えて認められる能力が評価される時代になりました。もし解雇を余儀なくされたり、望んで退職するとしても、個人のエンプロイアビリティが高ければ優位な転職が実現できるでしょう。現職中から労働者は個人の市場価値を意識しながら、エンプロイアビリティを高めておくのが大事です。

参考:エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について|厚生労働省

エンプロイアビリティには個人が持つ知識や技能、資格、性格など様々な要素が含まれています。 厚生労働省では、これらを大きく3つに分類して解釈しています。

次はこの分類ごとに、エンプロイアビリティの要素をみていきましょう。

Employabilityエンプロイアビリティ 厚生労働省が分類した3要素って?

厚生労働省が公表したエンプロイアビリティの要素は、次の3つです。

  1. 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
  2. 協調性、積極性等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
  3. 動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの


まずは、エンプロイアビリティ の構造を、『見える部分』と『見えない部分』に分類。その見える部分に知識や技能、思考性や行動性が存在し、見えない部分には動機、人柄、性格、信念、価値観などが潜在しているという考え方です。

出典:エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書概要|厚生労働省

1の見える部分の知識や技能には、遂行する職務への適性、学習能力、新しい環境でのレジリエンス(困難な状況での適力)などを挙げています。労働市場に関する知識、業務のサポートをしてくれる人脈も見える部分の要素と考えているようです。

2の思考特性や行動特性も見える部分に属してはいますが、潜在性とのつながりが強いと考えられています。仕事へのモチベーション、キャリアチェンジ、キャリアマネジメントなどが挙げられ、コミュニケーションスキルや協調性もこの要素に含まれます。

3の動機・人柄・性格・信念・価値観などは見えない部分に分けられ、個人の持つ潜在的な属性としています。個人がそもそも持ち合せている資質は、職務遂行のためのモチベーションやレジリエンスのように訓練で身に付くものでもなく、客観的な評価が困難です。そのため厚生労働省の見解では、3はエンプロイアビリティの評価基準には適切でないとしています。

エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティの関係性

エンプロイアビリティは、組織や企業から『雇われる・雇われ続けるための能力』という意味です。これに対して、エンプロイメンタビリティ(Employmentability)は、組織や企業が『雇う・雇い続けるための能力』となります。これだけで見ると、エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティは相対関係を意味する言葉となるわけです。

企業の雇う・雇い続けるための能力というと、労働者の雇用を支える力=資本の大小=賃金の支払い能力が高い…などとして理解されがちですが、実はそれだけではありません。今やエンプロイメンタビリティは、魅力的な職場や職務を提供できるか、OJTやOff-JTを通じてスキルアップのフォローができるか、労働者のキャリアを開発する能力があるか…、など企業の総合的な能力として認識されています。

エンプロイアビリティへの意識が高く努力を惜しまない人材ほど、より魅力的な企業への転職願望も強く、実際に実現している人が多いようです。これからは、優秀な人材を獲得しつなぎ止めておく能力があるかないかも、エンプロイメンタビリティの高さを評価する基準になるのかもしれません。優秀な人材の流動がスタンダード化する現状では、労働者と企業が互いの市場価値を高め相乗効果を生みだす関係を築いておくのが理想ではないでしょうか。

エンプロイアビリティとコンピテンシーはどう違う?

エンプロイアビリティと関連して『コンピテンシー(Competency)』という概念が、注目されてきました。Competencyは、そもそもCompete(戦う)から派生し、『能力』『技能』『力量』『適性』などと訳されています。HR用語として解釈すると『成果につながる能力』となるのでしょうか。Employabilityは先述で記したように『雇われる能力』ですから、両者とも職務に関する能力であるものの違う意味になります。

コンピテンシーには、高い業績や成果につながる行動性といったような要素が含まれ、評価制度への適用や企業の業績向上を目指すために活用されています。
>>関連記事|コンピテンシー評価とは?書き方(例文あり)や評価基準を解説

エンプロイアビリティ メリットあるのは内的、外的どっち?

