「構造化面接」という面接手法をご存知でしょうか。あのGoogleが採用していることで注目が集まるこの面接手法は、面接者による評価のバラつきを抑え、採用面接の質をあげる効果があります。しかしその一方で、導入する企業があまり多くないといった現実もあり、導入を迷われている採用担当者の方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、構造化面接とはどのような面接手法なのかを解き明かし、そのメリット・デメリット、そしてカギとなる「質問」の具体例について詳しく解説していきます。
目次
構造化面接とは | 面接手法3つの種類
構造化面接とは、どのような面接手法なのか。ここでは、3つの面接手法を比較しながら解説します。
構造化面接の定義
構造化面接とは、人材要件を明確にした上で、事前に準備した「評価基準」や「質問」をもとに、手順通りに進めていく面接のことです。あらかじめ決められた評価基準や質問にそって面接を進めていくため、「誰が面接者になっても安定した評価が得られる」といった特徴があります。構造化面接を採用面接に導入することで、面接者の判断基準を標準化し、採用面接の質を高めることができるのです。
構造化面接の目的
構造化面接の目的は、採用面接における面接者ごとのバラつきをなくし、自社にマッチする優秀な人材を見極めることにあります。面接の際、最も避けなければならないものとして、面接者の直感や経験からくる「先入観・思い込み・固定観念」といった「認知バイアス」があります。認知バイアスは、意識して取り除こうと思っても完全に取り除くことは難しいのが現実です。
認知バイアスによる優秀な人材の採り逃しは、企業にとっては大きな損失。その方策として、採用面接に認知バイアスが入り込みにくい「構造化面接」が注目を集めているのです。
構造化面接は臨床心理学におけるアプローチ方法
構造化面接は、もともと臨床心理学において、カウンセラーがクライエント(相談者)をアセスメント(客観的な評価・分析)するためのアプローチの方法です。あらかじめ決められた一定のマニュアルにそって面接が構成され、高い客観性と信頼性を持つ技法として用いられています。
臨床心理学の世界では、「標準化面接」「指示的面接」とも呼ばれ、「特定の疾患や症状の分析ができる」「個人間の比較を行いながら診断できる」「評価方法が明確であり信頼性と妥当性が検証できる」として、古くから活用されている面接手法なのです。
採用面接においても、応募者の特性や現状を把握することは極めて重要なポイント。臨床心理学の世界で活用されている構造化面接を採用面接に取り入れることで、人材要件に則した応募者の見極めが可能になるのです。
非構造化面接・半構造化面接との違い
面接手法には、構造化面接の他に「非構造化面接」と「半構造化面接」があります。ここでは、構造化面接との違いを解説します。
非構造化面接とは
非構造化面接とは、事前に質問を準備せず、大まかなテーマにそって面接者が自由に質問していく面接手法です。採用面接を受ける応募者の自由な回答を促す、いわゆる「開かれた質問」が用いられます。応募者の反応を見ながら質問を変えたり、その場の状況に応じた質問をしていきます。簡単にいうと、「ざっくばらん」な面接といったイメージ。事前に質問を準備し、手順通りに行う構造化面接とは真逆の面接手法です
非構造化面接は自由に発言できることから、応募者の意外な一面を見ることができたり、自社の魅力を伝えやすいといったメリットがあります。その反面、質問項目や手順が決まっていないため、面接者の面接スキルに左右されやすく、認知バイアスが入り込みやすいといったデメリットがあります。
半構造化面接とは
半構造化面接とは、構造化面接と非構造化面接の良いところを取ったハイブリッド型の面接手法です。事前に準備した質問を行った上で、応募者の回答や状況に応じて面接者が自由に質問をしていくというものです。構造化面接ほど手順に縛られることなく、非構造化面接ほど面接者の面接スキルに左右されることのない面接手法になります。
一定の決まり事を持ちつつも、ある程度の自由度があるため、面接の方向性を保ちながら応募者の情報を引き出すことが可能になります。柔軟性があるため、和やかな雰囲気で面接を行えるのもメリットです。ただし自由度があるがゆえに、面接の方向性を保つこと、また面接目的を満たすことについて、面接者の面接スキルに負うところが大きいといったデメリットがあります。
Googleの採用で注目される構造化面接
構造化面接が注目されている背景のひとつに、Googleが採用面接に導入しているということがあります。Googleは、自ら実施した人事に関する調査結果や専門家のアドバイスを掲載するサイト「Google re:Work」で、「構造化面接を実施する」と謳っています。
Googleの採用面接で思い出すのは、「ボーイング747の中にゴルフボールはいくつ収まりますか?」、「もしあなたが、5セント硬貨と同じ大きさに縮んでミキサーに入れられたとしたら、どうやって脱出しますか?」などの難問奇問です。しかし、このような難問奇問は仕事をする上で的外れであり、仕事でどのような業績を示すかということと、難問奇問を解く能力との間に相関関係はないということを、その後の検証で明らかにしています。
