従業員満足度が上がると、人材の定着やチーム・個人のパフォーマンス向上による生産性向上、顧客満足度の向上、イノベーション創出など多様なメリットが期待できます。経営指標の一つとして定期的にモニタリングしている企業も増えていますが、人事担当の悩みとして多いのは、どのようなことに取り組めば従業員満足度が高まるのかという点です。
本記事では従業員満足度が高い企業の取り組み事例を紹介するとともに、共通する特徴や具体的な施策例を解説します。ぜひ参考にしてください。
【本記事で得られる情報】
・従業員満足度が高い企業の取り組み
・従業員満足度が高い企業の共通する特徴
・従業員満足度を高めるための施策例
・従業員満足度調査を成功させるためのポイント
目次
2024年版「働きがいのある会社」ランキング企業の取り組みとは

世界約150カ国で「働きがいのある会社」を調査・分析しているGreat Place To Work®では、アンケート結果をもとに、特に働きがいの水準が高い企業を「働きがいのある会社」ランキングとして公表しています。
ここでは、Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)が発表した「2024年版 日本における働きがいのある会社」から、1位にランクインした企業の取り組みを見ていきます。
参照:株式会社働きがいのある会社研究所|2024年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100
調査・評価専業の「リアルワン」では、従業員満足度調査を活用して効果を上げている企業様の事例を多数紹介しています。こちらもぜひ参考にしてください。
【大規模企業(1,000名以上)】1位:シスコシステムズ
シスコシステムズは、米国に本社があるコンピュータネットワーク機器開発・販売の大手企業です。「働きがいのある会社」大規模部門では2023年版に続き、2年連続の第1位となっています。
働きがいの評価ポイントとなったのは次の3つです。
- 仕事に行くことが楽しみである
- 報酬に対する納得感が高い
- 経営・管理者層は適切に人材配置している
取り組み例として、次の内容が紹介されています。
- 聴くスキル向上や双方向フィードバックのトレーニングを実施してオープンコミュニケーションを推進
- Hybrid新年会、Family day、I&C monthなどのイベントを通じて、オンライン・オフラインの体験を最適化
- 従業員が自律的に選択できる多様な働き方の推進
同社は従業員の働きがいを高めるため、早くからカルチャー(企業文化)・プロセス(制度)・テクノロジーの3要素を基本に取り組みを進めてきました。ハイブリッドワークへの移行が進む中で、最新のテクノロジーを活用しながらワークスタイルの最適化を図っているといいます。
参照:シスコシステムズ|シスコ、2024年版 日本における「働きがいのある会社」第1位に選出
【中規模企業(100~999名)】1位:コンカー
コンカーは、出張・経費管理や請求書管理のクラウドサービスを提供する会社です。全世界で約9300万人が利用し、日本の経費精算市場:ベンダー別売上金額で9年連続のトップシェアを誇ります。
同社の働きがいの評価ポイントとなったのは次の3点です。
- 仕事に行くことが楽しみである
- 経営・管理者層は適切に人材配置している
- 経営・管理者層は適切に採用している
従業員満足度を上げる取り組みとして、次のことを行っています。
- 社員一人ひとりの成長の源となる「フィードバックし合う文化」を根付かせる(『今日、フィードバックもらった?』をキャッチコピーに、安心してフィードバックし合える環境づくりを推進)
- 部門・役職を超えた交流「タコ活」の促進でハイブリッドワークでも深くコミュニケーションできる機会を創出
働きがいを高める「コンカー流フィードバック」の取り組みは、初めはトップダウンでスタートしましたが、現在は従業員が自ら立案・実行するまでに成長したといいます。
参照:コンカー|コンカー、「働きがいのある会社」ランキング(中規模部門)にて 7年連続で1位を獲得、10年連続でベストカンパニー賞を受賞
【小規模企業(25~99名)】1位:あつまる
あつまるは、マーケティングDXと新卒採用マーケティングDXを中心にDXソリューション事業を展開している会社です。3年連続の1位で、女性部門や若手部門においても上位にランキングした実績があります。
同社の働きがいの評価ポイントとなったのは次の3点です。