面接

内的エンプロイアビリティも外的エンプロイアビリティも、それぞれの側面からメリットをもたらしてくれ、2種類のエンプロイアビリティには対照的な特徴があります。現在の組織で評価され雇用され続ける能力=『勤続に有利な能力』が内的エンプロイアビリティ。外的エンプロイアビリティは、現在とレベルの条件で転職できる能力=『転職に有利な能力』といわれています。エンプロイアビリティというと転職に有利というメリットだけがクローズアップされがちですが、そうではないことを理解しておきましょう。

・内的エンプロイアビリティはリストラ回避が可能?
内的エンプロイアビリティは現職で優位性のある特殊能力で、万が一のリストラを回避できるものがあります。例えば、自社商品への深い知識、固有のシステムに関わる専門技術や特化したスキルなどを蓄積しておけば、リストラ回避に役立つかもしれません。

・外的エンプロイアビリティは転職市場で有利?
外的エンプロイアビリティは、転職を有利にする能力です。具体的には転職市場で評価の高い国家資格や、有名メーカーのシステムの専門知識やHow to、スキルなどが挙げられます。希望の条件以上の転職を可能にしたいなら、即戦力として活躍できる外的エンプロイアビリティを蓄えておきましょう。

エンプロイアビリティを高める3つの力

エンプロイアビリティを高めるには、次の3つの力が必要です。

  1. 就職基礎能力
  2. 社会人基礎能力
  3. 組織の力

1.人材の流動が一般的となりつつある現代社会では、労働者は個人の市場価値を意識してエンプロイアビリティを高めておくことが重要になります。高いエンプロイアビリティを身につけておけば、活躍の場を広げる可能性を高められるでしょう。

次は、それぞれのエンプロイアビリティを高める力を紹介していきます。

エンプロイアビリティを高める就職基礎能力

就職基礎能力は、厚生労働省のエンプロイアビリティチェックシートに示されている能力の一つです。

就職基礎能力は、次の3つの能力要素に分類されます。

  1. 責任感:社会の一員としての役割に自覚を持っている
  2. 向上心・探求心:働くことへ関心や意欲を持ちながら、進んで課題を見つけ、レベルアップを目指すことができる
  3. 職業意識・勤労観:職業や勤労に対する広範な見方・考え方を持ち、意欲や態度等で示すことができる

この、項目に沿ったワークシートには細分化された設問があり、一つひとつ答えてえていくことで今の自分の状態に気づけます。例えば、1と2では、一般的に社会人に求められるマインドや業務に対する積極性やモチベーションなどの意識確認。3では、理想の働き方などを考え直せます。このステップを踏んで、自らの事象を客観的に観察し本質を見極められるようになれば、コンセプチュアルスキルも高まるでしょう。

エンプロイアビリティを高める社会人基礎能力

社会人基礎力は、厚生労働省のエンプロイアビリティチェックシートに示されている二つ目の能力です。

社会人基礎能力は、大きく3つに分けられ、さらに12の能力要素に分類されます。

1.前に踏み出す力(アクション)
•主体性:物事に進んで取り組む力
•働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む力
•実行力:目標を設定し確実に行動する力
2.考え抜く力(シンキング)
•課題発見力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力
•計画力:課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
•創造力:新しい価値を生み出す力
3.チームで働く力(チームワーク)
•発信力:自分の意見をわかりやすく伝える力
•傾聴力:相手の意見を丁寧に聴く力
•柔軟性:意見の違いや立場の違いを理解する力
•情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
•規律性:社会のルールや人との約束を守る力
•ストレスコントロール力:ストレスの発症源に対応する力

こちらも、項目に沿ったワークシートでは細分化された設問に答えていくと、今の自分の得意・不得意な能力に気づけます。

1は自らのアクションで目標や課題を実現していく能力、2は自らの考えで問題を発見して解決する能力の見直しができるでしょう。3のチームで働く力では、コミュニケーションスキルやヒューマンスキルのブラッシュアップが可能になります。

エンプロイアビリティを高める組織の力

エンプロイアビリティを高める組織の力とは、企業側の積極的なエンプロイアビリティ向上への支援や取り組みなどのことです。

例えば、OJTやOFF-JTによるスキルのフォローアップ、研修会の実施、キャリア形成の支援、メンタルへルヘルスのケアなど様々な施策や制度…などがエンプロイアビリティを高める組織の力になります。これにより優秀な人材が流動してしまうリスクはあるものの、組織の力を駆使してエンプロイアビリティの向上に貢献しているアピールになるはずです。その結果、新たな転職者の迎え入れも可能でしょうし、社会的信用も得られます。

エンプロイアビリティ保障はwin winの関係を生む?

