裁量労働制は業務を時間で管理するのではなく、個人の裁量に任せた成果重視の働き方ができる制度として、昨今話題になっています。『働き方改革』の実現や、リモートワークも新定番となり『多様な働き方』の推進のために導入を検討される企業も増えているようです。
裁量労働制は適切に運用できれば、労働者側と経営者側の双方にメリットをもたらす制度ですが、デリケートなルールも存在します。例えば、労働基準法に関わる『36(サブロク)協定』や『特別条項の締結』『残業時間の上限』など。守れていないと法令違反、労使間トラブルの発生にもなりかねません。
ここでは、こうした問題を事前に回避して制度導入の検討ができるよう、裁量労働制と36協定の関係性、メリットやデメリットなどについても探っていきます。
目次
裁量労働制とは

裁量労働制は、1987年の労働基準法改正の際に初めて策定されました。労働者の裁量を認める必要がある業務は実働時間とは関係なく、あらかじめ労使間で取り決めた労働時間分を働いたとみなして、労働者に賃金が支払われる制度です。この時間が、『みなし労働時間』といわれています。
みなし労働時間制(みなしろうどうじかんせい)とは、労働基準法において、その日の実際の労働時間にかかわらず、その日はあらかじめ定めておいた時間労働したものとみなす制度のこと。
参考:みなし労働時間制|フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
裁量労働制は当初、一部の研究職や専門職に限って導入が認められました。その後、1998年に一般業務にも適用を広げ、『専門業務型裁量労働制』と『企画業務型裁量労働制』に分けた、現在のスタイルになっています。裁量労働制は全ての業務に適用されるのではなく、業種が限定されます。
それでは、どんな業種がそれぞれの裁量労働制の対象になるのか見ていきましょう。
専門業務型裁量労働制
『専門業務型裁量労働制』は研究・開発職やクリエイティブ職、士業などの高度な専門性が求められる職種に適用されます。これらの業務はその性質上、遂行の手段や方法、時間配分などを労働者の裁量にゆだねる必要があります。
具体的な対象職種は厚生労働省が指定する、次の19職種です。
- 新商品・新技術の研究開発又は人文科学・自然科学に関する研究
- 情報処理システムの分析又は設計
- 新聞・出版の事業における記事の取材・編集。放送番組・有線ラジオ放送業務の運用・制作のための取材・編集
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告などのデザイン
- 放送番組、映画などの制作の事業におけるプロデュース又はディレクション
- 広告、宣伝などにおける商品などのコピー作成
- 事業運営において情報処理システムを活用するためのシステムコンサルティング
- 建築物内におけるインテリアコーディネィト
- ゲーム用ソフトウェアの創作
- 証券アナリスト
- 金融商品の開発の業務
- 学大学における教授研究
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
『専門業務型裁量労働制』は上記の19職種に限って、労使協定が締結できれば導入が可能です。
参考:専門業務型裁量労働制|厚生労働省
労使協定(ろうしきょうてい)とは、労働者と使用者との間で締結される、書面による協定のこと。
参考:労使協定|フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
企画業務型裁量労働制
『企画業務型裁量労働制』は事業運営の企画、立案、調査、分析などの業務に従事する労働者に適用されます。
具体的な対象業務は厚生労働省が指定する、次の8業務です。
- 経営企画を担当する部署の業務で、経営状態、経営環境などについて調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
- 経営企画を担当する部署の業務で、現行の社内組織の問題点やその在り方などについて調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
- 人事・労務を担当する部署の業務で、現行の人事制度の問題点やその在り方などについて調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
- 人事・労務を担当する部署の業務で、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力などについて調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
- 財務・経理を担当する部署の業務で、財務状態などについて調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
