『OJT』On-The-Job Trainingは、実務を通して知識やスキルなどを習得する人材育成の手法の一つです。OJTは多くの企業で導入されており、実際、厚生労働省の「令和3年度能力開発基本調査」でも、「正社員または正社員以外に対して計画的なOJTを実施した」と回答した企業は61.8%となっています。一方でOJTを導入したものの、うまくいかないと感じている企業の割合は75%以上というデータもあります。なぜOJTはうまくいかないのでしょう。そこで、ここではOJTがうまくいかない問題点、課題点を掘り下げて、OJTが効果的に機能するための解決策を探ってみます。
目次
OJTがうまくいかない要因とは

『OJT』On-The-Job Trainingを多くの企業が取り入れている現状から、その必要性を感じて導入を決めたものの、うまくいかない。あるいは、これまで通りのOJT運用では意味がないと言われたなど、課題を抱える人事の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
OJTがうまくいかない要因として考えられるのが、大きくは次の3つです。
- OJT制度・指導体制が整っていない
- OJTの形骸化・時代や環境変化に適応していない
- OJTトレーナーの育成をしていない
それでは、具体的な要因をみていきましょう。
1:OJT制度・指導体制が整っていない
OJTがうまくいかない要因としてまずあげられるのは、そもそものOJT制度が構築されてなく、上司の判断で現場のメンバーに業務のやり方を指示するよう任せているパターン。あるいは、OJT制度はあるものの体制が整っておらず、OJTトレーナーが育成計画から実行、評価など全ての過程を一人で担当しているケースなどがあります。こういった場合は、OJTトレーナーへの指導研修も行なわれておらず、現場での場当たり的な指導が多いようです。経営陣や人事OJT担当、現場の上司からのサポートは一切なく、OJTトレーナーが実務と並行してOJTを推進していけば、育成内容は不十分で『OJTは意味がない』と思わせてしまうでしょう。最悪は、トレーニーが放置されてしまうといった状況も発生してしまいます。
OJTの事前準備として、以下の項目の確認からを始めてみてください。
☑人事OJT担当や現場の上司と連携がなされ、指導体制の構築はされているか
☑人事OJT担当や現場の上司と育成計画が共有されているか
☑OJT の具体的な目標、達成するためのプロセスやゴールがイメージできるか
☑OJT トレーナーの選出は適切で、トレーニーとの相性は問題ないか
☑OJTマニュアルやガイドラインなどでOJT トレーナーの研修は終了したか
2:OJTの形骸化・環境変化に適応していない
OJTの必要性は感じてはいるが、OJT運用がいきずまり形骸化されているといった声も耳にします。OJTは、なぜ形骸化してしまうのでしょう。
形骸化が考えられる理由は、次の3つです。
1:OJT制度の目的が理解されていない
OJTを実施する目的を人事OJT担当や現場の上司、OJTトレーナー間での共有がなく、理解されないまま運用してるケース。
2:OJT制度の仕組みを決めず運用している
OJTの運用をするためのガイドラインなどがなく現場に丸投げしているため、OJTトレーナーが目先の業務を形式的に指導するパターン。
3:OJT制度の運用が硬直化している
何年も前に導入したOJT制度を今も変わらず、決まった通り、型通りに押しつけているケース。制度の内容も環境や状況によって進化させなければ無意味で、うまくはいきません。
日本でのOJTは、高度経済成長期の製造業を中心に浸透してきました。その後、バブルの崩壊、IT革命が訪れて、OJTの運用の仕方も変わってきています。特に、2020年以降のコロナ禍では、知識やスキルの習得方法だけでなく、働く人の価値観や働き方も大きく様変わりして、その状況下に適したOJTの運用が求められました。IT革命時代に適用していたティーチングやフィードバック手法が、今の状況に最適とはいえません。時代、時代、環境の変化に合せてOJTの運用方法や手法などを進化させないと、『OJTは意味がない』と捉えられてしまうでしょう。
3:OJTトレーナーの育成がされていない