エンプロイアビリティ保障は、雇用を保障する代わりに労働者のスキルや知識を習得する仕組みを確立し、外的エンプロイアビリティの向上も援助するという概念です。

日本では終身雇用制度が終わりを迎え、欧米では企業競争の激化などにより社員の長期雇用を保障していくのが難しくなってきた背景から広まってきました。

企業が優秀な人材の育成に励めば労働者はその姿勢や貢献度に応え、エンゲージメントも高まるでしょう。このようなwin winの関係を構築できるのも、組織にエンプロイアビリティを高める力があるからです。労働者にとっては、企業間を越えたエンプロイアビリティを高めておけるのは大きなメリットになります。

エンプロイアビリティがセルフチェックできる厚生労働省公開のチェックシート

エンプロイアビリティチェックシートは、厚生労働省が公開しているワークシートで、個々のエンプロイアビリティの再認識ができるものです。

>>詳しくはこちら| 厚生労働省『エンプロイアビリティチェックシート(総合版)』

正規雇用で働くことに今一つ自信が持てない、自己 ピーアールなどに自信がない…といった方々の経験を基に、企業で雇用され活躍するために必要な能力がセルフチェックできる仕様になっています。

先述で記しました就職基礎能力や社会人基礎力のほか、コミュニケーションスキルやヒューマンスキル、傾聴力、5W1Hを活用した設問などに答えていくことで、今の自分の能力からブラッシュアップできる仕組みになっています。その事象から、企業に向けて訴求力のあるアピールポイントを明確にしておけば外的エンプロイアビリティの向上にもつながり、転職活動は有利に運べるでしょう。ストレスの発生源に対応する能力に関する項目もあるので、メンタルヘルスのリカバリーにも役立ちます。

エンプロイメンタビリティが高い企業の特徴をチェック

エンプロイメンタビリティが高い企業には、次のような特徴があります。
・フラットな環境を整え1on1を日常化している
わざわざ1on1の場を設けなくても、働きながら能力開発やキャリア目標など様々な潜在的な情報を引き出してもらえれば、エンプロイアビリティの向上はスムーズです。労働者は将来に不安を持たずに、自分の会社を魅力的と感じて働き続けられるでしょう。

・ウェルビーイングを高めるアプローチも積極的
ウェルビーイングが高い労働者は、パフォーマンスや創造力などが高いといわれています。労働者の幸福度がを高め、企業の競争力を強化しリテンションにつなげている企業も多いようです。
関連記事>>ウェルビーイング経営とは?具体的な取り組み方や成功事例をご紹介

・エンゲージメントの向上にも注力している
労働者が仕事に積極的に関与している状態のエンゲージメントが高いと、仕事に対して頭も心も体もポジティブに向き合っているといえます。エンゲージメントが高い状態でいるとパフォーマンスで成果をあげたり、周囲に良い影響を与え組織に大きく貢献できるのです。
関連記事>>エンゲージメントサーベイ(エンゲージメント調査)とは

エンプロイメンタビリティは、先述でも説明いたしましたように組織や企業が労働者を『雇う・雇い続けるための能力』という意味です。上記の特徴からみても、エンプロイメンタビリティのプライオリティは資本力だけでなく、成長実感や幸福度の高さにもあることがわかります。

エンプロイメンタビリティの向上にはエンゲージメントが欠かせない?

エンプロイメンタビリティの向上には、エンゲージメントが欠かせません。エンゲージメントが低い企業は、従業員の離職率が高い傾向にあります。

エンゲージメントとは、労働者の企業に対する愛着心・満足度などの意味も含み、『つながり・絆』の深さも表します。人的資源を大切にして、人財をよく理解して生かすことは重要です。たとえ、人財の流出のリスクが伴ったとしても、エンプロイアビリティの向上に積極的に取り組む企業であれば、新たな人財が訪れるでしょう。生き生きと働く幸せな人財で溢れるエンゲージメントの高い組織に、人は魅力を感じるはずですから…。

エンプロイメンタビリティの高い組織を目指すには、エンゲージメントも高くなければなりませんから、社員のエンゲージがどれくらいなのかを、まずは正確なデータとして取得しておきましょう。科学的根拠に基づいた信頼性の高い調査・評価で定評のあるリアルワンのエンゲージメント調査なら、現状をしっかりと把握していただけるはずです。その専門家による調査結果を基に、エンプロイアビリティやエンプロイメンタビリティの向上に務めていただければと思います。

>> リアルワンの『エンゲージメント調査』詳細はこちら