- 広報を担当する部署の業務で、効果的な広報手法などについて調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
- 営業に関する企画を担当する部署の業務で、営業成績や営業活動上の問題点などについて調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
- 生産に関する企画を担当する部署の業務で、生産効率や原材料などに係る市場の動向などについて調査及び分析を行い、原材料などの調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
上記の業務を適切に遂行するための知識・経験などを有する労働者として、少なくとも3〜5年程度の職務経験を有する者に、企画業務型裁量労働制が適用されます。
参考:企画業務型裁量労働制|厚生労働省
裁量労働制のメリット

裁量労働制が適切に運用されれば、時間的な制約から解放され自由度が高い働き方が可能になります。まずは、労働者と経営者側にもたらすメリットをそれぞれの立場から見ていきましょう。
裁量労働制・労働者側のメリット
裁量労働制はフレックスタイム制度にあるコアタイムもなく、事前に労使間で決められたみなし労働時間内で業務を熟せば、企業側からその働き方を咎められることはありません。
このルールを大前提に、労働者側からのメリットを考えてみると、大きくは次の2つがあげられるでしょう。
- 拘束時間の制約がなく、フレキシブルな働き方ができる
- 自由度が高く、自律的に成果を出すのに専念できる
裁量労働制では労働時間をみなし労働時間で管理するため、業務の始業時刻と終了時刻を自由に決められます。拘束時間という感覚ではなく、任された業務を効率よくアウトプットするための時間と捉えて働けば、作業時間を短縮させて早く帰宅することも可能でしょう。裁量労働制の対象となる職種は、専門的な業務が多いため労働者の裁量に任され業務が進められます。労働者のペースで拘束時間を短縮しても、生産性を高めて成果をあげれば、決められた給与が支払われるのは大きなメリットでしょう。これが実現ができれば、それぞれのライフスタイルに応じた自由な働き方ができる、魅力的な制度といえます。
裁量労働制・企業側のメリット
会社側のメリットとして考えられるのは、次の2つです。
- 人件費が安定し生産性の向上ができる
- 労務管理の負担が軽減できる
裁量労働制では、あらかじめ労使協定で決めたみなし時間を、労働者が働いた時間として計算して賃金を支払います。人件費は企業経営をするうえで重要なコストになりますから、みなし時間である程度の総額が事前に予測できるのは、大きなメリットといえるでしょう。また、システム化が進んでいるとはいえ、毎月の時間外労働の算出や残業代を支給する作業は、非常に手間がかかります。この作業が縮小でき、労務管理がしやすくなる点も企業側にとっての、もう一つのメリットです。労働者側が、短時間で効率よく仕事を終了させようというモチベーションとなれば、必然的に生産性の向上につながります。
裁量労働制のデメリット

裁量労働制は、労働者に判断が委ねられ個人のペースで業務を推進できて働きやすく、やりがいも得やすい一方で、成果をだすために長時間労働となってしまうケースも多いようです。
裁量労働制・労働者側のデメリット
労働者の一番のデメリットが、この長時間労働のリスクでしょう。前述でも記載したように、裁量労働制ではみなし労働時間で給与が支払われます。みなし労働時間内で業務を短縮して、終了できれば効率的です。けれど自己管理能力が低かったり生産効率が悪い労働者は、長時間労働が強いられても給与の総額がダウンしていることもあるようです。実際に、月平均の労働時間を一般的な労働時間制と比べると、裁量労働制のほうが上回っているというデータもあります。
裁量労働制は労働者の裁量で進めた結果が評価されるため、責任やプレッシャーも伴います。給与面だけでなく、メンタル的な負担が大きいのもデメリットと感じるかもしれません。
裁量労働制・企業側のデメリット
裁量労働制を導入するにあたっての企業側のデメリットは、煩雑な手続きを踏まなければならないことでしょう。まずは、労使委員会を設置して運営法案を定めなければなりません。その後、労使協定を締結して、指定の様式に必要事項を記入し労働基準監督署への届出が義務づけられています。
決議しなければならない複数の項目から、いくつか例をあげてみます。
- 裁量労働制を採用する業務
- 対象業務の推進方法
- みなし労働時間
- 健康や福祉を確保するための措置内容
- 苦情を処理するための措置内容
これだけを見ても、裁量労働制を導入するためには多大な時間や労力が想定され、企業側としてはデメリットと感じるかもしれません。
また、裁量労働制では、労働者が始業時刻や終了時刻を自由に決めて働けるため、健康管理が難しくなります。労働者同士のコミュニケーションも減り、チームビルディングがしにくいのもデメリットです。
裁量労働制でも残業代が発生する?