OJTトレーナーのスキル不足はよくOJTのデメリットとされ、OJTがうまくいかない要因にされがちですが、そもそもは、OJTトレーナーの育成がなされていないことが根源といえます。通常業務が忙しく、OJTに関する知識や指導方法を習得するまでの余裕が無いというOJTトレーナーも多いと思います。企業側がOJTトレーナーを育成する体制を構築し、研修制度として仕組みに取りいれるのが重要です。
業務知識やスキルは、経験を重ね現場でフィードバックを受けながら身につけられますが、人材育成OJTの正しい指導方法は経験値だけで習得するのは難しいものです。OJTトレーナーの育成をしないまま、環境変化に適応しない形骸化したOJTを実施しても、無意味なだけです。間違った古いOJTではなく、トレンドに沿った手法でOJTトレーナーを育成し、能力不足を解消しておかなければ継続的なOJTの実現が難しくなります。
OJTは意味がない?その問題点の解決策とは

前述ではOJTがうまくいかない要因を探ってみましたが、ここでは『OJTは意味がない』という認識を覆すためにも、問題点、課題点、解決策などを見ていきます。
問題点の解決策としては、次の3つが考えられます。
- OJT制度の見直しと構築
- OJTにポジティブな社内文化の醸成
- OJTトレーニーへのサポート体制の構築
まずは、OJT制度の見直しと構築は、どのようにすればよいかを説明します。
1:OJT制度の見直しと構築
OJT制度が既に自社で敷かれている場合は、その内容が今の時代や環境とマッチしているかなどを見直しましょう。もしまだOJT制度が構築されていない場合は、企業理念や社風なども考慮してOJT制度の構築をしてください。
OJT制度の見直しと構築のガイドラインとして、次の7項目を参考にしてみてください。
- OJT人材育成のコンセプトの明確化
- OJTトレーナーの選出基準の設定
- OJTの目的、目標、プロセス、ゴールの可視化
- OJT指導方法、業務内容の検討
- OJTの期間、スケジュール確認
- OJT人材育成マニュアルの作成・運用
- OJT期間中のフォロー体制の構築
1:OJT人材育成のコンセプトの明確化
まずは、OJT人材育成のコンセプトを明確にしましょう。自社の理念や社風なども考慮して軸をブラさず、人材を育てるための一貫性がある育成コンセプトにするのがポイントになります。OJTを展開するに当たってのスローガンやキャッチフレーズなどを作成して、社員一丸となった取り組みであるアピールも大切です。
2:OJTトレーナーの選出基準の設定
OJT を成功させるカギとなるのが、OJT トレーナーといっても過言ではありません。選出基準として一般的なのは、入社3〜10 年目の社員。世代間ギャップの緩和や、違和感のないコミュニケーションを図れるのが理由のようですが、OJTトレーナーが持つ知識やスキルのほかに資質やモチベーションも重要です。人材育成のコンセプトを基に選出基準を具体化しておけば、有効的なOJTの実現が可能となります。
関連記事:OJT担当に求められる資質とは
3:OJTの目的、目標、プロセス、ゴールの可視化
OJT 終了後に習得できる知識やスキル、未来像などを明確にしておくのは大事です。いつまでに、どのくらいのレベルまで成熟させたいか考え、目標を立てます。そして、その施策はほんとうに有効的なのか、効果をイメージしながらゴールへ向かうプロセス、ゴールであるべき姿を可視化します。OJT終了後に、この一連の流れを明確に振り返えれる仕組みの構築が重要です。
関連記事:OJT のやり方・期間・スケジュールや進め方のコツを解説
4:OJT指導方法、業務内容の検討
OJTの対象者に合わせて指導方法や業務内容を検討します。例えば、新入社員対象のOJTであれば、ビジネスマナー、専門知識やスキルなどの習得も必要です。ただ、OJTは座学の教育には向いていないため、育成内容によって検討していかなければなりません。人材育成の制度設計に当たっては、OJTとOff-JTの組み合わせも考慮してより良い効果を目指していきましょう。
関連記事:OJTとOFF-JTの違い 割合や組み合わせ、メリット・デメリットを解説
5:OJTの期間、スケジュール確認
OJTの期間を検討します。対象者や職種に合せて、まずは半年から1年間などと期間を設定。その日から逆算して、『いつまでに』『なにを』『どのくらい』『どうやって』『どのような』状態までを目指すかといったスケジュールを計画します。余裕のあるスケジューリングやOff-JTとの連動なども考慮して、経営陣、人事OJT担当とも連携して検討するのがポイントです。