そして今では、「Googleでは構造化面接を採用しています。つまり、すべての応募者に同じ質問をして、同じ尺度で回答を採点し、事前に決められた一貫した採用要件に基づいて採用を決定しています」と、自ら示しているのです。
構造化面接のメリット・デメリット
このように、Googleも採用している構造化面接ですが、そのメリットとデメリットを見ていきましょう。
構造化面接のメリット
構造化面接を採用面接に取り入れるメリットは、次の通りです。
① 評価のバラつきを抑えられる
構造化面接は、事前に評価基準を設定し質問を準備して進めていくため、面接者の経験や面接スキル、認知バイアスによる評価のブレを抑えることができます。これは応募者にとっても、大きなメリット。公平な基準で、面接の合否を判断してもらえるという安心感につながります。
② ミスマッチを防止できる
企業が求める人物像や必要なスキルといった、「採用する人材の要件定義」に則して行うのが構造化面接です。要件定義にそった質問をすることで、自社に合った人材を見極めやすくなり、ミスマッチを防止する効果が期待できます。
③ 採用面接を効率化できる
構造化面接は、採用面接で質問する内容が事前に決まっています。また、面接手順もマニュアル通りに進めていくため、効率的に面接を行うことができます。さらに、評価基準も明確になっているため、合否の判断についても迷うことが少なく、採用面接を効率化できるのです。
構造化面接のデメリット
では、構造化面接のデメリットとは、どのようなものなのでしょうか。
① 事前準備に時間がかかる
構造化面接は、事前の準備が重要であるため、導入には相応の時間を要します。人材の要件定義をはじめ、評価基準や質問の設定など、導入には多くのステップが必要です。また、面接担当者が一貫性のある評価を行えるよう、トレーニングも欠かせません。様々な環境変化に応じて変更を加えていくことも、重要なポイントです。この「事前準備に時間がかかる」といったデメリットが、構造化面接を導入する企業が少ないという大きな理由になっています。
② 応募者の意外な一面・自由な発想に気づきにくい
「準備された質問に対する回答以上の情報を得にくい」というのが構造化面接の負の側面です。応募者に応じた質問をしないため、応募者の意外な一面、そして自由な発想に気づきにくいこともデメリットのひとつです。
③ 面接の雰囲気が固くなる
構造化面接は、事前に決まった質問を決められた手順で進めていく面接手法であるため、面接の雰囲気がどうしても固くなりがちです。応募者によっては尋問されている感覚になり、応募先企業に対してネガティブな印象を持ってしまう可能性があります。アイスブレイクを適切に織り込むなど、できるだけ固くならない雰囲気づくりが求められます。
構造化面接のやり方
ここでは、実務として構造化面接を実施していくための「やり方」と、カギになる「質問」について解説します。
構造化面接の進め方「6つのステップ」
構造化面接の進め方を「6つのステップ」に分けて解説します。
ステップ1:採用する人材の要件定義を行う
まずはじめに、どのような人材を採用したいのか要件定義を行います。人材の要件定義とは、企業のビジョンやパーパスを実践していく人材の能力やスキルを定義したもの。例えば、リーダーシップやマネジメント能力、高い専門性など、企業が求める人材像を決めていきます。
ここで意識したいのは「コンピテンシー」です。「高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性」を意味するコンピテンシーは、自社で活躍する人材を具体的に定義する際に役立ちます。重要なことは、「能力・スキル・知識・実績」といった顕在的な力だけではなく、「価値観・行動習慣・適性・モチベーション」といった潜在的な力まで意識することです。このコンピテンシーについては、「コンピテンシーとは?意味や使い方、能力やスキルとの違いについて」で詳しく解説しています。ぜひ、ご一読ください。
ステップ2:評価基準を設定する
人材の要件定義にそって、評価項目と評価基準を設定します。求める人材の能力やスキル、特性をどう評価するのか、どのレベルから採用するのかなど、評価項目に対する評価基準を明確化していきます。評価の尺度を「非常に良い」「良い」「普通」「悪い」などで明確に区分し、わかりやすく言語化します。
例えば、評価項目が「リーダシップ」の場合、高いパフォーマンスを発揮する人材を参考に「非常に良い」「良い」「普通」「悪い」など4~5段階で評価の尺度を設定、どの段階から採用するのかを明確化しておきます。
ステップ3:面接の質問を決める
採用したい人材を評価するための質問を決定します。どのような質問をすれば人材要件を見極めることができるのか、評価項目や評価基準をもとに質問内容を決めていきます。質問は「導入部」「フォローアップ」の2つに分けられます。
「導入部」とは、評価項目ごとの起点となる質問のことです。面接が始まったら、まず評価の導入部となる質問を行いましょう。次に、導入部の質問で得られた回答をもとに、その回答をさらに深掘りする「フォローアップ」の質問を行います。応募者の回答を深く掘り下げていくことで、潜在的な力を見極めることができるのです。