- 福利厚生・メリットが充実している
- 仕事に行くことが楽しみである
- 経営・管理者層は適切に人材配置をしている
従業員満足度を上げる取り組みとして、次のことを行っています。
- 全社員のビジョンと会社の経営計画を連動させる「個人ビジョン経営」を実践(全社員がビジョンシートを作成して、社長・役員と「超個人面談」を実施 )
- 大切にしている価値観を「フィロソフィBOOK」にまとめて配布。共有する場も設けている
従業員一人ひとりが自分自身のビジョン実現のために挑戦できる環境をつくっているところが、同社の大きな特徴です。従業員が自走する個人ビジョン経営により、継続的な成長を実現しています。
参照:あつまる|2024年版 日本における「働きがいのある会社」 全国1位に『3年連続』で選出いただきました
従業員満足度が高い企業に共通する5つの特徴

従業員満足度が高い企業には、大きく5つの共通する特徴があります。一つずつ見ていきましょう。
従業員が主体的に行動している
従業員満足度が高い企業の従業員は、主体的に考え行動しているという特徴があります。様々な課題を“我が事”として捉え、自分の職務範囲を超えて他者や組織に貢献しようとする組織市民行動も見られ、組織・チームの一体感が強い傾向にあります。結果として、風通しのよい組織風土が醸成されたり、業績向上につながったりしています。
従業員が意欲的になる工夫をしている
従業員がモチベーション高く仕事に従事できるよう、様々な工夫をしている点も従業員満足度が高い企業の大きな特徴です。
「働きがいのある会社」のランキング企業でも紹介したように、フィードバックし合う文化や個人ビジョン経営といった周囲からの承認や達成感、成長実感を得られる機会を提供することは、従業員の意欲を引き出す上で効果的な取り組みといえるでしょう。また、適材適所への配属や適切な人事制度も、働く意欲を高める上で重要なポイントです。
コミュニケーションが活発に行われている
従業員満足度が高い企業では、活発なコミュニケーションを生むための取り組みを行っています。「自分の意見をいいやすい」「悩みを相談しやすい」といった風通しのよい職場はポジティブな気持ちを引き出すことにくわえ、ハラスメントの防止にもなります。
お互いをフォローし合う風土・文化が定着すれば、働きやすさが向上します。また、チームや部門を超えた情報交換が活発に行われることで、業務効率化やイノベーション創出につながることも期待できます。
働きやすい環境が整備されている
従業員が快適に働ける職場環境づくりに注力している点も、従業員満足度が高い企業に共通する特徴です。福利厚生の充実や多様な働き方を実現できる制度などにより、従業員のワークライフバランスを向上させています。
働きやすい職場環境では一人ひとりのパフォーマンスが上がりやすくなり、人材定着率が高くなることが期待できます。
従業員満足度調査を定期的に実施している
従業員満足度調査の重要性を理解し、定期的に実施している点も共通する特徴です。
従業員満足度調査は、経営層や人事部門が組織の状態を的確に把握できることに加え、働きがい・働きやすさを高めるため真摯に取り組んでいるというメッセージを従業員に伝える効用もあります。会社と従業員のエンゲージメントを強め、働く人の満足や幸福を生み出しながら成長を続ける企業であるための重要な取り組みといえるでしょう。
従業員満足度に影響する要素とは

従業員満足度を高めるための施策を検討する前に、従業員の満足・不満を生み出す要素を理解しておく必要があります。アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ氏の二要因理論では、満足には「動機付け要因」が影響し、不満には「衛生要因」が関わっているとしています。具体的に見ていきましょう。
満足度に影響する「動機付け要因」
動機付け要因は、やる気やモチベーションを高める要素です。具体的には次の通りです。
- 仕事そのもの
- 達成感
- 周囲からの承認・評価
- 責任
- 昇進
- 成長実感
これらの要素が満たされると、従業員満足度が高くなります。
不満につながる「衛生要因」
不満要因は、満たされないことで不満を生み出すものです。具体的には次のような要素があります。
- 会社の方針や管理・監督
- 監督者・同僚・部下との関係
- 労働条件・作業環境
- 身分
- 保障
- 給与・報酬