6:OJT人材育成マニュアルの作成・運用
OJT制度の大枠が決まったら、OJT人材育成マニュアルを作成します。基礎となる指導内容をガイドライン化することで育成内容を均質化でき、OJTトレーナーの指導力の差異を無くした運用が図れます。作成に当たってのポイントは、企業理念や戦略との連動が行われた内容にして、5W2Hを活用し意識づけと行動が強化できるようにしましょう。運用上問題が生じたり、方針が変更した場合は瞬時のアップデートが必要です。
7:OJT期間中のフォロー体制の構築
OJTフォロー体制の構築に当たっては、経営陣、人事OJT担当者、現場の上司、OJTトレーナーの意識の共有が非常に大切です。現場のOJTトレーナーに全てを任せてしまうのではなく、企業全体で推進していくモチベーションをもちましょう。OJTトレーナーに不足しているスキルを、上司や先輩、人事部門などが定期的な面談などでフォローできるような仕組みを構築しておくのも推奨します。
2:OJTにポジティブな社内文化の醸成

OJT研修の目的として、新入や転職者の知識やスキル強化などを掲げる企業が多いのですが、そこから一歩踏み込んだ『人を育てる組織づくり』も目指しているアピールは大切です。OJTの最終目的を人を育てる組織をつくるとすれば、OJTトレーナーだけでなく社員が一丸となって育成に対して肯定的になります。社員を育て組織を活性化させ企業の成長を目指すには、OJTに対してポジティブな社内文化を醸成するのが重要です。
人を育てる組織づくりをするために大切なのが、次の3点です。
- OJT経験でOJTトレーナーとトレーニーが成長する設計にする
- 現場のマネージャー・OJTトレーナー・トレーニーの3者構造にする
- 経営陣、人事も関わり組織全体でOJTを推進する状態にする
1:OJT体験でOJTトレーナーとトレーニーが成長する設計にする
トレー二ーにとってのOJTは、業務を推進するのために必要な経験の習得ができ、なんらかの成長が図れるはずです。一方、OJTトレーナーがOJTに対して良くない印象があったり、やらされ感の受け身の体制だと、OJTトレーナー自身が育たないことが多くなってしまいます。まずは、OJTトレーナーの心のなかから、負担とか大変というモチベーションを払拭させましょう。
OJTトレーナーという役割を担うために、新しい知識や技術を習得しなければならず、負担に思うかもしれませんが、自身の業務スキルの向上には必ずつながるはずです。人を育てる体験は大変かもしれませんが、後輩の成長が嬉しく感じられるようになり、OJTトレーナー自身は人として成長ができます。このような意識づけで、OJT人材育成に対してポジティブな感情を醸成するのが大事です。
OJTトレーナーとトレーニー両者の成長ができるOJT設計をするには、OJTトレーナー研修を実施して、OJTトレーナー自身にとってのメリットをアピールする必要もあるでしょう。
関連記事:OJT担当の役割 求められるスキル・能力や評価方法について
2:現場のマネージャー・トレーナー・トレーニーの3者構造にする
OJTは、OJTトレーナーが人材育成の研修の全責任を一人で担うのではなく、現場のマネジャーもその一旦に携わる仕組みづくりが重要になります。現場で訓練するOJTの場合、どうしてもOJTトレーナーに丸投げになり、責任を負わされがちです。現場のマネージャーも管理職としての立場から関わり、組織ぐるみで人材育成に取り組む姿勢を示すのが大事です。
OJTを実施している間は、どうしてもOJTトレーナーとトレーニーの一対一の時間が多くなり、時にはお互いの間で違和感が生じる場合もあるかもしれません。また、OJTトレーナーが問題と感じた事象に関して、客観的な立場からアドバイスができる3者構造にしておけば、正当にトラブル回避ができます。現場のマネージャーは当事者ではない3人目のポジションとして、重要な立場であると共有しておきましょう。
3者構造で具体的に実施するのは、次の3つです。
- トレーニーの育成計画の立案
- トレーニーの目標設定
- プロセスやゴールの確認
この3つを、OJTトレーナーとトレーニー、現場のマネージャーも含めて作成し実施していきます。第3者の意見を交えると、一方的な命令とは違いOJT人材育成の方向性や方針などの合意形成となります。また、現場のマネージャーはOJTトレーナーに、頻繁にヒアリングや面談をして現状の悩みを解決したり、OJTトレーナーの成長を促すアドバイスを行うのも大切です。