裁量労働制は、みなし労働時間で給与が支払われるため、残業代は発生しないという認識の事業主の方もいらっしゃるかもしれません。けれど、ここが誤解しやすいポイントで、裁量労働制でも残業が発生すれば、割増賃金が支払われます。知らずにいれば労働者側も企業側にとってもデメリットになるでしょう。
裁量労働制でも割増賃金が発生するのが、次のケースです。
- みなし労働時間が法定労働時間を超過した
- 深夜労働が発生した
- 休日労働が発生した
みなし労働時間も、法定労働時間(8時間)の適用を受けます。例えば9時間をみなし労働時間と締結した場合、1時間の残業が発生するため、企業側は残業代として25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。また、深夜労働として22時から翌5時までの時間帯に働いた場合も深夜割増賃金の25%以上が必要です。法定休日に労働すれば、35%以上の割増賃金も支払います。みなし労働時間は、時間帯ではなく時間量で定めたもののため、誤った認識でいると労働基準法の違反となります。
参考:「裁量」の意味と使い方!「裁量権」とは?|語彙力.COM
36協定とは

36協定とは、労働基準法36条に基づいた労使協定です。『時間外・休日労働に関する協定届』で、通称『サブロク協定』とも呼ばれています。働き方改革の推進などにより、耳にしたことはあるものの、裁量労働制との関係性など正しく理解いしているかと聞かれたら、「???」という方も少なくないのでは。そこで、36サブロク協定とはそもそも何についての取り決めなのか、上限の労働時間や特別条項、法令に違反したらどうなってしまうのかなども探ってみます。
36協定・何についての取り決め?
36協定は、法定労働時間を超過したり法定休日に労働する場合に、その措置内容を労使間で協議し締結し届出をするものです。
労働基準法では、法定労働時間=1日8時間、1週40時間、法定休日=週1日が規定とされています。時間外労働や休日出勤を要請する場合は裁量労働制でも、『36協定の締結』と『所轄労働基準監督署長への届出』をしなければなりません。企業側が、36協定の締結をしないまま残業や休日出勤をさせれば法律違反となります。労働者側は、締結した36協定を労働基準監督署長へ届出する義務があります。
36協定・時間外労働の上限時間とは
36協定の一般条項では法定労働時間を超過して残業を要請する場合、原則の上限時間が月45時間・年360時間と定められています。働き方改革の推進に伴い、2019年4月(中小企業は2020年4⽉)に、労働基準法36条4項が改正されました。それまでは、この時間外労働の上限時間を告示で定めていましたが、より強制力のある法律で規制したのです。法改正前は上限時間をオーバーしても行政指導がある程度だったため、特別条項を締結して1カ月の上限を60〜80時間としていたという事例も残っています。なかには、過労死につながるような時間外労働を強いられていても、黙認するケースもあったとか。
そんな背景からも法による規制を強化し、違反した場合の罰則を定めたのです。もし、36協定の違反が発覚し軽過失と判断されると、労働基準監督署から『是正勧告』が発令されます。これに従わない場合や、悪質なケースと判断されると労働基準法違反で『6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金』という罰則が科せられます。 書類送検となった場合、社名が公表されるため、企業のイメージダウンにつながってしまうでしょう。
罰則を受けるのは企業側だけではなく、時間外労働を指示した社員の管理者も対象になりますので、残業時間の管理は慎重に行なわなければなりません。
36協定・特別条項を適用する際の注意点
36協定でよく聞く『特別条項』とは、一般条項で原則、上限月45時間・年360時間と定めた労働時間の延長を可能にした労使協定です。『特別条項付きの36協定』を締結すれば、臨時的な特別の事情で、超過労働をしなければならない場合に時間外労働の要請ができます。 特別条項は、法定労働時間や法定休日を超過した労働を強いるための一般条項よりも、さらに例外となるケースに適用されます。そのため縛りも増えてくるため、慎重に適用を進めましょう。
特別条項を適用する際の注意点は、次の通りです。
●臨時的に特別な事情があるケースのみ適用できる
臨時的な特別な事情とは、時間外労働を一時的又は突発的にしなければならないケースです。対象期間は1年の半分を超えてはならず、具体的な事由も限定されます。
[認められるケース例]
・予算、決算業務
・ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
・納期のひっ迫
・大規模なクレームへの対応
・機械トラブルへの対応
[認められないケース]
・特に事由を限定しないケース
(業務上やむを得ない、都合上必要、業務繁忙など)
・使用者が認めるケース
・明らかに年間を通じて適用されるケース
●上限時間の規制がある
- 時間外労働の合計は年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計は⽉100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計は2~6カ月平均のいずれも80時間以内
- 時間外労働が⽉45時間を超えられるのは、年6カ月が限度
●上限規制が猶予・除外になる業種がある
2024年3月31日までの猶予期間中のケースは、次のとおりです。
- 建設事業、自動⾞運転の業務、医師:上限規制は適用されない
- ⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業:時間外労働と休⽇労働の合計が、⽉100時間未満、2〜6カ⽉平均80時間以内とする規制は適用されない
- 新技術、新商品などの研究開発業務:上限規制の適用が除外
参考:『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』|厚生労働省
●36協定届の様式が変更
労働基準法36条の法改正に伴い36協定届の様式が変更となりました。『一般条項』と『特別条項付』で別々の様式に変わり、1日、1ヶ月、1年とそれぞれの時間外労働の限度時間を記入しなければなりません。
特別条項付の様式は、次の2点が追加されました。
- 『臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合』の欄に、残業時間を延長する事由を記載
- 『限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置』を記載
参考:時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|厚生労働省 東京労働局
事例から学ぶトラブル回避のポイント

裁量労働制と36協定は法で規制が強化されましたが、認識不足の誤った適用や法令をかいくぐった悪質な運用をしている企業もあるようです。ここでは、裁量労働制の導入後に発生しがちなケースを想定して、トラブル回避のポイントなどを紹介いたします。
●そもそもの裁量権が適用されていない
裁量権が適用されておらず、就業時間帯が厳しく決められていたり、任された業務は『専門業務型』と『企画業務型』の名目だけで判断され、実際は労働者の裁量性にマッチしていないケースなどがあります。後者で見られがちなのが、情報処理システム系の業務です。例えば『システムの分析・設計』と『システムの開発』では、専門性は全く異なるにも関わらず、会社側が判断できず任せてしまったというケースになります。
●実労働時間とみなし労働時間が乖離している
実労働時間とみなし労働時間が実態とあまりにもかけ離れている場合は、裁量労働制は適用されません。例えば1日の実労働時間が20時間にも関わらず、みなし労働時間が8時間と設定されている場合は、労働時間についての裁量の余地がないと判断されます。実労働時間とみなし労働時間の差は具体的には設けられていませんが、例えば残業時間の上限月45時間を超えてしまうのであれば、見直しの検討が必要でしょう。その際には、36協定の締結も必要になります。
●不当な残業を強いられていれる
36協定や特別条項付き36協定を、不当に締結している企業が稀にあるようです。例えば、終業のタイムカードの打刻後に業務を依頼したり持ち帰り残業させたりするケース。表面上は残業なしとしても、実際に残業させた時間で36協定の上限規制を適用しなければ違法になります。
裁量労働制は、時間外労働や残業代が発生しないと思われがちですが、時間外労働が発生する場合には、36協定の上限規制や特別条項の適用も必要になります。この関係性もしっかり押さえて、正しく裁量労働の導入を進めていただければと思います。
また、前述のような事態がもし発生していたら、メンタルヘルスの不調や長時間労働による疲弊も起こってしまうでしょう。裁量労働制の導入後には、メンタルヘルスやストレスチェックなどに加えて、従業員満足度調査なども活用することを推奨いたします。
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