これらの要素に問題点があると、満足度がマイナスに働きます。ただし、衛生要因は不満を招くものであって、改善すれば満足度が高まるとは限らない点に注意が必要です。動機付け要因は加点要素、衛生要因は減点要素と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば、動機付け要因がない状態で衛生要因を改善しても、満足度の向上にはつながりません。また、動機付け要因を強化しても、衛生要因に問題がある場合は満足度は高まらないということです。したがって、従業員満足度を高めるには、自社の衛生要因の問題点を解消するとともに、動機付け要因の充足を目指す必要があるのです。
従業員満足度を高めるための施策例

ここでは、動機付け要因・衛生要因に分けて、従業員満足度を高めるための具体的な施策例を紹介します。
動機付け要因を強化して「やりがい」を生み出す施策例4つ
従業員の意欲を高め、やりがいに働きかける施策例として次のような取り組みがあります。
企業理念の浸透を図る
企業理念やビジョンを理解し共感している従業員が多い企業は、一人ひとりの従業員が自律的に行動し、エンゲージメントも強い傾向があります。
企業理念の浸透を図る取り組み例を以下に挙げます。
- 経営理念をまとめた冊子やクレドカードを配布する
- 経営トップからメッセージを発信する
- 研修で経営理念についての理解を深める
- 企業理念とコンピテンシーや個人の目標を連動させて人事評価に組み込む
配属・異動の希望を叶えられる人事制度をつくる
配属・異動は従業員のモチベーションに大きな影響を与えます。個々のパフォーマンスを高められるよう配慮することで、従業員満足度の観点だけでなく業績アップの点でもメリットが期待できます。
具体的な施策例を挙げます。
- 社内フリーエージェント制度を導入する
- 上長の承認がなくても異動できる制度を導入する
- 従業員の希望と適性に配慮した配属・異動の仕組みをつくる
継続的なフィードバックの仕組みをつくる
適切なフィードバックは従業員の意欲を引き出し、より高いパフォーマンスができる状態へと導きます。
具体的には次のような施策があります。
- 定期的に1on1ミーティングを実施する
- ビジネスチャットなどを活用して随時フィードバックする
- パルスサーベイで従業員の状況をこまめに確認してフィードバックする
フィードバックはタイミングや話す内容にしっかり配慮しないと、逆にモチベーション低下につながったり上長・同僚との信頼関係が損なわれたりするため、注意を払う必要があります。事前にフィードバックのやり方を学ぶ研修を行うのも良い方法です。
リスキリングで自己実現やキャリア形成を支援する
リスキリングとは、時代のニーズに即したスキルを習得して専門性を高める取り組みのことです。とくにDX人材の育成が必要な企業や、新たな価値創造を目指す企業が注目している施策であり、従業員にとっても自分自身の価値を高められるという利点があります。
具体的には次のような方法があります。
- e ラーニングで専門知識・技能を習得する
- 集合型研修やオンライン研修で専門知識・技能を習得する
リスキリングについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
リスキリングの導入事例5選~会社の成功事例と導入ステップを紹介
衛生要因を改善して「働きやすさ」を生み出す施策例4つ
従業員の働きやすさに着目した施策例を見ていきましょう。
多様な働き方を実現する制度をつくる
多様な働き方ができることで様々な事情を抱える従業員も働きやすくなり、定着率の向上が期待できます。また、ワークライフバランスが改善されれば、生産性向上にも役立つでしょう。
次のような取り組み例があります。
- テレワークやハイブリッドワークを導入する
- 時短勤務制度を導入する
- フレックスタイム制を導入する
- 休暇制度を充実させる
業務効率化で無駄を削減する
非効率な業務が多いと長時間労働を生むほか、従業員のストレスにつながります。ロスが大きい業務やアナログな業務を見直すことで、業務効率化を図ります。
以下のような施策例があります。
- 会議の時間や準備物を削減する
- アナログ業務のIT化を図る
- 現場の従業員から業務効率化のアイデアを募る
- 業務量の偏りをなくす(人、時期など)
社員同士で褒めあう・感謝するカルチャーを推進する
社員同士が日常的に褒め合ったり感謝を伝えたりする職場では、ポジティブな雰囲気が生まれます。また、承認の欲求が満たされ、会社や仲間とのエンゲージメントが強くなることも期待できます。