3:経営陣、人事も関わり組織全体でOJTを推進する状態にする
OJTのスローガンとして『人を育てる組織づくり』と掲げているのを、浸透させるのは
とても大切です。このメッセージにより、OJTトレーナーだけでなく、経営陣や人事、現場のマネージャーと共通の認識が図れ、OJTは組織全体のミッションであるという意識変革が起こせます。
OJTへの共通の意識が図れていない組織でありがちなのが、OJTトレーナーへの丸投げで、孤立感や業務負担が増し疲弊し、OJTトレーナーもトレーニーも育たないというケースです。このような問題を解決するために、組織全体でOJTに関わる体制を具体化できるようにしておく必要があります。
OJTトレーナー研修で、具体的な問題点や課題に基づいて、どこの部署のだれに、どうやって相談すれば間違わずにすむかシュミレーションをしておくと、有効的にOJTが推進できます。周囲にフォローしてもらうためのコミュニケーション術も身につけ、事前にOJTトレーナーの欠点がカバーできるサポート体制も構築しておくとよいでしょう。
3:OJTトレーニーへのサポート体制の構築

OJTがうまくいかない要因としてよくあげられるのが、OJTトレーナーへのバックアップ体制のないことですが、トレーニーに向けたサポート体制を構築しておくのも重要です。
フォロー体制の例として推奨したいのが、次の3つです。
- サーベイ調査を定期的に実施
- OJTトレーナーとトレーニーの合同研修
- トレーニー同士のコミュニケーションの場を構築
1:サーベイ調査を定期的に実施
OJT中のトレーニーの状態を把握しておくために、短いスパンで回答するサーベイを導入してうまくいったという事例もあります。
その事例には、次のようなものがありました。
・サーベイ結果を基に、適切なタイミングでサポートができた
・テレワークで分かりにくかったトレーニーの現状を見える化できた
・OJTトレーナーに直接は言いづらかった問題点が、サーベイで回答できた
・トレーニーの状態が可視化でき、OJTトレーナーの課題点が明確になった
・サーベイ結果を見ながら1on1を行えるので、対話がスムーズになった
サーベイ調査は、トレーニーの意欲や進捗が可視化され、状態に応じて適切なフィードバックやフォローが行えます。定期的に実施して、OJTがうまくいった企業の事例も多いです。
2:OJTトレーナーとトレーニーの合同研修
OJTが経過して、数カ月のタイミングでOJTトレーナーとの合同研修を行ない、トレーニーが自身の課題点に気づいたという事例も、よく聞きます。トレーニーが「OJTは意味がない」と感じる理由には、OJTを通じた成長実感がないことが多いため、合同研修で意識改革を図りましょう。
合同研修であげられるテーマは、次のようなものです。
- 成長実感の共有:OJTトレーナー、トレーニーの両者がOJTを振り返り自身の成長を認識し、つぎのフェーズの行動を強化する
- 相互理解:合同研修で、OJTトレーナーとトレーニーの両者の想いを共有し、お互いの理解を深める
- 成長支援:OJTトレーナーは今後の指導方針を伝え、トレーニーはどのような成長を果たしたいかを共有する
合同研修を行うと、OJTトレーナーとトレーニーの両者が自身の成長を実感する機会がもてます。これまでのOJTは無駄で無意味という意識から、OJTがうまくいっているというモチベーションに変わるでしょう。
合同研修とまでいかなくとも、OJT中にトレーニー同士が気軽にコミュニケーションを取りあえる場を構築しておくのも大切です。
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OJT人材育成の制度は敷いてはいるものの、なかなか仕組みとしてうまくいかない、OJT人材育成が社内文化、風土として育たないというお話もよく聞きます。制度や仕組みはつくるだけではなく、それを育み醸成し進化させていくものですが、その過程では難しさに直面することもあるでしょう。もし、OJTトレーナーやトレーニーが制度や仕組みに対して受け身であれば、ポジティブに捉えるモチベーションに変えなければなりません。リアルワンはそんな企業さまの課題解決のために、『従業員満足度調査(ES調査)』も実施しています。
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