「人材」は「人財」とも表現されます。少子高齢化で人材不足が叫ばれる昨今。人材はまさに、企業にとって貴重な財産であり、人材を資本として捉え投資していこうとする「人的資本」の考え方が注目されています。これから起こる様々な変化を乗り越え、企業が成長を続けるためには、社員を継続的に育成していく「人材育成」が欠かせないのです。そこで今回は人材育成にスポットをあて、その目的や方法、具体例を紹介すると共に、人材育成マネジメントの重要性について解説します。
目次
企業における人材育成とは

企業における「人材育成」とは、社員を企業の成長に貢献できる人材として育てることです。経営戦略を実行し経営目標を達成するためには、社員の力が必要不可欠。そこで重要になるのは、社員一人ひとりにビジョンやパーパスの理解を促し、持っている実力を適材適所で発揮できる人材として育てることなのです。
人材育成によって成長する社員の力は、企業そのものの力となります。それが、他社にはない企業独自の強みとなり、市場での優位性となるのです。社員のポテンシャルが人材育成によって引き出され、それが企業のポテンシャルを高めて可能性を広げていく。このように、人材育成は社員の成長を促すと共に、企業の成長をも促進させる重要な取り組みなのです。
人材育成の必要性

では、今なぜ人材育成が必要とされているのでしょうか。ここでは、その背景を考察します。
最も大きな理由は、やはり「人材不足」でしょう。少子高齢化により、日本の生産年齢人口(15~64歳)は減少の一途を辿っています。このような中で、自社の社員を人材として成長させていく人材育成が注目されているのです。変化が激しく不確実性の高い時代。先が見え難い時代にあって、テクノロジーは進化し消費者のニーズは多様化しています。そこに正解はなく、不透明な状況において「最適解」を導き出すことが重要になっています。そこで求められているのは、スペシャリスト。何でも平均的にこなすゼネラリストではなく、スペシャリストが求められる時代となったのです。人材不足の今、スペシャリストは自社で育てる必要がある。このような労働環境の変化が、人材育成の必要性を高めているのです。
さらに、もうひとつの理由として、働き方の多様化があります。オンラインによる在宅勤務の普及。自分の時間を大切にしたいというワークライフバランスの広がり。副業やWワークといった働く自由度の拡大。働き方の多様化は常態となり、加えて人材の流動性が高まっています。転職は当たり前になりつつあり、労働力が不足している企業にとっては、社員の離職防止が急務となっています。働き方の多様化に柔軟に対応しつつ、人材育成を行い社員の離職を防止する。人材育成が必要とされる背景には、こういった理由があるのです。
人材育成のポイント~大切なこと・考え方

ここでは、人材育成のポイントを解説します。
目標を明確にする
人材育成を効果的に行うには、「目標を明確にする」必要があります。人材育成における目標とは、自社の経営戦略を実行し、経営目標を達成していく「求める社員像」を設定し、その育成プロセスを決定することです。求める社員像をしっかり描くことで、育成プロセスを考えやすくなります。尚、求める社員像には、企業の「将来」を反映させることが重要です。企業の方向性、そしてビジョンやパーパスを折り込みながら、求める人材像を設定し、目標を明確にすることが人材育成をより効果的なものにしていくのです。
中長期的な視点を持つ
人材育成は、「中長期的な視点」が大切です。企業の成長に貢献できる人材を育成していくには、時間がかかります。早急な結果を求めることはNGです。人にはそれぞれ、「強み・弱み」「長所・短所」があります。スキルの習得も「早い・遅い」があるでしょう。しかし、それも「個性=特性」なのです。その「個性=特性」をプラス思考で活かしながら、中長期的な視点を持って人材育成を行っていく。人材育成は、「数ヶ月・数年」といった中長期的な視点で見守る姿勢が大切です。
階層別に人材育成研修を行う
人材育成といっても、育成する社員は様々。一括りにはできないし、してはなりません。新卒もいれば管理職もいる。求められるもの、育成研修に臨むスタンス、モチベーション。それぞれ違うでしょう。人材育成は、「階層別」を意識する必要があります。階層別に人材育成を計画し、各階層をしっかり意識した育成方法や研修を取り入れ実施するようにしましょう。社員一人ひとりのスキルアップ、そして企業全体の組織力アップにとって、より高い効果を発揮するはずです。
社員の育成環境を整備する
人材育成を行うにあたっては、「社員の育成環境を整備する」ことが重要です。前項までに述べてきたことを踏まえ、人材育成を制度として整備し、導入・実施していきます。成長した社員を正当に評価する「人事評価制度」の構築も欠かせません。まずは、自社の人材育成に関する課題を抽出し、その課題に向き合いながら社員の育成環境を整備していきましょう。
※人事評価制度については「人事評価制度とは?目的や作り方、事例を紹介」で詳しく解説しています。
人材育成の目的