以下に施策例を挙げます。
- 社内SNSなどを活用して褒め合う・感謝を伝える文化を定着させる
- ミーティングなどの場で褒め合う・感謝を伝える機会をつくる
- ピアボーナス制度をつくる
コミュニケーションが円滑にできるようにする
コミュニケーションが円滑に行われることで人間関係を良好に保てるほか、業務上のミス低減につながります。とくに在宅勤務が普及している現在は、ツールを活用してコミュニケーションロスを防ぐ工夫が有効です。
具体的には次のような取り組みがあります。
- 社内SNSやチャットツールを活用して遠隔でもコミュニケーションできるようにする
- 交流イベントを実施する
- 社内サークル活動を推進する
従業員満足度調査を実施するときのポイント

従業員満足度調査(ES調査)は自社内で実施するケースと外部に依頼するケースがありますが、失敗を避けるにはいくつか留意すべきことがあります。ここでは重要なポイントを見ていきます。
正しいデータを得られるようにする
自社の状態を正しく把握するには、調査項目を精査して正確な回答を導き出せるように設計することが重要です。通常は次のような項目を設定します。
- 全体満足度
- 領域別満足度
- 仕事内容について
- 組織について
- 職場仲間について
- 待遇面について
領域別満足度では上記のカテゴリをさらに詳細に分けて、様々な角度から自社の課題を抽出できるよう質問項目を設定します。
調査結果を次のアクションにつなげられるようにする
従業員満足度調査を実施したものの、次のアクションにつなげられないという声は少なくありません。要因として多いのは、調査結果の分析ができず、課題を適切に抽出できていないケースです。
基本的な分析手法は、単純集計・クロス集計・相関分析の3つです。単純集計で大まかな傾向をつかみ、クロス集計では男女別・年代別・部門別などの詳細な傾向を分析します。相関分析では、全体満足度に影響を与えている要因を特定することができます。
これらの分析結果をもとに自社の強み・弱みや緊急度・重要度の高い課題を明らかにし、有効性のある施策を検討するという流れで進めていきます。現場の管理層を巻き込みながら施策を検討・実施するのも良い方法です。
フィードバックを適切に行う
従業員満足度調査の結果をどこまで開示すべきか悩む企業も多いようです。しかし、従業員からすると、せっかく調査に協力したのに結果のフィードバックが全くないのは残念なことです。実際、調査結果をオープンにしている企業では、次回以降の調査にも積極的に回答する従業員が多い傾向が見られます。会社全体で従業員満足度の向上に取り組んでいる姿勢を示す上でも、できる限り情報を開示することをおすすめします。
フィードバックでは単に数値を報告するだけでなく、自社の強みや改善すべき点などを言語化し、従業員が前向きに受け止められるように伝えることがポイントです。
PDCAを回せる体制をつくる
従業員満足度調査で重要なことは「正しい回答を得られる調査設計→適切な分析で課題抽出→有効な施策を検討・実施→振り返り」の好循環を生み出すことです。人事部門のリソースが足りない場合は、従業員から有志メンバーを募ってプロジェクト化するのも一案です。
調査結果がスピーディに施策に反映されるようになることで、従業員の関心が高まり、より良い職場づくりに向けて協力的な姿勢を引き出せるようになります。
調査・評価専業「リアルワン」の従業員満足度調査とは

従業員満足度は業績との相関性があることがわかっており、企業価値の向上や離職率の低下といった様々な効果も期待して改善に取り組む企業が多くなっています。一方で、従業員満足度を高める上でファーストステップとなる従業員満足度調査の専門知識がないという声も多く聞かれます。
調査・評価専業のリアルワンでは、高品質な調査設計からネクストアクションにつなげるためのアドバイスまで、専門家の知見を活かした信頼性の高い従業員満足度調査を提供しています。
<リアルワンの特長>
- 確かな理論に基づいた信頼性・妥当性のある調査設計
- 標準項目にくわえ、課題に応じたオリジナル項目の設計も可能
- 組織・人事の専門家としての視点から考察ポイントを提供
- 調査結果の詳細を簡単に集計・分析、ダウンロードできるWeb集計システムを活用
「自社の課題を正しく分析したい」「プロの視点からアドバイスしてほしい」という企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。