ステップ4:質問のテストを行う
面接の質問内容が決まったら、質問のテストを行いましょう。決定した質問をテストすることで、構造化面接が成立するのかを確認することができます。事前テストを行う中で、必要に応じて質問内容を調整していきます。
ステップ5:面接者のトレーニングを行う
構造化面接をスムーズに実施するためには、面接者のトレーニングも重要です。構造化面接に対する理解を深めること。また、評価基準や質問の落とし込み。さらには、リラックスした雰囲気作りなど。ロールプレイを行いながら、本番前に問題点を修正していきます。
ステップ6:採用基準をもとに合否を判断する
いよいよ採用面接の本番。応募者に対して、準備した質問を投げかけながら構造化面接を実施します。面接が終了したら、評価基準をもとに合否を判断します。
構造化面接の質問例
構造化面接のカギとなる質問。ここでは、その質問例を紹介します。構造化面接の質問は、①「行動」に基づく質問と、②「仮説」に基づく質問の2種類に分けられます。
① 行動に基づく質問
過去の実績について、どのような行動・対処をしてきたのか、「〇〇のときのことを話してください」と問う質問のことです。応募者が過去の状況に対して、どのように対処したのかを評価するために行います。行動パターンを検証する際に有効です。
導入部
- あなたの行動がメンバーに対してプラスの影響を与えたときのことを話してください。
- あなたのチームが抱えていた課題はどのようなものだったのか話してください
- チーム内であなたが担った役割を話してください
フォローアップ
- そのときの目標はどのようなものでしたか
- なぜその目標を立てたのですか
- どのような行動をとりましたか
- メンバーの反応はどうでしたか
- その結果どのような成果を得ましたか
- 今後の目標はありますか
② 仮説に基づく質問
職務に関連した仮説の状況、「もし〇〇だとしたら、あなたはどうしますか?」と問う質問のことです。応募者が将来の状況について、どう対処するのかを評価するために行います。問題解決力や論理的思考力などを検証する際に有効です
導入部
- もしあなたが〇〇サービスの営業担当者だとしたらどのように販売しますか
- もし新人がチームに馴染めていないとしたらあなたはどのように対処しますか
- もしあなたが〇〇の広報担当者だとしたら認知度アップのためにどのような戦略をとりますか
フォローアップ
- なぜその方法を取ろうと考えるのですか
- その方法のメリットとデメリットは何ですか
- その対応をどのようにして評価しますか
- チームのメンバーに対してどのような役割を与えますか
- 組織全体への影響はどのようなものでしょうか
- 他の戦略案はありますか
上記の質問例は、あくまでも参考でしかありません。自社の評価項目や評価基準に照らして、応募者の適性を見極める質問を考えておきましょう。
構造化面接は採用の人材要件に合わせて準備する
構造化面接を適切に運用していくためには、「人材要件」を明確にする必要があります。人材要件とは先に述べた通り、どのような人材を採用するのか定義したもの。採用活動のベースとなる基本条件です。構造化面接は、この人材要件に合わせて準備する必要があります。また構造化面接は、一度構築したら終わりというわけではありません。求める人材が変われば、評価項目や評価基準も変わります。人材要件の変化に合わせて構造化面接を再構築する必要があります。その他にも、構造化面接を実施するには注意点があります。
- 難問奇問を避ける
- 質問は定期的な見直しが必要
- 他のアセスメントと組み合わせて活用する
難問奇問については、構造化面接の質問として適切ではないためNGです。また、人材要件が変わらなくても質問内容が外部に漏れる可能性があります。質問の定期的な見直しは必須です。最後に、構造化面接は絶対的な面接手法ではありません。メリットがあれば、デメリットもあります。その特性を理解した上で、他のアセスメントツールを組み合わせるなど、デメリットをカバーするようにしましょう。応募者から受ける「逆質問」の時間を多くとるのも、デメリットのカバーに効果的です。
構造化面接を活かすには自社の状況把握を!
構造化面接は、評価のバラつきを抑え、面接の質をあげる大きな効果があります。しかし、適切に運用していくには人材要件を明確にするなど、多くのステップをクリアする必要があります。そのためには、まず自社の状況把握が欠かせません。自社の状況を的確に把握するには、「従業員満足度調査(ES調査)」や「エンゲージメント調査」といったサーベイが役立ちます。
「従業員満足度調査(ES調査)」は、社員一人ひとりの満足度を調査することで、組織の現状と課題を把握できます。また「エンゲージメント調査」は、社員がどのくらい積極的に仕事へ関わろうとしているかを測る調査。組織の活性化具合を明らかにします。どちらの調査も、自社の状況を把握するには大変効果的なサーベイです。
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