企業の成長にとって不可欠ともいえる人材育成ですが、その目的を整理してみます。
社員のキャリア形成支援
キャリア形成とは、社員自らが立てたキャリアプランに沿って、経験や実績を積みながら「エンプロイアビリティ(雇用されうる能力)」を高めていくことです。終身雇用・年功序列といった日本型雇用の限界が見える中、社員は自分のキャリアを自律的かつ主体的に考えていく時代になり、企業は社員のキャリア形成を支援していく時代となりました。それは、エンプロイアビリティの高い社員を育成することが、企業の成長や活性化に直結するからに他なりません。社員のキャリア形成を継続的に支援していくことが、企業の成長につながる。新しい時代の社員と企業の関係性のあり方です。
※キャリア形成については「キャリア形成とは?考え方やサポートの方法について」で詳しく解説しています。
企業の成長促進
企業が継続的に成長するためには、利益を上げ続ける必要があります。そしてそれを実践するのは、社員なのです。社員を大切な資本と捉え投資していこうとする「人的資本」の考え方も、企業価値の向上と成長が主な目的。人材育成は、その投資に当たる取り組みのひとつです。企業の成長促進は、職務を遂行する社員の人材育成によって可能になります。ビジョンやパーパスを社員と共有し、共に伴走することが新しい時代の経営の形であり、企業を継続的に成長させていくのです。
※人的資本については「人的資本経営とは/なぜ注目されるのか、事例やメリットも紹介」で詳しく解説しています。
次世代リーダーの育成
変化の激しい時代にあって、企業が生き残り継続的に成長していくためには、組織を力強く引っ張るリーダーの存在が欠かせません。人材育成は、このリーダーを育成する役割もあります。将来を見通すことが難しく、価値観が多様化する時代。日々変化する状況の中で最適解を導き出し、多様な価値観をまとめ上げた先にイノベーションがあり、利益の最大化があり、企業の成長がある。その核となるのが「次世代リーダー」なのです。人材育成による次世代リーダーの育成は、これからの時代に企業が成長を続けるため必要不可欠な要素なのです。
※次世代リーダーについては「リーダーを育成・教育する方法/次世代リーダーの育て方」で詳しく解説しています。
生産性向上
日本の企業は、労働生産性が低いと言われます。業界によるバラツキはあるにせよ、生産性の低い業界があるのは事実でしょう。少子高齢化により生産年齢人口が減少し、労働力不足に直面することは避けて通れません。様々な業界が生産性の向上を目指すのは、ある意味当然のことと言えます。AIやIoT、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)の導入など、テクノロジーの活用はひとつの方法です。しかし、テクノロジーを効果的に活用し価値に変換していくのは人材なのです。テクノロジーに対応するスキルを身につける「リスキリング」は必要でしょう。しかしそれ以上に、人材育成によって社員一人ひとりのポテンシャルを引き出していくことが、より大きく生産性の向上に貢献する。人材育成の大きな目的です。
離職防止
先に述べた通り、日本型雇用は限界が近づいています。さらに、働き方が多様化し転職が特別なことではなくなった今、雇用の流動性はますます高まっていくでしょう。加えて、生産年齢人口の減少です。これから先の労働力をどう確保していくのか。多くの企業にとって極めて重い課題です。だからこそ、社員の離職防止対策が重要なのです。人材育成によって社員の自律的なキャリア形成を支援し、企業が社員と共に成長する環境を整備していく。これが社員と企業との信頼関係を深め、離職防止につながります。人材育成に取り組むことは、社員の離職防止にも大きな効果を発揮するのです。
※社員の離職防止については「社員の離職防止対策/離職率を下げるには」で詳しく解説しています。
人材育成の方法

ここでは、人材育成の方法について解説していきます。
OJT
OJT(On the Job Training)とは、先輩社員や上司がトレーナーとなり日常業務を指導していく人材育成の方法です。現場で実務を行いながら、必要な能力を身につけていきます。対象者は、主に新入社員。基本的な実務能力や、仕事のノウハウを習得します。OJTの主な目的は3つ。「即戦力の育成」「指導者の育成」「採用力・組織力の強化」です。OJTは多くの企業で導入されている人材育成であり、最もスタンダードな方法なのです。
※OJTについては「OJTとは? 制度の目的や具体例、メリット・デメリットを解説」をご覧ください。
Off-JT
Off-JT(Off the Job Training)とは、日常業務から離れて行う人材育成の方法です。集合研修やオンライン講座などを通して、実務知識や専門知識の習得を目指します。主な対象者は、新入社員から中堅社員と幅広く、様々な社員が対象となります。現場から離れ日常とは違った環境で学ぶため、社内で学ぶことができない部分を補完することができます。集合研修では他社の社員と接する機会もあり、新たな刺激を受けることで成長のきっかにもなるでしょう。
※Off-JTについては「OJTとOFF-JTの違い 割合や組み合わせ、メリット・デメリットを解説」をご覧ください。
SD
SD(Self Development)とは、自己啓発のこと。社員自らが、主体的に能力やスキルの向上を目指す取り組みのことです。スキルアップを目的として、社内外のセミナーに参加したり資格を取得したりと、社員自身が学習内容や時間を自律的に決定し、学びを深めていきます。企業に中には、自己啓発にかかる費用を制度として補助するケースもあり、社員の自己啓発を支援する動きが広がっています。
eラーニング
eラーニングとは、インターネットを活用した人材育成の方法です。社員はオンラインによって、「好きな時・好きな場所」で学習することができます。自分のペースで学べるため、理解度に合わせて学習できるのが大きな魅力です。最近はSDとeラーニングを組み合わせる企業もあります。ただ、社員が自らを管理する必要があるため、モチベーションの維持が課題です。
会社における人材育成の具体例

ここからは、人材育成を取り入れている企業の具体例を見ていきます。
株式会社ユー・エス・ジェイ
ユー・エス・ジェイでは、SD(自己啓発)を中心に人材育成を行っています。様々な役職や職種に対して、必要になる知識やスキルを積極的に学べる環境を提供。技術者向けには「Tech Academy」、飲食関係者向けには「Food Academy」といった教育制度を準備し、階層や職種に応じた知識やスキルの習得環境を提供しています。さらにeラーニングも導入し、社員のSDへの取り組みをサポートしています。
スターバックスコーヒージャパン株式会社
スターバックスコーヒージャパンでは、OJTを人材育成の柱にしています。正社員やアルバイトを問わず、80時間のOJTを実施。スターバックスの企業理念やミッション、そして歴史をじっくり学んでいきます。店舗に立つスタッフが「お客様のための接客」を意識しているスターバックス。その実践に向け、グループワークやワークショップでスタッフ同士がお互いの考え方に共感する機会を提供。自分で考え、そして相手の考えを尊重する意識をOJTで学びながら身につけています。
人材育成マネジメントの重要性

人材育成によって社員の成長を促すことが、企業の成長につながるということがわかりました。しかし、人材育成は即効性があるわけではなく、社員を中長期的に育成していくという姿勢が重要です。中長期的にわたって社員の成長を支えるためには、人材育成を管理していく「マネジメント」が欠かせません。言い方を変えれば、人材育成を適切にマネジメントしてこそ、社員と企業の成長を実現できるということ。では、人材育成に必要なマネジメントスキルとは、どのようなものでしょうか。
目標管理能力
OJTやOff-JT、SDに取り組む社員のモチベーションを喚起し、日々前向きに業務、そして目標達成に向き合えるよう管理する能力が求められます。
ファシリテーションスキル
ファシリテーションスキルとは、本来会議を円滑に進行するスキルのこと。しかし、その内容は「コミュニケーション能力・論理的思考力・理解力・傾聴力・質問力・交渉力」といった、物事をマネジメントしていくために不可欠なスキルばかり。ファシリテーションスキルは、人材育成の適切なマネジメントに活かせるスキルなのです。
育成力
企業における育成力とは、ズバリ「部下を育てる能力」のことです。そのためには、仕事の全体像を理解し、必要となる能力やスキル、そして仕事をする上で欠かせないマインドまで、トータルでマネジメントする力が求められます。ただし、主役はあくまでも部下です。部下に対して、自律的かつ主体的な行動を促すかかわり方が求められるのです。
企業の現状と課題の把握が鍵

社員の成長、そして企業の成長にとって、人材育成が極めて重要であることを見てきました。また、中長期的な視点に立って社員の成長を支援し、人材育成をより効果的なものにするには、マネジメントが必要不可欠であることを解説しました。最後に、人材育成には2つの側面があることを紹介します。ひとつは今回解説した、「社員と企業の成長」という側面。そしてもうひとつは、「企業の現状と課題の把握」という側面です。この2つは、表裏一体の関係性にあります。
人材育成を行い社員と企業が成長していくためには、人材育成によって解決したい課題を把握する必要があります。自社の現状、そして自社が抱える課題を把握し、そこをどう解決していくのか、組織の未来像を描くことが大切です。それを人材育成に落とし込み、達成したい目標を明確にしていく。「社員と企業の成長」という側面の裏には、「企業の現状と課題の把握」という極めて重要な側面があるのです。
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